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清水さん、お元気でしたか。元夫の天敵に三年越しで溺愛されています の小説カバー

清水さん、お元気でしたか。元夫の天敵に三年越しで溺愛されています

結婚生活を送った三年間、清水瑠衣は冷徹な夫・立川蒼空の心を愛で溶かせると信じていた。しかし、その期待は土砂降りの夜に打ち砕かれる。彼女が命懸けで撮影したユキヒョウの写真は、夫が新恋人を写真界の頂点へ導くための道具に利用されたのだ。夫が別の女を抱き表彰台に立つ影で、瑠衣はアフリカの病院で生死の境を彷徨っていた。絶望した彼女は離婚届を残して失踪し、自らの力で栄光を掴むと誓う。月日が流れ、セレンゲティでカメラを構える彼女の前に現れたのは、元夫の宿敵であり、巨大資本を操る極東グループの支配者だった。彼は瑠衣を車との間に追い詰め、独占欲を孕んだ声で囁く。「同情ではない。立川が手放した至宝を愛おしんでいるだけだ」と。逃げ場を失った彼女は、その掠れた告白から真実を知る。彼は三年前から、密かに彼女を我が物にしたいという情熱を燃やし続けていたのだ。元夫の天敵による、執着と溺愛に満ちた逆転劇が幕を開ける。
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清水瑠衣(しみず るい)は、手術の麻酔が解けていく中で、ゆっくりと意識を浮上させた。

重い瞼をかろうじて持ち上げると、視界の先、壁に掛けられたテレビから、野生動物写真コンテストの結果を告げるアナウンサーの声が静かに流れ込んでくる。

幾度となく死神の鎌をかいくぐり、ようやく掴んだ吉報。

その喜びに口元が緩みかけた、その刹那――瑠衣は息を呑んだ。

作品に添えられた署名。 そこに刻まれていたのは、夫である立川蒼空が心から愛する女――陸奥陽菜の名だったからだ。

全身の血の気が、すうっと引いていくのを感じた。

途絶えた返信。 途切れることのなかったゴシップの噂。 撮影に明け暮れたこの二ヶ月間の出来事が、点と線で繋がって脳裏を駆け巡る。

思考が追いつくより早く、枕元のスマートフォンが静寂を切り裂くようにけたたましく鳴った。

点滅する画面には、「旦那」の二文字。

高熱で意識が朦朧とする中、あれほどかけたのに、一度も繋がることのなかった番号だった。

瑠衣は震える指を伸ばし、通話ボタンに触れる。 乾ききった喉から絞り出した声は、自分のものではないように掠れていた。

「……どうして、私の作品が、陸奥陽菜の名前になっているの?」

受話器の向こうから聞こえたのは、その主を体現したかのように、氷のように冷たい声だった。 彼の、深い墨色の瞳に宿る、あの昏い光が脳裏をよぎる。

「あれは陽菜への、お前からの埋め合わせだ」

その一言が、瑠衣の心に突き刺さった。 「何度も説明したでしょう!あの時あなたを助けたのは、私なんだって!」

「俺は、自分の目で見たものしか信じない」

冷水を浴びせられたような衝撃。

瑠衣の唇の端に自嘲の笑みが浮かぶ。 胸にぽっかりと空いた穴から冷たい風が吹き込み、骨の髄まで凍てつかせるようだった。 瑠衣は一度、深く息を吸い込んだ。 そして、氷のような声で言い放つ。

「立川蒼空。 これは、私が命を削って撮った写真。 一枚一枚に、私の血が滲んでいるの。 それをあの女に渡すなんて、絶対に許さない」

蒼空の声には、あからさまな侮蔑が滲んでいた。 「お前の母親の医療費は、どうするつもりだ?」

あまりに脈絡のない言葉に、瑠衣はスマートフォンを握る手に無意識に力がこもり、白い指の関節が浮き出た。

言葉を出すのもやっとの状態で言った。「陸奥陽菜のために……そんなことで私を脅すの?」

蒼空はいらだちながら注意した。「忠告だ。 お前ごときに、俺に逆らう資格はない」

まるで心臓を直接握り潰されるような、鈍い痛みが胸を苛んだ。

陽菜が現れるまで、あれほど優しかった蒼空はどこへ消えてしまったのか。 あの温もりは、全て幻だったというのか。

不意に、瑠衣の唇から言葉が零れた。 「離婚しましょう」

蒼空の声が、一段と低くなる。 「清水瑠衣、お前の茶番に付き合う暇はない」

「違う、本気で……」

しかし、瑠衣の言葉は最後まで紡がれることなく、無機質な通話終了音が耳元で響いた。

切られたスマートフォンを握りしめ、瑠衣は必死に口角を引き上げようとした。 だが、その試みは虚しく、堪えきれなかった一筋の熱い雫が目尻を伝い、無力に握られた手の甲へと落ちた。

離婚してやる。

そして、私のすべてを奪ったあの女に、栄光など決して渡さない。

瑠衣は、医者の制止を振り切って退院手続きを済ませた。

自宅に戻るやいなや、陽菜が作品を盗用した証拠を一つ一つ整理していく。

これまで撮影地を飛び回った航空券の半券、膨大な数のネガフィルム。

それらは何より雄弁な証拠だった。

瑠衣はそれらをまとめ、すぐさまインターネット上に公開した。

投稿は、瞬く間に激しい波紋を呼んだ。

しかし、十分と経たずに全ての投稿は跡形もなく削除され、瑠衣のアカウントそのものが凍結されてしまった。

ウェブページに表示された「404」の無機質な文字を前に、瑠衣は知らず知らずのうちに拳を握りしめていた。

蒼空が、あの女のために、自分を社会的に抹殺したのだ。

凍結されたアカウントの画面を睨みつけ、一瞬、頭の中が真っ白になる。

だが、すぐに理解が追いついた。 今日は陽菜が写真界で最も権威ある賞を受賞した、その祝賀会の日。 自分がその祝宴に水を差すことを、蒼空が見過ごすはずがなかった。

その瞬間、玄関の外で車のエンジン音が響き、ぴたりと止んだかと思うと、ドアが叩きつけられるように乱暴に開け放たれた。

振り返った瑠衣の視線の先に。

彼は無言のまま大股で歩み寄り、瑠衣の腕を骨が軋むほど強く掴んだ。

嵐のような威圧感が、小さな体を飲み込んでいく。

「俺の言ったことが、もう忘れたのか」

アシスタントからの連絡があと数分遅れていれば、世論は完全に燃え上がり、陽菜のキャリアは芽吹く前に潰されていた。

だが、瑠衣はその怒りを前にしても、もう怯まなかった。 「言ったはずよ。 私の血と汗の結晶を、あなたが勝手に他人へ渡すのを黙って見ているつもりはない、と!」

彼女が、初めて見せた剥き出しの反抗だった。

蒼空の目に、一瞬だけ戸惑いの色が浮かぶ。

いつも従順で、自分の顔色ばかりを窺っていた女が、なぜ突然牙を剥くのか。

瑠衣は掴まれた腕を振り払い、自ら袖を乱暴にたくし上げた。 そこに刻まれた、生々しい無数の傷跡と、消え残る注射の痕を彼の眼前に突きつける。

「これが見える!? この一枚を撮るために、 私がどれだけのものを犠牲にしてきたか!」

「立川蒼空!あなたと対等な愛を望んだことなんて一度もない!でも、人としての最低限の尊重くらい、したっていいでしょう!」

溜めに溜め込んだ激情が、堰を切ったように迸る。

瑠衣の目尻は赤く染まっていたが、そこに涙はなかった。 ただ、燃え盛る怒りの炎だけが宿っていた。

蒼空の眼差しが、さらに険しさを増す。 彼は瑠衣を静かに見つめ、やがてその瞳に嘲りを浮かべた。 「全てお前が招いたことだろう。 嘘で始まった結婚に、何を期待していた?」

その言葉は、瑠衣の最後の強がりを打ち砕いた。 全身から、ふっと力が抜けていく。

瑠衣は力なく目を閉じた。 「……もう好きに言えばいい。 私の望みは一つだけ。 離婚よ」

蒼空は、そんな彼女を見下ろし、嘲笑うように言った。

「本気か?」

瑠衣の両手は、知らぬ間に固く握りしめられ、鋭い爪が掌に深く食い込んでいた。

実家が破産した時、自分を救ってくれたのは蒼空だった。 母の高額な医療費を肩代わりしてくれたのも、彼だ。

その事実が、瑠衣の愛に「感謝」という名の鎖を繋いでいた。

だからこそ、この数年間、どんな理不尽な仕打ちにも耐えてきたのだ。

だが、命そのものである作品まで差し出せというのは、あまりにも酷すぎる。

蒼空は瑠衣を冷ややかに見下ろしたまま、スマートフォンを取り出すと、無慈悲に言い放った。 『――ああ、俺だ。 清水瑠衣の母親の件、全ての医療行為を停止しろ』

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