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神は僕と彼女の琴線に触れる の小説カバー

神は僕と彼女の琴線に触れる

社会の荒波に揉まれ、日々の業務に追われる会社員の去来川唯生。ある日、彼は職場で上司との深刻な意見の対立に直面してしまう。仕事上の衝突から生じた大きな挫折感に打ちひしがれ、将来への希望を見失いかけた唯生は、深い絶望の淵に立たされていた。しかし、そんな彼の人生が大きく動き出す出来事が訪れる。心身ともに疲れ果てた唯生の前に、現実のものとは思えないほど幻想的で不思議な雰囲気を纏った一人の少女が姿を現したのだ。その少女の身体は向こう側が透けて見えるほど半透明で、彼女の背中には、夜空を彩るオーロラのように美しく輝く、神秘的な色彩を放つ羽が備わっていた。この奇跡のような出会いが、絶望の中にいた唯生の運命をどのように変えていくのか。現代を舞台に、孤独な青年と人ならざる美しき存在が織りなす、幻想的で心揺さぶる物語が幕を開ける。神聖な光を背負った少女との邂逅は、唯生が失いかけていた心の琴線に触れ、止まっていた彼の時間を再び動かし始めることになる。
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3

あの日、電話を切った後、僕は身体の力が抜ける感覚がした。

考えてみればこんなことの繰り返し。

学校生活では、会話ははずんでも友達以上の進展はなかなかなくて、というか講義に課題に忙しくて僕の方は余裕がなかった。大学在学中、休みの時は、短期のバイトをしていてそのせいもあって暇じゃなかったし。

(そこでも、一緒に仕事をして仲良くなった子もいたっけかな。)ふと思い浮かぶのは印象的な笑顔。それも、数回二人でお出かけしただけで終わってしまった。

 「唯生さん楽しい?私と居て。」

 バイトの女の子は言った。

 「え?」

 「唯生さんって何考えてるんだかわかんないんだよね。」

 僕は答えを考えあぐねていた。一緒の時間を共有できる関係に心が何となく満たされていたから、なんだろう、僕はショックを受けた。

(これじゃだめなんだ。もっと何かもてなさないと…。)

そしてそれっきり、連絡も来なくなった。

恋は、まだしてなかった、恋する手前で、手前を時間かけ過ぎて相手の機嫌を損ねていた。

(オンラインゲームで仲良くなった彼女も僕のこと、つまんない奴だと、そんな感じで縁が切れたし、考えてみたら男友達も学校を卒業してそんなに残っていない。和也くらいだ。)

 『…心に触れてほしいっていう気持ちをわかってあげなきゃだめだったんだよ。』

 和也の言葉は、また脳内でこだました。あれからもう2年も経っているのに。当時のまま瞬間冷凍されて保存されているが如く、今という時さえ僕に絡みついて離れない。

(恋愛、真剣に考えているんだよ、だけどすぐに身体と身体が触れ合う…、もっと心の深い所まで分かち合うとか、早い気がするんだよ。)

 社員旅行を終えた次の日、会社に出勤した。仕事は製造業の生産管理をしていた。僕の仕事は、経営陣が立てた四半期ごとの生産計画を達成するように月毎ごとの生産数を計算する。在庫状況や出荷数を記録し、それと照らし合わせて決める。そして上司に生産計画書を提出し承認を得る。だけど、常に計画通りではなく、時よっては生産数を増減させ調節する。

 今日は、上司から来月の生産の増産を告げられた。僕はそれを製造現場に伝達しに行った。現場に伝えると、現場からは、人手不足であるとか、設備が古くて使い辛くメンテナンスにも時間がかかるから設備投資して欲しいとか言われた。そして増産は無理だと散々にクレームを受けた。以前から、増産の時にはたびたび現場から苦情を言われてきたが、全然改善せず現場は苛立っていた。僕はその次第を上司に説明したが、上司は上司で現状の人員と設備で増産するようにきつく言った。

 「もう以前から人員不足や設備に関しては言われてきたんです。それでも現場は我慢して生産を続けてきました。でも、もう限界だと思います。」

 僕が、いつもよりも語気を強めに言った。しかし上司は、

 「上の命令が聞けないのか?」

 と引かない。

 「現場では、このような環境で生産をしていて不満を持って退職した人も何人もいます。また同じように対応すれば辞めてしまう人が続出し増産どころじゃなくなります。どうか今一度、人員の増加や設備投資について考えていただけませんか?」

 僕も重ねて訴えた。

 「お前はもういいよ。私が直に現場に説明してくる。」

 「え?」

 「去来川は今日は帰っていいよ。帰って頭を休めて冷やしてきなさい。」

 僕は、うつむきうなずいた。

 「すみません、でも…。」

 「いいから、今日は帰りなさい。」

 僕はこれ以上食い下がるのは無理だと分かりしぶしぶ承諾した。

 「すみません。宜しくお願い致します。」

 僕の帰宅する足は重かった。今は午後16時過ぎ。

神経はピリピリして落ち着かないし少し早いからお腹もすかない。

家にも帰りたくなくて、広い公園の駐車場に車を停めた。そして公園と反対側へ歩いて行き、柵をすり抜け人影隠れた貯水池へ向かった。貯水池の周りには木々や草木が生え、地面はくしゃりくしゃりと落ち葉がまばらに重なり合い、ちょうど木々は黄色や赤に紅葉し始めていて秋の始まりを感じた。僕は、人の気配などないひとりぼっちの空気をゆっくり吸い込んだ。そしてぼんやりと葉の赤や黄色を眺める。その色とりどりがぼやっと滲み始めて、胸の奥からじんわり胸の痛みを感じた。葉の色と色は祭りの夜の提灯のように明るく、そこから過ぎ去った記憶…人と人の波を思い出した。すんでのところでいつも僕の声は濁って届かない、そんな昔のことさえ蘇って黄昏を感じた。涙の雫のせいか、涙に、少し俯くと、暗くなり始めた夕空のわずかな光が反射してオーロラのような柔らかな色に滲んだ。

(ん?パステルカラー?オーロラ色?)

顔をあげると大きな漆黒の瞳がこちらを見つめ…いや僕の身体が衝突し…

「あっあ!」

しかし、前にはつっかえるものもなく?女の子の身体をすり抜け、前のめりになり地面に手をついた。

「え?ぇ?!すり抜けた?!」

 僕は、起き上がって振り向いた。

するとそこには半透明の女の子が立っていた。更に不思議なことに、背中からは先ほどのオーロラ色のこちらも透き通った蝶のような柔そうな羽が生えていた。

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