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捨てられた妻に、今さら狂ったように求められても の小説カバー

捨てられた妻に、今さら狂ったように求められても

部族のルナとして嫁いで5年、夫との間に一度も夜の営みはない。しかし、不妊を理由に姉が追放されると、夫は突然「後継ぎを作ろう」と迫ってきた。彼の冷淡さを感じ続けてきた私は、ある日、夫と部族のベータによる衝撃的な密談を耳にする。「彼女はもう子を産めない体だ。代わりの女に俺の血を継がせ、ルナの座を守るしかない」「もう一人の女に子を産ませた後は、一生をかけて彼女を補償し、真のルナにしてやる」。夫にとって、私は愛する妻ではなく、単なる「子宮」の代用品でしかなかったのだ。絶望に打ちひしがれた私は、彼への愛を捨て、養父母のもとへ帰ることで全ての縁を断ち切る決意を固める。望み通り身を引いたはずなのに、なぜか彼は狂気に取り憑かれたような執着を見せ、私の帰還を必死に乞い続ける。一度壊れた絆は二度と戻らない。かつて私を冷遇し、道具としてしか見ていなかったアルファの遅すぎた後悔と、自由を求める私の物語が幕を開ける。
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3

宋婉儀視点。

司寒川がふと顔を上げ、眉根を寄せた。

その表情の意味は、すぐにわかった。私がこのような場所に姿を現すとは、予想外だったのだろう。

私は彼から視線を外し、淡々と言い放った。「辺境の巡回に来た」

しかし、彼らに続く数人の若い狼衛たちが、途端に声を上げて笑い出した。

「巡回だと? ルナ、あんた本気でこの長い国境線を走りきれると思ってるのか?」

「ここで足を折るなよ。治癒師は戦士じゃないんだぞ」

その笑い声には、あからさまな侮蔑が込められていた。

あの夜会の晩、司寒川が私からの『印』の求めを声高に拒絶したことで、誰もが私が名ばかりのルナであることを知っていた。私に敬意を払う者など、どこにもいない。

司寒川がこぶしを握りしめる。「辺境は危険だ。君がここで怪我でもしたら……」

「まあ、妹をそんなに責めないであげて。彼女も、少しは役に立ちたいだけなのよ」宋詩涵が絶妙な間で割って入る。

その声色は柔らかいが、他の者たちは再び嘲笑を漏らした。

「自業自得だろう、詩涵。お前の妹とやらは、何の能もないんだからな」

「双子だなんて、どう見ても似てない。君の妹の顔は……あまりに品がない」

私が宋家に戻って以来、宋詩涵は私が調合した治療薬を、すべて自分の手柄として公表してきた。

私の言葉を信じる者はいなかった。なぜなら両親が、宋詩涵と私は双子の姉妹であり、私は貧しい夫婦に十年預けられ、高等教育を受けていないと触れ回っていたからだ。

宋詩涵の表情がこわばる。

私は冷たく彼女を一瞥したが、その嘘を暴くことはしなかった。もうすぐこの場所を離れるのだ。今さら彼女と口論を交わす気にもなれない。 私はただ踵を返し、辺境のさらに奥深くへと歩を進めた。

背後から、宋詩涵の甘い声が聞こえてくる。「この辺りには『銀たてがみの月鹿』がいるそうよ。――伝説では、運命の伴侶だけが共に狩ることを許されるというわ。狩って愛する人に贈れば、永遠に結ばれるんですって」

——

三十分後、空は瞬く間にその表情を変え、辺境の山林に激しい雨が降り注ぎ始めた。

私は即座に狼衛たちを呼び戻し、撤退を指示した。 テントへ戻るやいなや、宋詩涵と狼衛たちが焦燥に駆られて右往左往しているのが目に入った。――そこに、司寒川の姿だけが見当たらない。

私は眉をひそめた。「何があった」

宋詩涵の瞳から、大粒の涙が滑り落ちる。「大変なの!寒川が……私たちとはぐれてしまったの!」

彼女が言うには、司寒川は銀たてがみの月鹿を見つけるや、この雨をものともせず一人で追いかけていったらしい。彼らは追いつけず、そのまま姿を見失ってしまったのだと。

心臓が凍りついた。

「この森は雨が降ると深い霧が立ち込める。日没後は猛獣も出る。正気か、あの男は!?」

一人の狼衛が、棘のある声で吐き捨てた。「何を喚いている! お前に翼でも生えていて飛んでいけるというのか? 他の者たちがすでに捜索中だ。近くの巡回部隊も二時間後には到着する。――お前にできることなど何もない」

私は腕輪につけられた留め金に手をかけた。養父母が私のために作ってくれた、能力を封じるためのものだ。それを、解き放つ。狼へと姿を変えた私の体は、彼らが以前に見たものより二回りは大きくなっていた。

四つの爪が湿った土に深く食い込み、私は低く身構える。「私が彼を助け出す」

次の瞬間、白い影と化した私は霧の深奥へと疾駆し、瞬く間にその姿を消した。

背後で、狼衛たちが呆然と立ち尽くしている。

「なっ……!奴の狼が大きくなったぞ!なんだ、今の速さは!?」

……

幼い頃、私はこの辺境で二年暮らした経験がある。司寒川のルナとなってからも巡回しており、この森の地形は熟知していた。

私が彼を助けに行くのは、私情からだけではない。彼はこの部族のアルファであり、後方を支える柱なのだ。

かつて宋家に引き取られて間もない頃、私は宋詩涵と共に烈火族に攫われた。

危機が迫った時、両親は迷うことなく養姉の宋詩涵を選び、私を死地に見捨てた。 銀の刃が振り下ろされようとした、その刹那。包囲を打ち破って飛び込んできた司寒川が、私をその背にかばってくれたのだ。

あの日、彼は深く斬りつけられ、その傷に宿った銀の毒は彼の命を蝕んだ。

あの時の借りはいずれ返さねばならないと、ずっと思っていた。

豪雨は止むことなく降り続く。森の中を匂いだけを頼りに駆け抜け、ついに私は一つの銀鉱の中で司寒川を発見した。

彼は血まみれで倒れていたが、その手には同じく気を失った銀たてがみの月鹿が握られている。そして、唇はかすかに動いていた。「詩涵……君に……」

心臓を氷の錐で貫かれたようだった。

(実らぬ想いのために、命さえ投げ出すというのか)

冷たい笑みが漏れた。それでも、私は彼を背負い上げる。

だが、鉱山の入り口へ足を踏み出した途端、木々の間から無数の黒い影が姿を現した。烈火族の巡回兵だ!

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