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彼の許しはもう手遅れ の小説カバー

彼の許しはもう手遅れ

最愛の婚約者・樹から突きつけられたのは、双子の妹である杏奈への臓器提供と婚約破棄の書類だった。「死ぬ前に一度だけでいいから彼と結婚したい」という妹の願いを叶えるため、彼は私を捨て、私の体の一部を求めてきたのだ。両親もまた、かつて父に腎臓を捧げた「英雄」である杏奈を救えと私を責め立て、従わぬなら縁を切ると冷酷に言い放つ。しかし、家族は真実を知らない。五年前、杏奈の策略によって手柄を奪われただけで、実際に父を救ったのは私であること。そして、すでに片方の腎臓を失っている私の体は、不治の病により余命数ヶ月であることを。かつて永遠を誓い合った男から「妹か、お前か」と究極の選択を迫られたとき、絶望の果てに私の心は奇妙な静寂に包まれた。すべてを諦めた私は、自らの命を明け渡す決意を固める。たとえ、彼らが真実を知って後悔する日が来たとしても、私の許しはもう手遅れなのだから。
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東雲 暁詩 POV:

「嫌よ」

その言葉は静かだったが、私たちの間に重く、そして決定的に響いた。

東雲家の誰もが、私が腎臓を提供すると期待していた。

それが私の義務であり、贖罪だと考えていた。

私に腎臓が一つしか残っていないことを、彼らは知らなかった。

その秘密は、私の腹の底で冷たく硬い石になっていた。

私が父の命を密かに救い、その手柄も、栄光も、それに伴うすべての愛も、杏奈に盗まれて以来、五年もの間、たった一人で抱えてきた真実だった。

樹の顔が歪んだ。

まだ怒りではない。

それは深く、深刻な失望。最後の希望が今まさに消え去った男の顔だった。

家族の反応は、それよりずっと容赦なかった。

「お前が断ったと樹君から聞いたわ。私たちがどれだけお前に尽くしてきたと思ってるの!」

母が金切り声を上げた。普段は冷静なその顔が、怒りで歪んでいた。

「杏奈はお父様の命を救ったのよ!自分の体の一部を差し出して!それなのに、お前はあの子に同じこともしてやれないの?この恩知らずで、自分勝手な子!」

真実を伝えようと口を開きかけたが、彼らは聞く耳を持たなかった。

父は険しい顔で母の隣に立っていた。

彼の体内で今も機能している、私が彼に与えた腎臓は、彼らが見ようとしない犠牲の、静かな証だった。

「出ていけ」

父が言った。その声は平坦で、温かみの欠片もなかった。

「家族の一員でいる気がないなら、この家にいる資格はない」

私は追い出された。

まただ。

その夜遅く、樹が空っぽのアパートの階段で私を見つけた。

夜の冷気が骨身に染みたが、ほとんど感じなかった。

私はもう、麻痺していた。

「選べ、暁詩」

彼は疲れ果てた声で言った。

もはや約束も、愛の告白もなかった。

ただ、生々しく醜い最後通牒だけがあった。

「妹か、お前か」

奇妙なほどの穏やかな感覚が、私を包み込んだ。

私は死にかけている。

私の体を静かに蝕んできた珍しい変性疾患は、進行を早めていた。

医者からは数ヶ月、もって一年だと。

もう、どうだっていいじゃないか。

「わかった」

私は、自分の未来と同じくらい空っぽな声で言った。

「そうするわ」

樹の頭が勢いよく上がった。

驚き、そして圧倒的な安堵の波が彼の表情を洗い流した。

「本当か?暁詩、本気で言ってるのか?」

彼は婚約破棄の書類を粉々に引き裂き、私たちの壊れた約束の紙吹雪を地面に舞わせた。

「行こう」

彼は私を立ち上がらせながら、切迫した様子で言った。

「病院へ。今すぐ」

両親は既に病院にいて、歩哨のように杏奈のベッドの周りをうろついていた。

私を見ると、彼らの顔には疑念と必死の希望が入り混じっていた。

「同意書にサインしろ」

父がクリップボードを私に突きつけながら要求した。

彼の指は震えていた。

彼は私を信用していなかった。

私が土壇場で裏切ると思っていたのだ。

私は一言も読まずに自分の名前をサインした。

その時になってようやく、彼らの肩から緊張が解け始めた。

「ようやく大人になったな、暁詩」

父は、ぎこちなく、見慣れない愛情を込めて私の肩を叩いた。

「正しいことをするんだ。心配するな、お母様と弁護士にはもう話してある。遺産のほとんどは、もちろん犠牲になった杏奈のものになるが、お前のこともちゃんと面倒見るから」

「いらないわ」

私は静かに言った。

「全部、あの子にあげて」

母は鼻で笑った。

「馬鹿なこと言わないで。何を言ってるの?」

私は答えなかった。

めまいの波が押し寄せ、明るく照らされた病院の廊下の輪郭がぼやけた。

私の心は五年前、別の病院、別の手術へと飛んだ。

杏奈が私の朝のコーヒーに薬を盛り、父の移植手術の日に寝過ごさせたあの日。

彼女が私の代わりに行った、と彼らは言った。

彼女は英雄として現れ、腹部には手術でわざと作られた、見せかけの傷跡をその犠牲の証としていた。

数時間後、私が予約されていた安っぽいビジネスホテルの一室で、ぼんやりと混乱しながら目を覚ましたときには、物語は既に固まっていた。

私は、死にゆく父を最も必要とするときに見捨てた、自己中心的な娘だった。

彼女は、何年にもわたって、じわじわと、陰湿に、彼らを私に敵対させた。

私が差し伸べたどんな小さな親切も、注目を集めるための策略だと捻じ曲げられた。

どんな功績も、過小評価された。

私は自分の家族の中で幽霊となり、決して起こらなかった裏切りを常に思い出させる、失望の存在となった。

そして今、彼らは皆、彼女の周りに集まっている。

母は彼女の髪を撫で、父は彼女の手を握り、樹は、私の樹は、かつては私だけに向けられていた優しさで彼女を見つめている。

私は部屋の隅に一人で立っていた。

部外者であり、目的を達成するための手段。

彼らは私を見ていない。

彼らはただ、私が運ぶ臓器、彼らが心から愛する娘を救うための鍵しか見ていなかった。

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