フォローする
共有
氷の帝王の執着:逃げられない契約結婚 の小説カバー

氷の帝王の執着:逃げられない契約結婚

切迫流産で入院した主人公は、婚約者である蓮の帰国を信じて待っていた。しかし再会した妹の雅から、自分を薬漬けにし見知らぬ男に抱かせたのは彼女の罠だったと告げられる。さらに雅は自作自演で被害者を装い、蓮は事実を確かめぬまま「目に見えるものしか信じない」と婚約を破棄した。絶望し雨の路上へ飛び出した彼女は、トラックに撥ねられお腹の子と共に命を落としかける。裏切りへの憎悪を胸に五年後、どん底から這い上がった彼女の前に、日本を支配する細川財閥のCEO・暁が現れる。命を救った少年の父である彼から結婚を迫られるが、今の彼女が望むのは誰の庇護でもない。自分から全てを奪った者たちを地獄へ突き落とすため、彼女は冷徹な復讐劇を開始する。
共有

3

あれから五年。

街に流れる曲も、人々が画面越しに追うドラマも、すっかり入れ替わっていた。それでも——あの豪雨の夜のことは、まだ昨日のように凛の骨の奥に残っている。

東京六本木。

けばけばしいネオンが夜の闇を切り裂く街。

北野凛は安物のサングラスをかけくたびれた私服に身を包み一台のロケバスから降り立った。

マネージャーの加藤リナが苛立った様子で彼女を急かす。

「ぐずぐずしないで! 有名な監督に会わせてあげるって言ってるでしょ」

リナに連れられ凛は重低音が腹に響く地下のクラブへと足を踏み入れた。

リナは慣れた様子で人混みをかき分け店の奥にある薄暗い廊下へと凛を導く。

廊下の突き当たりには錆びついた鉄の扉があった。

リナは「ここで待ってて」とだけ言い凛に入るよう促した。

凛が黴臭い部屋に一歩足を踏み入れたその瞬間。

背後から強い力で突き飛ばされた。

よろめきながら暗闇の中に倒れ込む。

直後ゴンッという重い音と共に鉄の扉が外から施錠された。

「リナさん! どういうこと!」

凛はすぐに立ち上がり冷たい鉄の扉を力強く叩いた。だが返事はない。

凛は自分を落ち着かせようと深く息を吸った。耳を扉に押し当てるとリナが誰かと電話で話している声が微かに聞こえてきた。

「はい雅様、おっしゃる通り倉庫に閉じ込めました、これで今夜のオーディションには出られません」

北野雅。

その名を聞いた瞬間凛のサングラスの奥の瞳に氷のように冷たい殺意が宿った。

この五年間心の奥底に押し殺してきた憎悪が静かに鎌首をもたげる。

やがて廊下の足音は遠ざかっていった。

助けは来ない。凛はサングラスを外し自力での脱出を決意した。

ポケットからスマートフォンを取り出すが地下の倉庫では電波が届かない。

「圏外」の非情な文字が浮かび上がるだけだった。

スマートフォンのライトを点け周囲を照らす。

そこは打ち捨てられた酒の木箱やガラクタが山積みにされた行き止まりの空間だった。

足元の空き瓶を蹴飛ばしながら凛は他の出口や通気口がないかを探す。その動きにはもはや五年前の無力な令嬢の面影はなかった。

不意にライトの光が隅に積まれた古い帆布を捉えた。

その下からごそごそと何か微かな物音がする。

凛は瞬時に身構え近くに転がっていた折れた木の棒を手に取った。

足音を忍ばせ帆布に近づく。

一気に帆布をめくり上げた。

だがそこにいたのはネズミではなかった。

埃まみれの高級そうなスーツを着た小さな男の子が体を丸めて震えていた。

男の子――リクは木の棒を構えた凛を見て怯えた子鹿のような瞳で体を強張らせる。必死に壁際へとにじり寄るが声は一切発しない。

凛は一瞬動きを止めすぐに手にしていた木の棒を放り投げた。

そして彼を驚かせないようにゆっくりとしゃがみ込む。

「坊やどうしてこんなところに?」

できる限り優しい声色で問いかけた。

リクは固く唇を結んだままただ首を横に振るだけだった。その瞳には大人に対する強い警戒心が浮かんでいる。

凛はリクの顔色が異常に赤いことに気がついた。

彼の額に触れようと手を伸ばすがリクはびくりと体を引いてそれを避ける。

凛は無理強いせず安全な距離を保ったままふと優しい日本の童謡を口ずさみ始めた。

聞き覚えのある穏やかなメロディーにリクの体の震えが奇跡のように少しだけ和らいだ。彼は恐る恐る顔を上げ凛のことを見つめる。

その隙に凛はゆっくりと近づきそっとリクの額に手を当てた。

指先に伝わってきた燃えるような熱さ。

凛は息を呑んだ。この子はひどい高熱を出している。

「大丈夫よ」

凛は自分の着ていた安物のジャケットを脱ぐとわずかに抵抗するリクを構わずその中に包み込み強く抱きしめた。

凛の腕の温かさとふわりと香る優しい匂いにリクは次第に体の力を抜いていった。そして小さな手で凛の服の裾をぎゅっと握りしめる。

凛はリクを抱き上げたまま立ち上がった。

その瞳には鋼のような決意が宿っていた。

この子をこんな場所で死なせるわけにはいかない。

スマートフォンのライトで再び倉庫の中をくまなく照らす。

やがて地上から三メートルほどの高さに埃を被った小さな通気窓があるのを見つけた。

腕の中で苦しそうに息をするリクを見下ろし凛は固く奥歯を噛み締めた。

極めて危険な賭けになる。

だがやるしかなかった。

続けて視聴する!
物語はいよいよ佳境へ!アプリに切り替えて続きを読む
全エピソードをロック解除
公式サイトを開く

おすすめの作品

偽令嬢との浮気現場に遭遇したので、私は最高権力者に抱かれることにした。 の小説カバー
9.6
一族から受けた九十九回もの過酷な折檻を耐え抜き、ついに自らの意志で結婚する権利を勝ち取ったヒロイン。満身創痍の体を引きずりながら、この喜びを最愛の恋人に分かち合おうと彼の元へ向かう。しかし、そこで彼女を待ち受けていたのは、かつて自分の正当な身分を奪った「偽の令嬢」に対し、熱烈なプロポーズを捧げる恋人の裏切りだった。かつて「君以外とは結婚しない」と誓ったはずの男は、偽令嬢への愛は本能だと語り、ヒロインとの関係を単なる責任に過ぎないと切り捨てる。信じていた絆がただの幻想であったことを悟り、絶望の淵に立たされた彼女は、ある重大な決断を下す。それは、かつて拒絶していた実家からの提案を受け入れることだった。彼女は震える手で電話をかけ、冷徹に告げる。「御曹司との政略結婚、お受けします」と。愛に裏切られ、全てを失った女が、国内最高権力者の胸に飛び込むことで始まる復讐と逆転の物語。偽りの愛を捨て、彼女は新たな運命へと踏み出す。
冷血御曹司の溺愛包囲網からは絶対に逃げられない。 の小説カバー
9.0
信じていた真実の愛が残酷な嘘だと知った時、榊原詩織の運命は一変した。婚約者と実の妹は裏で繋がり、彼女の財産を奪おうと画策していたのだ。裏切りの果てに純潔を失った詩織は、復讐を果たすべく、残忍で気まぐれと恐れられる長谷川彰人との婚姻契約に踏み切る。周囲は彼女の破滅を予想したが、聞こえてくるのは彰人からの過剰なまでの溺愛ぶりだった。妹が詩織の過去を罵れば、彰人はその相手が自分であると告げて一蹴し、元婚約者が詩織を見下せば、最高級の宝石を玩具として与え、彼女の価値を証明してみせる。どんな窮地からも守ってくれる彼の献身を、詩織は契約上の演技だと言い聞かせていた。しかし、契約期間が満了し、自由の身になろうとした彼女を待っていたのは、冷徹なはずの男による強引な拘束だった。寝室に閉じ込められ、夜通し愛を刻み込まれた詩織が契約違反を訴えると、彰人は狂気すら孕んだ熱い視線で彼女を見つめる。彼は最初から、一時的な協力関係など望んでいなかった。指先で彼女の唇を辿りながら、彰人は「終身契約」への更新を執拗に迫るのだった。
余命三ヶ月の妻、冷酷な総帥の溺愛に甘える の小説カバー
8.5
末期の胃がんで余命三ヶ月を宣告された静。絶望に打ちひしがれて帰宅した彼女を待っていたのは、怪我を捏造した義妹を盲信し、謝罪を強要する夫と養父母の非情な仕打ちだった。夫に突き飛ばされ、養母からは熱湯を浴びせられ土下座を迫られる静。この六年間、家族のために献身的に尽くしてきたが、誰一人として彼女の誕生日すら覚えていなかった。愛も絆も幻想だったと悟った静は、冷ややかな笑みを浮かべて夫に離婚届を叩きつける。月曜の朝に役所へ来るよう告げ、驚愕する養父母に対しても井上家との絶縁を冷徹に宣言した。すべてを捨て、激しい雨の中で倒れた彼女を救い上げたのは、強大な権力を有する鷹司家の男だった。死を目前にした天才研究員である静は、彼の差し出した手を取り、自分を無価値なゴミのように扱った者たちへの壮絶な復讐を開始する。残されたわずかな時間の中で、彼女は冷酷な総帥の深い寵愛を受けながら、かつての家族を破滅へと追い込んでいく。
彼のポーンから女王へ の小説カバー
7.9
名門政治家一家の令嬢でありながら、反骨心溢れるジャーナリストとして生きる神宮寺詩音。彼女が唯一安らぎを覚えたのは、冷徹な実業家・一条怜との密やかな情事だった。しかし、彼が詩音を求めた真の目的は、恩人の娘である白石華恋への義理を果たすため、詩音を「飼い慣らす」ことに過ぎなかった。怜は常に華恋を最優先し、詩音が危機に陥っても冷酷に見捨て、ついには「教育」と称して彼女を留置場へ送り込み、暴行を黙認する。決定的な別れは、凄惨な交通事故の瞬間に訪れた。怜は迷わず華恋をその身で庇い、詩音だけを衝撃の渦中に置き去りにしたのだ。自分は愛される存在ではなく、単なる「負債」だったと悟った詩音は、病院のベッドで復讐と決別を誓う。彼女は怜の完璧な世界を崩壊させるべく、自分に平穏を約束する別の億万長者からの求婚を受け入れた。かつての愛を燃え殻に変え、彼女は「駒」から「女王」へと這い上がるための新たな人生を歩み始める。
子を奪われた令嬢は、黒い幼馴染と復讐を誓う の小説カバー
9.4
神田財閥の令嬢であることを隠し、真実の愛を求めてIT社長と結婚した私。しかし、夫が愛していたのは幼馴染の女優だった。彼女のスキャンダルを隠蔽するため、夫は私に身代わりを強要し、挙句にはお腹の子の中絶を命じる。拒絶した私を待っていたのは、義母による過酷な地下室への監禁だった。灼熱の闇の中で愛児を失い、絶望の底に突き落とされた私は、復讐の鬼と化す。病院で目覚めた私は離婚を決意し、封印していた実家の力を解放するため電話を手に取った。神田グループの真の後継者として、冷酷な裏切り者たちを地獄へ叩き落とす反撃が今始まる。
彼の身代わりの億万長者の秘密帝国 の小説カバー
9.3
無名のミュージシャンだった神谷蓮を、5年の歳月をかけてIT業界の覇者へと押し上げたのは、恋人である私だった。世間には貧しい女を装いながら、裏では彼の帝国を支えるエンジェル投資家として君臨してきたのだ。しかし、成功を収めた蓮が連れてきたのは、私に酷似した過去の女、片桐玲奈だった。玲奈は私の生活を侵食し、蓮の寵愛を奪っていく。私が抵抗を試みると、蓮は豹変した。彼は私を拉致して地下オークションの競売品として晒し、絶望の淵に突き落とした後、救世主を演じて私を支配下に置こうとしたのだ。さらに、彼は玲奈に対し「遥は君の身代わりに過ぎない」と冷酷に言い放つ。蓮は私が自分に依存していると信じて疑わないが、その傲慢さが命取りとなる。彼が知らない間に離婚手続きは完了しており、私は真の協力者である桔平へ連絡を入れた。「準備は整いました。結婚しましょう」。すべてを失うのは、私ではなく彼の方だ。真の力を持つ私の、静かな逆襲が幕を開ける。