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パパはいらない、二人で の小説カバー

パパはいらない、二人で

七年にわたる契約結婚の果てに、夫が待ち望んでいたのは初恋の女性の帰国だった。彼女が戻った途端、夫は実の娘に対して表面的な優しさを見せ始めるが、その口から漏れるのは彼女の連れ子の名前ばかり。娘は父親を「パパ」と呼ぶことさえ許されず、冷遇される日々を過ごしていた。そんな悲しみの中でも、娘は健気に「パパになってくれるチャンスをあげる」と伝え、自分の誕生日を心待ちにする。しかし当日、夫は愛娘を無視し、初恋の相手の息子のために盛大なパーティーを開いていた。画面越しに映し出された、まるで本当の家族のように寄り添う三人の姿。その残酷な光景を目にした娘は、静かに涙を流しながら「ママ、もうパパはいらない。二人でこの家を出よう」と告げる。愛する我が子の悲痛な決断を耳にした私は、これまでのすべてを捨て、娘と共に海外へと旅立つことを固く決意した。平穏な二人だけの生活を取り戻すために、未練を断ち切り、新たな一歩を踏み出す。
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浅沼杏梨 POV:

美羽を幼稚園に送り届けた後, 私はまっすぐ法律事務所に向かった.

弁護士のデスクには, 七年前に陽生が用意した離婚協議書が置かれていた. 薄い紙一枚が, 私たちの結婚のすべてを物語っていた.

「この協議書は, まだ有効ですか? 」私の声は, 驚くほど冷静だった.

弁護士は眼鏡の奥から私を見た. 「はい. 署名があれば, いつでも有効です. 」

私たちの結婚は, 最初から「条件付き」だった. 陽生が春奈への当てつけで私を選んだように, この離婚協議書も, 彼がいつでも私を捨てられるように用意されていたのだ. 彼の署名は, 七年前と変わらず, 力強くそこにあった.

私は震える手でペンを取り, 自分の名前を書き込んだ. 躊躇いはなかった. むしろ, 解放されたような感覚さえ覚えた.

「これで, お願いします. 」私は弁護士に書類を渡し, 静かに言った.

弁護士は書類を受け取り, 「承知いたしました. ご依頼通り, 手続きを進めます. 」と答えた.

「書類の送付先は, 現在の住所でお願いします. ただし, 私たちが引っ越す可能性もあるので, その際は改めて連絡します. 」

唇を噛み締め, 膝の震えを必死で抑えた. 目頭が熱くなったが, 泣くものかと思った.

私は陽生を深く愛していた. この結婚を, なんとか本当の家族にしたくて, ずっと努力してきた. しかし, 彼の冷たい態度は, 私の心に少しずつヒビを入れていった.

そして, 春奈の帰国. それは, 私にとって最後の希望を打ち砕くものだった. 私は, 陽生にとっての私の役割が, もう終わったのだと悟った.

その日の午後, 私はショッピングモールで買い物をしていた. ふと見ると, 陽生がいた. 隣には, 春奈とその息子がいた.

春奈は相変わらず美しく, 陽生の隣で輝いていた. 陽生は, 春奈に優しい目を向けていた. あんな顔, 私には見せたことがない.

そして, 陽生は春奈の息子を抱き上げていた. その目に宿る慈愛は, 美羽に向けられたことのないものだった.

私がずっと夢見ていた, 陽生と美羽が手を取り合う家族の光景. それが, 今, 別の女性と別の子供とで実現されていた.

私はその場に立ち尽くし, 涙がとめどなく溢れた. これ以上は耐えられなかった. 彼らに気付かれないよう, そっとその場を後にした.

家に帰ると, 私はすぐに履歴書を更新し, 海外の企業に求人メールを送った. 新しい人生を始める準備を始めた.

翌日, 私は辞職願を携え, 会社に向かった. この会社は, 陽生と出会った場所だ.

結婚後, 私は優秀なインテリアデザイナーとしての道を諦め, 陽生の秘書から一般社員へと降格されていた.

淡々と退職手続きを済ませ, 私物を片付けていた時だった.

会社のロビーが騒がしくなった. 陽生と春奈が, 社員たちに囲まれて入ってきた.

春奈は完璧なビジネススーツに身を包み, 自信に満ち溢れていた. 陽生は彼女の隣で, まるで誇らしげな夫のように振る舞っていた.

彼の視線は, 春奈から離れることがなかった. 私の存在など, 最初から彼の視野に入っていなかったかのように.

私の心臓が, 鉛のように重くなった.

陽生と春奈は, 私の目の前で立ち止まった. 部長が嬉しそうに言った. 「浅沼さん, 大滝さんがあなたの後任となり, あなたは別の部署に異動になります. 」

陽生は部長の言葉を否定しなかった. 彼は春奈を, 私の後任として受け入れたのだ.

私は痛みで拳を握りしめた. 彼の名前を呼びたかったが, 彼の冷たい視線が私を止めた.

陽生は冷酷な声で言った. 「公私混同はしてほしくない. 大滝さんの方が, このポジションに適任だ. そして, 私の人生にも. 」

私の心は完全に打ち砕かれた. しかし, 私は感情を表に出さなかった. 震える手で春奈と握手し, 笑顔さえ見せた.

陽生は満足そうにその光景を見ていた. 彼の目に宿る春奈への優しい光が, 私を深く傷つけた.

愛されていることと, そうでないことの差は, これほどまでに残酷なものなのか. 私はもう, 彼に何も期待していなかった.

その夜, 春奈が入社パーティを開くと言ったが, 私は辞退した.

「ごめんなさい, 娘を迎えに行かなくてはならないので. 」

春奈はわざとらしく心配そうに言った. 「あら, 上杉秘書も大変ね. 上杉社長にお願いしたらどうかしら? 彼はきっと喜んでくれるわ. 」

私は冷たく答えた. 「私には, 夫なんていないわ. 」

私の胸が, チクリと痛んだ.

春奈はすぐに表情を取り繕い, 「あら, ごめんなさい. でも, せっかくだから, 美羽ちゃんも連れていらっしゃらない? うちの蓮と遊べるわよ. 」

その時, 美羽が突然ロビーに現れた. 「ママ! 」

私は驚いた. 陽生が美羽の幼稚園を知っているはずがない.

陽生も美羽の姿に気付き, 驚いた表情をしたが, すぐに視線を春奈に向けた.

春奈は陽生に尋ねた. 「陽生さん, この子, あなたの娘さん? 」

陽生はぶっきらぼうに答えた. 「ああ, 偶然会っただけだ. 以前, 一度会社に来たことがある. 」

美羽は「パパ」と呼びかけたが, 私の目を見て, すぐに口を閉じた.

春奈は私に向き直り, 笑顔で言った. 「浅沼さん, 部署異動, おめでとうございます. これで, 寂しいシングルマザー生活も少しは楽になるでしょうね. 」

陽生は一瞬躊躇したが, 春奈の言葉を否定しなかった.

春奈は満足そうに微笑んだ. 陽生と彼女の間には, 私たちが入れない特別な空間ができていた.

美羽は私の服の裾を強く掴んだ. 彼女の小さな体が震えているのが分かった.

美羽は陽生に向かって, 「おじさん, 蓮くんをいじめないでね! 」と, 突然叫んだ.

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