
今日から私、兄たちの最愛の妹です
章 3
秋山美月は、興味津々といった様子で野次馬と化した招待客たちを一瞥し、視線を林田莉子へと落とした。その瞳には、嘲るような光が揺らめいていた。
このデザイン画集には見覚えがあった。というのも、莉子が林田家に戻った初日、自らの非凡なデザインセンスを誇示するため、食卓でわざとこれを広げてみせ、自分の才能に気づかない者はいないとでも言いたげな態度を取っていたからだ。
自分を踏み台にして、「天才デザイナー」という看板を掲げるつもりか。
莉子は本当に愚かなのか、それとも愚かなふりをしているのか。 盗作する前に、それが誰の作品なのか、確認すらしなかったのだろうか。
莉子のデザイン画集には二百点以上のデザインが収められているが、滑稽なことに、その中で最も目を引く五十数点は、その大半が有名ブランドの最新作を混ぜ合わせただけの代物だった。
独創的で洗練された元デザインを、冗長でちぐはぐなものに変えてしまっている。見せかけの美しさはあっても、本来のシンプルで洗練された雰囲気は完全に失われていた。
オートクチュールというよりは、ネットで安易に消費される流行品だ。
それに……美月は、これらの作品の中に、かつて自分が海外のサイトで発表した作品の面影があることにも気づいていた。
莉子は人を騙し続け、いつしか自分自身さえも騙すことに快感を覚えるようになったのだろうか。
美月は嘲るように口元を歪めた。その澄んだ瞳は、まるで全ての嘘偽りを見抜く鏡のようだ。莉子は彼女のその表情に、なぜか急に後ろめたい気持ちに駆られた。
「三ページ目のモダンな馬面スカートは、オリエンタルデザインの巨匠、野崎澪の『月華影』シリーズの盗作。十ページ目の中世風ロリータドレスは、フランスのブランド『CL』の二〇二四年シーズン新作。そして、十六ページ目の……」
美月は立て続けに十点ものデザイン画を挙げ、その盗作元を澱みなく指摘した。その落ち着き払った態度に、野次馬気分だった招待客たちも、思わず彼女の言葉に引き込まれ、慌ててデザイン画集をめくり始める。
一点目、盗作。
二点目、これも盗作。
三点目、言うまでもなく盗作。
なんと、指摘された十点すべてが盗作だったのだ!
まったくもって馬鹿げている。これが天才デザイナーの正体だというのか。一冊のデザイン画集の中で、唯一見栄えのする作品が、すべて盗作だとは。
会場にいる招待客の多くは林田大輔の同業者だ。同じアパレル業界の人間であれば、毎シーズンの新作に精通しているのは当然のこと。目の肥えた者たちがデザイン画集に目を通せば、事の真相はすぐに知れた。
その場はにわかに色めき立ち、一石を投じたように噂の波紋が広がっていく。
「まさか、これが林田グループが発表する予定の新作じゃないだろうな? 林田家に専属デザイナーはいないし、デザインは全部海外のデザイナー、ムーンライト頼みだって聞いてたけど、それにしても、自社の昔のデザインまでパクってるのに気づかないなんて、呆れた話よ!」
「その通り、馬鹿げている!林田家がここまでこれたのは、どんな幸運に恵まれたのか知らないが、天才ともてはやされた娘が、ただの恥知らずな盗作者だったとはな!」
招待客たちの声は大きく、林田大輔と林田芳乃の耳にもはっきりと届いていた。二人の顔には、信じられないという思いと、当惑の色が浮かんでいる。
彼らは驚きに目を見開き、莉子を見つめた。その眼差しには複雑な感情が入り混じり、何かを言いかけては、言葉を飲み込んだ。
一方の莉子は顔面蒼白で、まるで衆人環視の中で裸にされたかのような屈辱に打ち震えていた。
林田夫妻にデザインの知識は皆無であり、会社が創業した当初は、大輔の母である林田おばあさまがすべてを取り仕切っていた。
林田おばあさまが引退し、海外の有名デザイナーであるムーンライトが協力を申し出てからは、夫妻がデザインに口を出すことはほとんどなくなっていた。
それなのに、莉子がこの三日間、あれほどまでに誇示していた才能が、ただの盗作だったとは……!
大輔は、まるで死んだ蠅を飲み込んだかのような不快感に襲われていた。
林田家の面目は丸潰れだ。美月はこれ以上彼らと関わるのも億劫になり、バッグを肩にかけると、毅然と背を向けて会場を後にした。
招待客たちは、松の木のように凛と伸びた彼女の後ろ姿を見送りながら、堰を切ったように噂を始めた。
「驚いたな、秋山美月がデザインにこれほど造詣が深いとは。あの盗作娘とは、比べものにならん」
「林田家はまさに、目先の利益に目がくらんで大きなものを失ったな。笑い話だ、『天才デザイナー少女、林田莉子』とは、傑作だ」
周囲から浴びせられる言葉は、一本一本が鋭いナイフとなり、莉子の心を容赦なく抉っていくのだった。
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