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婚約指輪と裏切りの五年間 の小説カバー

婚約指輪と裏切りの五年間

交際5周年という節目に、私は彼が隠し持っていた婚約指輪を見つける。今日こそプロポーズされると期待に胸を膨らませていたが、翌朝のSNSには残酷な現実が綴られていた。そこには、大手建設会社の令嬢・莉枝の指で輝くあの指輪と、彼からの愛の告白が投稿されていたのだ。裏切りを確信し、問い詰めるためにプロポーズの現場へと向かった私を待っていたのは、さらなる地獄だった。私は莉枝のネックレスを盗んだという無実の罪を着せられ、あろうことか彼から平手打ちを浴びせられた末に会社を解雇されてしまう。彼の夢を支えるために尽くした5年間は、単なる都合のいい駒として利用されていたに過ぎなかったのか。絶望の淵に立たされた私は、両親が以前から勧めていた縁談を受ける決意を固める。「お母さん、お見合い相手と結婚するわ」。彼らがまだ知らない私の真実の素性と、用意された最高の婚約者。すべてを失った女による、華麗なる復讐劇がいま幕を開ける。
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3

翌朝, 私は出社した. 心は空っぽだったが, 体は自動的に動いた.

パソコンを立ち上げ, 辞職届のフォーマットを開く. 必要事項を打ち込み, 印刷する.

用紙がプリンターから吐き出される音だけが, 静かなオフィスに響き渡った.

この会社で, 勇信と出会った. 大学を卒業してすぐ, 私は彼の才能に惹かれ, 彼と同じ建築事務所に就職した.

和菓子の専門学校も出ていたけれど, それは彼の夢を邪魔しないように, と諦めていた.

「君は, 僕の一番の理解者だ」

そう言ってくれた彼の言葉を信じていた. 彼の言葉が, 私の生きる意味だった.

何度か, 結婚の話題を振ったこともあった.

「勇信, いつになったら, 私と結婚してくれるの? 」

私は, 冗談めかして, そう尋ねた.

彼はいつも, 優しく私の頭を撫でて, こう言った.

「美歌, もう少し待ってくれ. 今は, まだ仕事が軌道に乗っていない. 男は, 先に仕事で成功しないと, 君を幸せにできないだろう? 」

彼は「先立業, 後成家」という言葉をよく口にした. 私はその言葉を信じて, 彼を待ち続けた.

彼がプロジェクトで成功し, 昇進した時, 私は心の中で「これで, ついに」と期待した.

その日, 私は彼からのプロポーズを待ちわびていた.

しかし, 彼の口から出たのは「僕, 昇進したんだ. これからも, もっと頑張らないと」という言葉だけだった.

私の期待は, いつも空振りに終わった. 私は, 彼の成功を心から喜びながらも, どこかで「私へのプロポーズは, いつなのだろう」という思いを抱いていた.

今思えば, それは私の勝手な期待だったのかもしれない. 彼は, 私と結婚するつもりなど, 最初からなかったのだ.

「美歌さん, 辞めるんですか? 」

背後から, 同期の由美の声がした. 彼女は, 私の手元にある辞職届を見て, 驚いた顔をしている.

「ええ, 少しね」

私は, 無理に笑顔を作った.

「え, でも, 美歌さん, 今度昇進だって噂じゃないですか! もったいないですよ! 」

由美の声は, 心底もったいないと思っているようだった.

「結婚することになったから」

私は, そう嘘をついた.

「えええ! おめでとうございます! 知らなかったです! 相手は, やっぱり勇信さんですか? 」

由美は目を輝かせながら, 私を祝福する.

私は, 笑顔が凍りつくのを感じた.

「ねえ, 知ってる? 勇信さん, 畑山建設の令嬢と婚約したんだって! 本当に, お似合いだよね. 幼馴染なんだってさ」

由美の声が, 私の耳に鋭く突き刺さった.

私は, 何も言えずに, ただ顔が引きつるのを感じた.

「美歌さん? 顔色悪いですよ? 」

由美が心配そうに, 私の顔を覗き込む.

私は, 震える手で携帯を取り出した. 勇信の連絡先を探す. 彼の名前は, すでに私の連絡先リストから消えていた.

SNSも確認した. 彼のアカウントは, 私をブロックしていた.

仕事の連絡用のアカウントだけが残っていたが, そこには, 私との個人的なメッセージは一切残されていなかった.

勇信は, 私との関係を, 完全に抹消したのだ.

その時, オフィスのドアが開いた.

勇信と莉枝が, 腕を組んで入ってきた. 莉枝の顔は, 血色が良く, 健康そのものだった. 彼女の表情には, 病の影など, 微塵も感じられない.

「皆さん, ご紹介します. 今日から, この部署の新しい責任者となる, 畑山莉枝さんです」

勇信の声が, オフィスに響き渡った.

周囲の同僚たちは, 一瞬, 驚きに顔を硬直させたが, すぐに笑顔を作り, 莉枝に挨拶を始める.

「畑山さん, どうぞよろしくお願いいたします! 」

「こちらこそ, どうぞよろしく」

莉枝は, 優雅に微笑みながら, 同僚たちの挨拶に応えていた.

私は, 手に握りしめた辞職届が, 汗で湿っているのを感じた.

勇信が, 私の方を見た. 彼の視線には, 不満と, かすかな苛立ちが混じっていた.

「美歌, 君も莉枝さんに挨拶しないのか? 」

彼の声は, 私を咎めるように響いた.

莉枝が, 私の方に歩み寄ってくる. 彼女は, 私に手を差し出した.

「立花さん, 初めまして. これから, どうぞよろしくね」

彼女の声は, 優しかった. しかし, その瞳の奥には, 冷たい光が宿っているように感じられた.

私は, 反射的に手を伸ばそうとした.

その時, 勇信が, 莉枝の手をそっと引いた.

「莉枝, 彼女はもうすぐ辞めることになっているんだ. 挨拶は, またの機会に」

彼の声は, 冷たく, そして事務的だった.

莉枝は, 勇信に腕を引かれ, そのままオフィスを後にした.

私は, 宙ぶらりんになった手を, ゆっくりと下ろした.

その手は, まるで, 私の心のように, 空っぽだった.

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