フォローする
共有
捨てられた妻に、今さら狂ったように求められても の小説カバー

捨てられた妻に、今さら狂ったように求められても

部族のルナとして嫁いで5年、夫との間に一度も夜の営みはない。しかし、不妊を理由に姉が追放されると、夫は突然「後継ぎを作ろう」と迫ってきた。彼の冷淡さを感じ続けてきた私は、ある日、夫と部族のベータによる衝撃的な密談を耳にする。「彼女はもう子を産めない体だ。代わりの女に俺の血を継がせ、ルナの座を守るしかない」「もう一人の女に子を産ませた後は、一生をかけて彼女を補償し、真のルナにしてやる」。夫にとって、私は愛する妻ではなく、単なる「子宮」の代用品でしかなかったのだ。絶望に打ちひしがれた私は、彼への愛を捨て、養父母のもとへ帰ることで全ての縁を断ち切る決意を固める。望み通り身を引いたはずなのに、なぜか彼は狂気に取り憑かれたような執着を見せ、私の帰還を必死に乞い続ける。一度壊れた絆は二度と戻らない。かつて私を冷遇し、道具としてしか見ていなかったアルファの遅すぎた後悔と、自由を求める私の物語が幕を開ける。
共有

1

彼のルナになって五年、私はまだ処女だった。

嫁いで三年経っても子を成さなかった姉が実家へ帰された後、彼は唐突に「子狼が欲しい」と言い出した。

私の中の狼は、ずっと彼の冷淡さを感じ取っていた。思い悩んだ末、彼と深く話し合おうと決意した矢先、彼がベータと話しているのを耳にしてしまう。

「詩涵は私を庇って体を傷つけ、子狼を産めなくなった。あの部族でルナとして確固たる地位を築くには跡継ぎが不可欠だ。彼女を苦しませるわけにはいかない」

「宋婉儀の子宮は、アルファの血統を継がせるのに都合がいい」

「彼女が詩涵の代わりに子狼を産んだら、一生かけて償おう。私の跡継ぎを産ませ、本当のルナにする」

結局のところ、私は彼の言う『子宮』でしかなかったのだ。

その瞬間、胸が内側から引き裂かれるような痛みに襲われた。

ならば、望み通りにしてあげよう。

私は養父母の元へ帰り、司寒川との一切の関係を断ち切った。

それなのに――初めから私を愛していなかったはずの男が、なぜ今になって狂ったように私の帰りを乞うのだろうか。

……

1

宋婉儀視点

彼のルナになって五年、私はまだ処女だ。伴侶である司寒川が、一度も私をマーキングしたことがないからである。

月神祭の祝宴で部族中が浮かれる中、彼はひときわ上機嫌だった。私はそっと彼のそばに寄り、囁きかける。

「寒川、今夜、私をあなたの本当のルナにしてくれない?」

彼が応じなかったので、私は勇気を振り絞ってその腕に絡みつき、甘い息を吐きかけながら唇を寄せた。「マーキングして。今夜、私はあなたのものよ」

すると彼は、私を乱暴に突き飛ばした。その眼差しは氷のように冷たい。

「部族全員が見ている前で、そんな口を利くのか」

「そんなに欲求不満なら、他の雄狼でも探して満たしてもらえ」

血の気が引いていくのがわかった。

私の中にいる狼が、彼の言葉に深く傷つけられ、怒りの咆哮をあげた。

狼人間の五感は極めて鋭い。彼の声は少しも抑えられておらず、周囲の狼たちが向ける嘲笑の視線が肌に突き刺さるのを感じた。

私はその場で凍り付いた。すると彼は、眉をひそめて言葉を続ける。「明日の朝、私と専門のクリニックへ行くぞ。そろそろ子狼を作る頃合いだ。お前が余計なことを考えないようにするためにもな」

私は深呼吸をして雑念を振り払い、心の中の狼に語りかけた。(彼が子狼を欲しがっている。明日はきっと健康診断に行くのね。これは、彼が私たちを受け入れ始めている証拠よ。ただ、もう少し時間が必要なだけ)

私の中の狼は、次第に落ち着きを取り戻していった。

誰もいなくなった広場を見つめ、私は一人寂しく微笑む。

私は部族間戦争の最中に生まれた。実の祖父が戦場の首席治癒師だったため、敵の報復に遭い、敵対部族の者に連れ去られ捨てられたのだ。そうして十年もの間、家族と離れ離れになっていた。

司寒川は南の境界にある中規模部族――月岩部族のアルファだ。 彼は戦で銀製の武器と銀の毒によって重傷を負ったが、祖父に命を救われた。その恩返しとして、司寒川は祖父の孫娘を娶ると約束したのである。

本来、彼に嫁ぐはずだったのは、私の両親の養女であり、姉の宋詩涵だった。

しかし私が見つかったことで、婚約者は私に変更された。

両親は長年育てた宋詩涵を手放すのが忍びなく、私たち二人を実の娘だと公表したのだ。

最初は彼のルナになるつもりなどなかった。けれど、司寒川の様々な行動に心を動かされ、命まで救われるうちに、私は彼の優しさに溺れていった。

でも、私の子狼が、愛情のない環境で生まれるべきではない。

私は俯いて決心した。何としても司寒川と一度話し合わなければ。子狼のことは、あと二年待ってもいいはずだ。

最後の望みを胸に、私は書斎のドアの前に立った。

だが、ドアに手をかけようとしたその時、中から彼の怒声が聞こえてきた。

「詩涵は私を庇ったせいで体を壊し、もう子供は産めないんだ! 月影部族でルナの地位を固めるには跡継ぎが要る。彼女が苦しむのを黙って見ていられるか!」

「どうするつもりだ?」 もう一つの声は、彼の副官のものだった。

短い沈黙の後、再び司寒川の声が響く。

「宋婉儀の子宮は、アルファの血統を継がせるのに都合がいい」

「彼女と番になった以上、一生面倒は見る。詩涵の代わりに子狼を産ませ、詩涵への恩を返したら……その時は、彼女を本当のルナにして、部族の跡継ぎを産ませてやる」

(なんてことを……!)私の中の狼が狂ったように叫んでいた。

視界が滲み、涙が止めどなく頬を伝った。

銀の刃で心臓を貫かれ、抉られた傷が塞がらない痛みとは、きっとこういうものだろう。

私はよろめきながら自室に戻ると、スマートフォンを手に取り、慣れ親しんだ番号を押した。

「あなた、ちょうど電話しようと思っていたのよ!」電話の向こうから、養母の優しく気遣うような声が聞こえた。「五日後は、お父様が部族を率いて二十周年の記念日なの。色々な勢力の方を招いて祝宴を開くのだけど、あなたの番も一緒に来てくれるかしら?」

「あなたの本当のご両親も招待してちょうだい。最高の待遇でお迎えすることを約束するわ。もし、あちらが望まないのなら……それでも、あなただけでも帰ってきてほしい。とても会いたいわ」

私の養父母は北の地のアルファ王とルナ王妃だ。かつて部族の戦場で、森の中に捨てられた私が空腹で泣きじゃくっていたところを、二人が見つけて家に連れ帰ってくれたのだ。

彼らは私を実の娘同然に愛してくれた。

しかし、司寒川のために、私は五年前に一人で南の地に残ることを選んだ。

もう、その必要はない。

口を開いた途端、嗚咽が漏れた。「お母様、必ず、時間通りに帰ります」

私の泣き声を聞いて、養母の声が一気に切羽詰まったものに変わった。「どうしたの、あなた!あの番が、あなたに酷いことをしたの? 北の地へお帰りなさい!すぐに迎えを出すわ!三日もあれば着くから!」

「北の地の姫であるあなたを、誰も虐げていいはずがない!」

おすすめの作品

100年越しの月下美人 の小説カバー
8.2
古くから続く陰陽師の名門に生まれた御子柴聖は、幼少期から類いまれなる才覚を発揮し、一族の期待を一身に背負っていた。しかし七歳の頃、伝説の大妖怪・八岐大蛇が一家を襲撃。一族は無残に惨殺され、聖自身も右脚を失うという悲劇に見舞われる。さらに彼女の身には、持ち主の命を糧として吸い尽くす「月下美人の呪い」が刻まれてしまった。絶望の淵に立たされながらも、聖は生き延びるために過酷な運命と対峙し続ける。惨劇から十年の月日が流れ、十七歳へと成長した彼女は、自らの命を蝕む呪縛を解き放つため、そして一族の仇を討つために、再び立ち上がることを決意する。彼女の前に立ちはだかるのは、闇夜を跋扈する恐るべき百鬼夜行の軍勢。失われた右脚と呪いの痛みを抱えながら、聖は凄絶な戦いの中へと身を投じていく。死と隣り合わせの激闘を繰り広げる彼女を待ち受けているのは、果たして救済か、それともさらなる絶望か。命を削る月下美人が咲き誇る時、宿命の歯車が大きく動き出す。
天使の血、彼の愛人の薬 の小説カバー
8.4
幼い頃から一途に想い続けてきた星川博也。その婚約者として屋敷に迎えられた私を待っていたのは、博也様の凍てつくような憎しみの眼差しでした。彼は私を裏切り者と決めつけ、あろうことか愛人である涼紗の心身を癒やすため、私の体に流れる「天使の血」を薬として差し出すよう冷酷に命じます。最愛の人に所有物のように扱われ、目の前で他の女性を慈しむ姿を見せつけられる屈辱的な日々。それでも私が真実を語らず沈黙を貫くのは、真実を明かせば一族が破滅してしまうという、決して口にできない秘密を抱えているからです。過酷な献身によって私の命の砂時計は静かに、しかし確実に終わりへと近づいていきます。この血が枯れ果て、私がこの世から消え去るその瞬間に、彼はようやく私たちが背負わされた凄惨な宿命と、私が秘め続けてきた真実の愛を知ることになるのです。
天才監察医~美貌と医術を以て異世界を無双する の小説カバー
8.5
21世紀の国家安全保障局で首席監察医を務めた曲蓁は、その神業とも言える医術で数々の命を救い、死者の声を代弁してきた。しかし任務中に命を落とした彼女の魂は、異世界の医家である顧家の一人娘として転生する。目覚めた直後、彼女は棺桶から赤ん坊が生まれるという怪事件に遭遇するが、卓越した解剖技術と救命術を駆使し、死の淵から生を救い出す。非業の死を遂げた両親の仇を討つため、彼女は真実を見抜く鋭い眼力と鉄筆を武器に、腐敗した役人たちが蔓延る政界の闇へと切り込んでいく。冤罪を晴らし、世に正義を問う彼女の前に立ちはだかるのは、複雑な陰謀と、心を寄せる一人の男だった。大離の皇子や王族の嫡男ら、多くの才俊が彼女の美貌と才能に惹かれる中、彼女が向き合うのは自らを廃人と称して身を引こうとする愛する男の不器用な本音だ。「そばにいてくれ」という切実な願いを受け止め、彼女は愛と正義のために、魑魅魍魎が跋扈する乱世を華麗に突き進んでいく。監察医としての誇りを胸に、彼女は異世界に新たな夜明けをもたらすだろう。
死に戻りの私は、清廉ぶる姉を地獄に引きずり込む の小説カバー
9.7
一族が滅亡の憂き目に遭ったあの日、姉は清廉潔白な聖女のように振る舞い、私を窮地へ追い込んだ。仙山の掌門から弟子に誘われた際、姉は喪に服すべきだと義理を説いて辞退し、代わりの私を「親不孝者」と貶めたのだ。その結果、情に厚いと評された姉は特別な弟子として迎えられ、私は蔑みの対象となった。三年後、共に魔族に捕らわれた際も、生き延びようと必死に足掻く私を、姉は「品位がない」と嘲笑い続けた。私は飢えに苦しみ命を落としたが、一方で節義を貫いた姉は魔尊に寵愛されるという皮肉な結末を迎える。しかし、絶望の中で息絶えたはずの私は、気がつくと一家が滅ぼされた運命の朝へと回帰していた。かつて自分を地獄へ突き落とし、偽善の裏で幸福を掴み取った姉に復讐するため、私は二度目の人生を歩み始める。今度こそ、清廉潔白を装う姉の仮面を剥ぎ取り、彼女を逃れられない破滅の深淵へと引きずり込んでやる。凄惨な過去を糧に、私は自らの手で運命を書き換えることを誓った。
ムリゲーの世界をバグと乱数調整で切り抜ける の小説カバー
8.4
「初回プレイでの死亡率4000%」という驚愕の数値を叩き出し、ゲーム史上類を見ない理不尽さで知られる超高難易度RPG『ムーンリカバリー』。魔王側の視点からリアリティを追求しすぎた結果、最初の町に辿り着くまでのわずか数歩で、初期レベルでは到底太刀打ちできない強敵と遭遇し、確実に命を落とすという絶望的な仕様が組み込まれていた。開発者は親しみを込めて『ムンリバ』と呼んだが、あまりにも過酷な死の連鎖から、プレイヤーたちからはいつしか『ム・リ』という不名誉な略称で恐れられるようになった。そんな、クリアすることなど到底不可能と思われた「ムリゲー」の異世界に、吉弘鑑理(ナオ)と流川斉子(リュウセイ)の二人は突然放り込まれてしまう。普通に挑めば10万回死んでも終わらない絶望的な状況下で、彼らが生き残るために選んだのは正攻法ではなかった。本作は、ゲームの根幹を揺るがす裏技的なバグや乱数調整という名のチート級のテクニックを駆使し、理不尽な世界の法則を鮮やかに切り抜けていく二人の型破りな冒険譚である。
元恋人の花嫁は、私の妹でした の小説カバー
8.6
跡継ぎの男子を望み、娘ばかりを産み続けた両親。その果てに家計は破綻し、私を含む姉妹全員が売られることになった。過酷な運命の中、幸運にも私は良き主人のもとで刺繍の技術を学び、職人として名を成すまでになった。そこで出会った一人の男性に心を奪われ、彼が科挙に合格して高官になる日を夢見て、献身的に支え続けた。彼は「合格したら君を正妻に迎える」と約束してくれたが、見事に三位で及第した途端、その誓いは裏切られた。彼は名門の令嬢に一目惚れしたと言い放ち、私に別れを告げたのだ。出世した彼にとって、今の私は恥ずべき存在でしかないことを悟り、絶望が胸をよぎる。しかし、彼が夢中になっているその「高貴な令嬢」の正体を知り、私はさらなる衝撃を受ける。彼の心を奪った花嫁候補は、かつて私と同じように売られ、生き別れになった実の妹だったのだ。家族の絆と恋慕が複雑に絡み合う、裏切りと再会の物語。