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社長、奥様がまた離婚届を取りに行かれました の小説カバー

社長、奥様がまた離婚届を取りに行かれました

南城を支配する冷徹な権力者との結婚。それは、誰もが「政略結婚の犠牲」と蔑む愛なき契約だった。ついに家を追われることになった彼女の前に現れたのは、身重の姿をした彼の「初恋の女性」だ。名門界隈の人々は、無惨に捨てられた正妻の末路を嘲笑おうと、固唾を飲んで事態を注視していた。しかし、悲劇のヒロインを演じるどころか、彼女は不敵な笑みを浮かべて言い放つ。離婚届を求めて役所に日参しているのは自分であり、誰よりもこの縁が切れることを切望しているのは私なのだと。世間はそれを強がりだと決めつけ、夫である彼こそが離婚を待ち望んでいるはずだと信じて疑わなかった。だが、その予想は彼自身の手によって無慈悲に打ち砕かれる。彼がSNSに投稿した「離婚の事実は一切ない。デマには法的措置を講じる」という断固たる声明は、瞬く間に世界を震撼させた。離縁を望む妻と、それを頑なに拒む夫。冷酷な支配者が執着の果てに求めている真意とは一体何なのか。予測不能な愛の攻防が今、幕を開ける。
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高橋美月の言葉にキレたのかビビったのか、電話の向こうの藤本芽衣は言葉を詰まらせていた。美月がさらに暴言を吐こうとしたその時、伊東直人にスマホを取り上げられた。次の瞬間、嵐のようなキスが降ってきた。

「俺の優しさを味わわせてやる」なんて言っていたが、その実、直人はたっぷりと時間をかけて美月を攻め抜いた。結局、美月が泣いて許しを請うまで解放してくれなかった。

疲れ果てて泥のように眠り、ふと気づくと隣はもう空っぽだった。次に目が覚めたのは翌日のことだ。

この新しくもあり古くもあるベッドに横たわり、数分ほどぼんやりとする。分厚いカーテンが閉め切られているせいで、今が真昼間なのか夕暮れ時なのかも分からない。

昨夜の激しい情事の余韻が残る体を引きずり、気だるげにスマホを探り当てる。画面を点けた次の瞬間、芽衣のタイムラインが目に飛び込んできた。

写真には、キッチンで料理をする男の背中が写っている。直人を知る人間なら、誰が見ても一発で彼だと分かる背中だ。

パァン!

先月買ったばかりのスマホが容赦なく壁に叩きつけられる。幸い頑丈な機種だったらしく、無傷で済んだようだ。

「あのクソぶりっ子!ドクズ男が!」

美月は腹の底から絞り出すような声で罵り、歯ぎしりしながらベッドを出ようとした。

掛け布団を跳ね除けて立ち上がると、全身が鉛のように重く、あちこちが痛む。これも全部あのクズ男のせいだというのに、当の本人はスッキリした顔で愛人の飯を作りに行っているのか?

考えれば考えるほど腹が立ってくる!

芽衣のあの投稿は、明らかに美月への宣戦布告だった。

その時、控えめなノックの音が響いた。

続いて家政婦の声がする。

「奥様、お目覚めでしょうか? 旦那様から酔い覚ましのスープを作るよう言付かっております」

直人は愛人のところへ行っているくせに、家政婦には白々しくスープを用意させるなんて。美月は込み上げる怒りをどうにか抑え込んだ。

「もう平気だから、いらないわ」

しかし家政婦は立ち去ろうとせず、さらに優しげな声で続ける。「奥様、旦那様はお薬も用意されておりました。先にお召し上がりになりますか?」

美月はドアを開け、怪訝な顔で家政婦に尋ねた。「何の薬?」

「避妊薬です」

その一言が、美月の怒りに油を注いだ! もう我慢ならない!これ以上黙っていたら礼儀に反するレベルだ!

結婚して3年、行為自体は初めてではない。終わった後はいつも自分で薬を飲んでいたし、美月自身もまだ子供を作るつもりはなかった。

だが、自分が望まないのと、直人から「飲め」と買い与えられるのとでは話が別だ!

「飲むもんか!あのクソ男に伝えて。妊娠してやるってね!10人でも8人でも産んで、アイツをうんざりさせてやる!」

言い捨てると、美月はバタンとドアを閉めた!

家政婦の気配が消えると、美月は部屋中をひっくり返して薬を探し出した。体は自分のものだ。薬を飲まずに意地を張ったところで、あの男への当てつけにもならない。

柔らかいベッドに再び潜り込み、何度も寝返りを打つ。夢の世界へ落ちる直前まで、心の中で直人を罵り続けた。今回彼が急に部隊から戻ってきたのは、あの幼馴染に何かあったからではないか?そうでなければ、あんなに慌てて帰ってくるはずがない。

美月の勘は当たっていた。直人の帰還は確かに芽衣のためだったのだ。部隊を出てすぐに美月に何度か電話をかけたが出ず、調べてみると最近また若いアイドルを囲っているらしいと知った。そこでまずはバーへ向かって美月を捕獲し、「お仕置き」をしてから芽衣の元へ向かったというわけだ。

美月が布団の中で悪態をついている頃、直人は芽衣を連れて病院にいた。

「少し貧血気味ですが、他は順調ですよ。こちらはご主人様ですね?」

医師の不意の問いかけに、芽衣は言葉に詰まり、気まずそうな顔をした。

すると直人が一歩前に出て尋ねた。「先生、今後の生活で注意すべき点はありますか? 避けた方がいい食べ物とか」

肯定も否定もしないその態度は、芽衣の体面を守るためのものだった。

「体を冷やすもの、例えばカニなどは控えた方がいいですね。それ以外は食べたいものを食べて構いません。つわりもあるでしょうし、食べられる時に食べておくのが一番です」

「分かりました。ありがとうございます」

産婦人科を出て車に乗り込むと、直人はバックミラー越しに芽衣を見た。彼女はおそるおそる自身のお腹を撫でている。その顔には、母になる喜びが溢れていた。直人は小さく息を吐き出した。

「芽衣」

「直人お兄ちゃん、この子の心臓の音が聞こえた気がするの」 芽衣はキラキラと輝く瞳で直人を見つめる。その純粋な眼差しに、直人はこれから告げるべき言葉を躊躇った。

「芽衣、その子は諦めるんだ」

「嫌!」芽衣はきっぱりと拒絶し、その目には瞬く間に涙が溜まった。「直人お兄ちゃん、産みたいの。お願い、助けて。諦めろなんて言わないで。 一人でもちゃんと育ててみせるから……」

「産みたいって言うけど、私の許可は取ったのかしら?」

不意に響いた美月の声に、芽衣と直人はハッとした。街角には、いつの間にか美月が立っていた。彼女は両手を胸に組み、まるで他人事のように眺めているように見えた。だが、口にした言葉は全く違った——強い態度で、まるで「この人は私のもの」と宣言するような、強気な一言だった。

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