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鳥籠の姪を抜け出し、真実の愛に嫁ぎます の小説カバー

鳥籠の姪を抜け出し、真実の愛に嫁ぎます

養女として藤堂家に迎えられた柚月は、叔父である藤堂森に長年一途な恋心を抱き続けていた。彼にふさわしい女性になろうと献身的に尽くし、二十歳の節目に三度目の告白を決意する。しかし、そんな彼女を待っていたのは、森がかつて愛した女性・鈴木桜の帰国と、あまりに無慈悲な拒絶の言葉だった。「姪を愛する道理はない」「虫酸が走る」という冷酷な宣告に、柚月の心は完全に打ち砕かれる。絶望の果てに彼女が姿を消すと、皮肉にも森は執着という名の狂気に囚われていく。月日は流れ、二人は二階堂家の次期当主の結婚式で再会を果たす。そこには、純白のドレスを纏い、他人の花嫁として幸せそうに微笑む柚月の姿があった。かつての傲慢さを失い、充血した瞳で「行かないでくれ」と縋り付く森。だが、自分を「叔父様」と呼び、他人の妻になることを選んだ彼女の決意はもう揺るがない。過去の執着を断ち切り、真実の愛を掴み取ろうとする柚月と、失ってから初めて己の愚かさに気づき後悔に身を焼く男。運命が逆転した二人の、切なくも鮮やかな決別の物語。
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その視線は氷の刃のように冷たく、一目で心臓を貫く鋭さを孕んでいた。柚月は凍りつき、言葉を失った。

さらに、ダイニングテーブルの角に強くぶつけた脇腹は、骨の奥まで響く痛みを訴えていた。それでも柚月は動けず、ただ森が桜をそっと抱き上げ、急ぎ足で部屋を出ていくのを、見送るしかなかった。

そして気づけば、熱い涙が次々と頬を流れ落ち、顔を濡らしていた。柚月は鼻をすすりながら、痛みと絶望に押し潰され、その場から一歩も動けなかった。

やがて数分が過ぎ、玄関のドアがそっと開く音が響いた。

ちょうど掃除に来た家政婦さんだった。

すると家政婦さんは鼻歌まじりにダイニングの入口まで来たが、柚月の姿を見た瞬間に足を止め、驚きと心配が混ざった声で言った。「あら……お嬢様、どうなさいましたの?」 そして続けて、「どうしてそんなに泣いていらっしゃるの?」と問いかけた。

その優しい声を聞いた途端、柚月はもう我慢できず、震える声で必死に言った。「……お願い、助けて。すごく、痛いの」

「……」

そこで家政婦さんはすぐ管理会社の車を手配し、痛みに身を縮める柚月を連れて近くの病院へ向かった。

その後、一通り検査を受けた結果、幸い大きな異常はなく、柚月はようやく小さく息を吐いた。

すると医師は、「しばらくは腰に負担をかけないようにして、薬は決まった時間に塗ってください」と穏やかに告げた。 さらに医師は処方箋を書き終えると注意点をいくつか伝え、柚月のまだ幼さの残る顔を見て、「ひどい痣になるかもしれませんが、時間が経てばだんだん薄くなります。心配はいりませんよ」と慰めた。

それから礼を述べ、柚月と家政婦さんは病院を後にした。

「お嬢様、森様にご連絡を?」

「いいえ、結構です」

今、彼は桜の看病に忙しい。自分のことなど、お構いなしに決まっている。

そうして柚月は皮肉めいた笑みを浮かべ、そっと口元を上げた。そして試しに腰を動かすと先ほどより痛みが軽くなっているのを確かめ、薬を家政婦さんに渡しながら言った。「先に帰って。私は学校に寄ってから戻るから」

それでも家政婦さんは不安そうに柚月を見つめ、「そのお体で、本当に大丈夫ですの?」と念を押した。

「医者も骨に異常はないって言っていたでしょう。だから平気よ、家政婦さん」

その後、柚月はしばらく言い聞かせてようやく家政婦さんを帰らせた。そして一人で車に乗り込むと、胸の奥に言いようのない寂しさがじわりと広がった。

思えば8歳のときから森と暮らしてきた。ずっと守られていると信じて疑わなかったのに、実際に怪我をした今、そばにいたのは家政婦さんだけだった。

それでも柚月は、悲観する必要はないと自分に言い聞かせた。

そもそも人と人の関係は、いつかは別れに行き着くものだから。

だから自分と森の関係も、ただ少しだけ、他の誰より早く終わりを迎えただけなのだ。

いくつかの書類を出し終えると、柚月は先生に向き直り、北城でインターンをするつもりだときっぱり伝えた。

すると先生は目を丸くし、「北城ですって?」と声を上げた。 さらに先生は首を振り、「そんなに遠い場所よ。前は叔父さんと離れたくないから、彼の会社に行くと言っていなかった?」と問い返した。 そのうえで、「それに森さんだって、きっとあなたを心配するわ」と重ねた。

森との間にあった出来事をどう話せばいいのか分からず、柚月は一瞬言葉に詰まった。それから少し考えて、「私と森は血が繋がっていません。これ以上、彼に負担をかけるわけにはいかないんです」と静かに答えた。 そして続けて、「それに、もうすぐ21歳です。だから自立を覚える時期ですし、彼が反対する理由もないはずです」と言い切った。

すると先生はしみじみと頷き、軽く息を吐いた。そして「言わなくても分かるわ。森さんがどれだけあなたを大事にしているか、先生も学生も皆知っているのよ。こんなに成長しても、彼はよく自分で送り迎えをしていたし、他の男の子に取られないか気にしていたでしょう」

それから「でもね、自立するのも悪いことじゃない。外で経験を積んでおいでなさい」と背中を押した。

加えて「あなたの力なら、どこへ行っても道は開ける。先生は応援しているわ」と微笑んだ。

柚月は一つずつ頷き、少し世間話をしてから校舎を後にした。振り返れば、柚月の大学生活は長くはなかったが、それでも森が常に気にかけてくれていたのは事実だった。

とくに大学1年の頃、森は世話をするために学校近くに家まで用意し、自分で料理を作ってくれたことさえあった。

しかし──

それはもう、過ぎ去った昔話だ。

今の彼には、本気で守りたい相手がいる。森はあの女性と一生を共にするのだろう。そう思えば、柚月は彼にとって邪魔な存在なのかもしれなかった。

だからこそ身を引くことが、森への最後の贈り物であり、せめてもの恩返しなのだと柚月は考えた。

そして柚月は、森は今日も桜のそばにいて帰らないだろうと半ば諦めていた。

ところがドアを開けると、ソファに座る背の高い森の姿が目に入った。彼は膝にノートパソコンを置き、仕事をしていた。

物音に気づいた森は顔を上げ、「授業は終わったのか」と低く尋ねた。

柚月は一瞬戸惑ったが、すぐに家政婦さんが学校へ行ったことを伝えたのだと察した。

「ええ」とだけ短く返した。 それから荷物を棚に置きつつ、どうしても気になり、「桜さんは……もう大丈夫なの?」と聞いた。

すると森はわずかに眉を寄せ、あからさまに不快そうに言った。「彼女は君の叔母さんになる人だ。その呼び方は失礼だろう」

また「関係」を突き付けたいのだと悟り、柚月は淡々と「まだ結婚していないでしょう。名前は呼ぶためのものよ」と返した。

森は柚月の言い分にまだ納得していないようだったが、意外なことにそれ以上は何も言わず、不意に話題を変えた。

森は納得していない様子だったが、それ以上追及せず、唐突に話題を変えた。「さっきは焦っていて、力加減を誤った。家政婦さんから、ダイニングテーブルにぶつけたと聞いたが──怪我は重くないのか?」

柚月は体の横で握った拳にぐっと力を込めたが、すぐにその手を緩めた。そして視線を落とし、静かに告げた。「大丈夫です」

しかし森は、その言葉をまるで信じていない様子だった。というのも、家政婦さんの話では、柚月は痛みで泣いていたと聞いていたからだ。

そもそもこの子は昔から我慢強いはずだ。いったいどれほどの怪我なら、あそこまで取り乱すのか──森はそう考えた。

やがて森は眉を強く寄せ、ノートパソコンを静かに置くと、そのまま柚月の前まで歩み寄った。「見せてみろ……」

その手が伸びた瞬間、柚月は思わず大きく一歩、後ろへ下がった。 すると森の節ばった指先は宙で止まり、そのまま固まった。柚月が自分を避けるとは、想像もしていなかったのだ。

「柚月?」

森はゆっくり顔を上げ、どこか複雑な目で彼女を見つめた。

そして「さっきは本当に桜が心配で、君に気が回らなかった。悪かった。許してくれないか」と、素っ気なく言った。

確かにあのとき、森の視界には桜しかいなかった。柚月のことなど目に入っていなかったのだ。その事実に、胸の奥がきゅっと締めつけられた。

それでも柚月は顔を上げずに、抑えた声音で言った。「ちょっとぶつけただけ。桜が転んだ時に比べたら、大したことないわ。あなたは彼女のそばにいてあげて」

「本当に平気なのか?」

「うん」

森は疑うように2秒ほど見つめ、それからようやく息をついた。

この様子なら大事ではないのだろう。もし深刻なら、この子の性格なら今ごろ言い争いになっているはずだ──森はそう判断した。

ちょうど森が何か言いかけたとき、ソファに置いていた携帯が突然鳴り出した。彼はすぐに手に取ると、先ほどまでの冷たさとは別人のような、甘やかな声で言った。「桜、どうした?」

そして「そんなに不注意でどうする。大怪我はしていないのか?」と気遣う声を向けた。

そう言いながら森はソファの上着をつかみ、「すぐ行く」と短く告げた。

そのまま玄関へ向かったが、そこでようやく背後の柚月を思い出し、振り返って言った。「何かあれば電話しろ。大人しくして、勝手に外へ出るなよ」

柚月は、森が家を出て車に乗り込み、エンジン音が次第に遠ざかるまで、黙って見送っていた。

そっと息を吐くと、腰の傷がまたじわりと痛み出した。

そのときバッグの中で携帯が震えた。取り出すと、画面には二階堂宗介の名前が表示されていて、それを見た途端、なぜか鼻の奥がつんとした。

そして柚月は通話ボタンを押した。

気づかないうちに、少し甘えるような声になっていた。『宗介、私……怪我しちゃった』

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