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社長、奥様がまた離婚届を取りに行かれました の小説カバー

社長、奥様がまた離婚届を取りに行かれました

南城を支配する冷徹な権力者との結婚。それは、誰もが「政略結婚の犠牲」と蔑む愛なき契約だった。ついに家を追われることになった彼女の前に現れたのは、身重の姿をした彼の「初恋の女性」だ。名門界隈の人々は、無惨に捨てられた正妻の末路を嘲笑おうと、固唾を飲んで事態を注視していた。しかし、悲劇のヒロインを演じるどころか、彼女は不敵な笑みを浮かべて言い放つ。離婚届を求めて役所に日参しているのは自分であり、誰よりもこの縁が切れることを切望しているのは私なのだと。世間はそれを強がりだと決めつけ、夫である彼こそが離婚を待ち望んでいるはずだと信じて疑わなかった。だが、その予想は彼自身の手によって無慈悲に打ち砕かれる。彼がSNSに投稿した「離婚の事実は一切ない。デマには法的措置を講じる」という断固たる声明は、瞬く間に世界を震撼させた。離縁を望む妻と、それを頑なに拒む夫。冷酷な支配者が執着の果てに求めている真意とは一体何なのか。予測不能な愛の攻防が今、幕を開ける。
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美月の脇を固めていた二人の若い男たちは、とっくに腰を抜かしていた。「伊東家の御曹司」という肩書きを聞いた瞬間、恐怖でがたがたと震え上がる。

美月は伏し目がちに、腹の底から湧き上がる怒りを噛み殺した。だが、ここで引くわけにはいかない。彼女は努めて冷静さを装い、男たちに命じた。「伊東さんがこれほどご執心なんだもの。あんたたち、しっかりと実演して差し上げなさい。せっかくの興を削がないようにね」

言い終えると、美月は切れ長の瞳を妖艶に細め、直人に向かって流し目を送った。「伊東さん、ちょうどいい機会だから勉強していったら?私の彼氏たちは、あなたと違ってとっても優しいのよ。ベッドの上で軍隊仕込みの野蛮な真似はやめてよね。私はともかく、あのか弱くて儚げな幼馴染ちゃんに、そんな激しいことして大丈夫なの?」

直人は美月を一瞥しただけで、何も答えなかった。ソファに深く沈み込み、タバコに火をつけた。その表情が冷淡なのか、別の感情なのかは読み取れない。吐き出された紫煙が指に絡みつき、彼の顔を霞の中へと隠していく。

美月は、彼のその態度が気に食わなかった。まるで被害者のような顔をしている。だが、血液すら凍りついているようなこの男を、一体誰が傷つけられるというのか。

得体の知れない苛立ちがこみ上げてくる。美月は当てつけのように、傍らの2人を叱咤した。「何をぼーっとしているの!伊東さんが見たいなら、堂々と見せつけてやりなさい。しっかり 手本を見せてあげなさい」

言い放つと同時に、美月は自身のドレスの肩紐に手をかけ、強引に引きずり下ろした。

隣にいた若い男は完全に怯えきっていた。助けを求めるように直人の方を向いたが、射殺すような視線を受け、条件反射で目をきつく閉じる。

「美月さん、俺……やっぱり外に出ましょうよ……」

そう言って床に散らばった服を拾おうとかがんだが、美月の鋭い眼光に射抜かれ、石のように固まった。

「何を慌てているの?」

美月が直人を睨み返そうとした瞬間、軍用のオリーブ色のコートが飛んできた。それは正確に彼女を捉え、頭からすっぽりと覆い隠した。払いのけようとした美月の体は、次の瞬間には宙に浮いていた。強靭な腕が、彼女を俵のように担ぎ上げたのだ。

「伊東直人!何すんのよ!!」

視界を奪われた美月には、今の直人の表情は見えない。その顔は無表情に見えるが、瞳の奥は地獄から這い戻った羅刹のように暗く、深く沈殿していた。

彼は片手で軽々と美月を担ぎ上げながら、もう一方の手の人差し指と中指に挟んでいた吸いかけのタバコで、 そして、容赦なく男の背中にジュッと押し付けた。同時に、もう片方の男の膝を容赦なく蹴り飛ばした。

押し殺したような悲鳴が2つ重なる。入口で様子を伺っていた田中大輔は、事態の悪化を恐れて慌てて飛び込んできた。

「い、伊東さん、待ってください!暴力はやめて!話だけは!」

「出て行け!」 獣のような唸り声に、大輔は完全に萎縮した。美月が荷物のように運び出され、ジープの後部座席に放り込まれるのを、ただ指をくわえて見送ることしかできなかった。

車は猛スピードで夜の街を駆け抜ける。まるで主人の怒りを物語っているかのようだった。やがて自宅に到着し、真っ赤なシーツが敷かれたベッドに放り投げられた時、美月の酔いはようやく大半が覚めた。

目に入ったのは、結婚してから一度も使われたことのない寝室の天井だった。なんとも皮肉で哀れな話だ。結婚して3年、決して仮面夫婦というわけではない。直人が任務から戻れば、どんなに喧嘩をしていても、ベッドの上での相性だけは悪くなかった。ただ、互いに自室を持ち、この「夫婦の寝室」だけは完全な飾り物と化していたのだ。

だが今夜の直人は、何かに取り憑かれたかのように、美月をこの部屋へと連れ込んだ。

「直人!一体何がしたいのよ?」 起き上がろうとした美月を、直人が覆いかぶさるようにして制圧した。その瞳は血走っていた。

「お前を、抱く!」

奥歯を噛み締めながら言葉を吐き出すと、直人は美月のドレスに手をかけた。軽い力で引いただけで、布地は悲鳴を上げて引き裂かれ、哀れな布切れと化した。

「高橋美月。俺じゃ優しさが足りないって?」

直人は冷ややかな笑みを浮かべ、美月の耳たぶに歯を立てて威嚇するように甘噛みした。「なら今夜は、俺なりの『優しさ』ってやつをたっぷりと教えてやるよ」

美月は身動きが取れなかった。必死に抵抗してみるが、それは檻から逃げるどころか、互いの体をより密着させるだけだった。直人は罰を与えるように耳元を舐める。その仕草は優美ですらあったが、声だけは氷の破片のように鋭く冷たかった。

「高橋美月、忘れるなよ。お前は俺の妻だ」

その時、唐突に携帯の着信音が鳴り響いた。直人の端末だ。無視するつもりだったようだが、ズボンのポケットに入れたままでは邪魔になる。どうせ脱ぐのだからと苛立ちながら取り出した彼は、画面に表示された名前を見た瞬間、その表情を明らかに和らげた。美月はそれを見逃さなかった。

美月は自嘲気味に笑い、画面を盗み見る。案の定、あの「幼馴染ちゃん」からだ。

「ハッ……あんたこそ忘れんじゃないわよ。自分には妻がいるってことをね!」

直人が視線を美月に戻す。彼が妻の意図を測りかねている隙に、美月は素早くその手から携帯を奪い取り、通話ボタンを押していた。

『伊藤芽衣』

電話の向こうの相手は、聞こえてきたのが直人ではなく美月の声だったことに驚き、数秒間言葉を失ったようだ。

『み、美月……さん?』

美月は直人をちらりと見た。彼が止めようとしないのを確認すると、さらに悪意たっぷりの笑みを深める。『ええ、私よ。ごめんなさいねえ。今、直人と取り込み中なの。久しぶりだから燃え上がっちゃって。彼、今ちょっと口が塞がってて電話に出られないみたいなの』

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