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今更愛していると言われても、もう手遅れです の小説カバー

今更愛していると言われても、もう手遅れです

結婚5周年の記念日、夫が帰宅時に連れていたのは愛人だった。私の手料理を無視し、自分たちに食事を作れと命じる夫。その傲慢な態度に、5年間の献身は完全に冷め切った。私は怒る代わりに、ある計略を巡らせる。義母の遺産管理に関する書類だと偽り、他の契約書に紛れ込ませたのは、多額の慰謝料と財産分与を明記した離婚協議書だった。愛人に夢中な夫は、内容を確認することなく苛立ちまぎれに署名を済ませてしまう。翌朝、彼を待っていたのは、もぬけの殻となった自宅と凍結された銀行口座、そして資産の半分を失ったという残酷な現実だった。愛人の悲鳴が虚しく響く中、私は長年縛り付けられてきた「都合のいい妻」という役割を脱ぎ捨て、自由な新生活へと踏み出す。これは、自分を家政婦同然に扱ってきた身勝手な夫に対し、静かなる復讐を遂げて再起する女性の物語。
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3

三日後。

頭を割るようなひどい頭痛と共に、俺は重い瞼を持ち上げた。

昨夜は雫と浴びるように飲みすぎたせいだ。

「おい、星奈。水だ」

俺はベッドから掠れた声を張り上げた。

いつもなら、即座に冷えたミネラルウォーターと鎮痛剤が運ばれてくるはずだ。

だが、返事がない。

「星奈!」

こみ上げる苛立ちと共に起き上がり、リビングへと向かう。

家の中が、妙に静かだ。

カーテンは閉め切られ、朝の光が入ってこない淀んだ空気が漂っている。

キッチンにも、誰の気配もない。

「チッ……どこへ行きやがった、あの女」

俺は舌打ちをし、ダイニングテーブルに目をやった。

そこには、冷ややかな光を放つプラチナの結婚指輪と、一枚の紙きれが置かれていた。

指輪?

俺は眉をひそめ、その紙を手に取る。

『離婚届は受理されました。共有財産の分与手続きも完了しています。荷物はすべて運び出しました。二度と探さないでください』

は?

俺は言葉の意味を理解できず、その場に立ち尽くした。

離婚? 誰が? 俺たちが?

「何よ、朝っぱらから大声出して」

寝室から雫が起きてきた。シルクのパジャマ姿で、気怠げにあくびをしている。

「隆成さん、どうしたの?」

俺は震える手で、その紙を握りしめていた。

「星奈が……出て行った」

「はあ? 家出? いい歳して?」

「いや、離婚だ。……俺のサインがある」

俺はテーブルの上の控えを見た。

確かに、俺の字だ。

いつ書いた?

あの夜か? 泥酔していた時か? それとも、膨大な決裁書類の山に紛れ込ませていたのか?

「ちょっと、それ貸して」

雫の顔色がさっと変わった。

彼女は俺の手から書類をひったくり、血眼になって内容を目で追う。

そして、信じられないものを見るような目で俺を見た。

「嘘……あんた、資産の半分を持っていかれてるじゃない!」

「な、なんだって?」

「それに、この慰謝料の額! 何これ、あんた破産する気?」

雫の声がヒステリックな金切り声に変わる。

「おい、冗談だろ」

俺は慌ててスマホを取り出し、銀行アプリを起動して口座を確認する。

残高が、激減していた。

共有財産として管理していた口座も、すでに凍結されている。

「あいつ……!」

怒りが沸騰すると同時に、背筋を凍らせるような悪寒が俺を襲った。

星奈は、本気だったんだ。

あの従順で、影の薄い女が、俺を完全に嵌めたんだ。

「ふざけないでよ!」

パァン!

乾いた破裂音が響き、俺の左頬が熱を持った。

雫が俺を平手打ちしていた。

「あんたなんて、金持ちだから付き合ってあげてたのに! 金のないバツイチ男なんて、こっちから願い下げよ!」

「雫、待て、これは何かの間違いで……」

「触らないで! 最低!」

雫は寝室に戻り、乱暴に自分の荷物をバッグに詰め込み始めた。

俺はリビングに取り残された。

広すぎる部屋。

冷たい空気。

この空間のどこにも、星奈の気配はおろか、匂いひとつ残っていなかった。

「くそっ……くそっ!」

俺はテーブルの上の指輪を壁に投げつけた。

だが、胸の奥に広がる黒い穴は、怒りでは埋まらなかった。

それは、底知れぬ恐怖だった。

俺は今、本当の意味で一人になったのだ。

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