
妹扱いされた私を、今さら愛さないで
章 3
翌朝早く、彼女は親友の家に向かった。
海外でのこの三年間、彼女は治療を受けながら創作活動を続け、友人の陸雅がその才能を見出し、デザインを現実のものとして世に送り出してきたのだ。
彼女が今回帰国したのは、遅宴のためだけではなく、陸雅と共に自分たちの会社を経営するためでもあった。
久しぶりに再会した二人は、固く抱き合った。徐秋美の変貌ぶりに、陸雅は驚きを隠せない。
「信じられない、秋美。あなた、本当に綺麗になった!綺麗すぎて、誰だかわからなかったわ!」
徐秋美は微笑んだが、しばらく雑談を交わした後、真剣な面持ちで切り出した。
「小雅、私、国内での事業はやめようと思う。私の持ち株は、全部あなたに譲るわ」
「どうして?」陸雅はやはり納得がいかない様子だ。「遅宴のことは……もういいの?」
遅宴の名が出た途端、徐秋美の笑顔が凍りつく。彼女は一瞬ためらったが、昨日彼に会った一件を陸雅に打ち明けた。
話を聞き終えた陸雅は、複雑な面持ちで頷いた。「あなたの決断を支持するわ」
徐秋美は彼女を抱きしめ返す。「提携は続けられる。一緒に海外市場を開拓しましょう」
彼女は、もはやかつての卑屈だった徐秋美ではない。やると決めたことは、必ずやり遂げる自信があった。
陸雅と食事を終えて別れた後、遅宴から夥しい数の着信があったことに気づいた。
無視するつもりだったが、彼からメッセージが届く。【連絡がつかないなら、警察に失踪届を出すしかない】
正体が露見することを恐れ、徐秋美は彼に電話をかけ直した。すると、ものの数分で遅宴が姿を現した。
すでに食事は済ませたと伝えたにもかかわらず、遅宴は彼女を最高級レストランへと強引に連れて行き、次々と料理を注文した。
徐秋美の気のない様子を見て、遅宴は怪訝そうに尋ねた。「小雪、どうして急にそんなに冷たいんだ?」
その問いに、彼女はなんと答えていいか分からなかった。
彼女が押し黙ったその時、憎悪の眼差しを向けた女がそばを通り過ぎたことに、彼女は気づかなかった。女は突然バランスを崩したふりをして、煮え立つ湯を彼女の顔めがけて浴びせかけてきた。
「危ない!」遅宴が瞬時に飛びつき、自らの腕で熱湯の大半を受け止めた。
熱湯が服を突き抜け染み込んでいるにもかかわらず、彼はまず徐秋美の様子を屈み込んで確認する。
彼女の額が、飛び散った湯で赤く火傷しているのを見た途端、 彼は怒りを爆発させ、振り向きざまにその女の胸ぐらを掴み上げた。
そこで徐秋美はようやく、その女が高校の同級生、許可心であることに気づいた。かつて遅宴に何度もラブレターを渡していた女だ。
学生時代、自分が遅宴と親しくしているというだけで、許可心は彼女を執拗にいじめた。彼女につけられたあだ名の大半は許可心が考えたものだし、昼食を捨てられたことも一度や二度ではない。「デブは飯を食う資格がない」とまで言われたのだ。
かつての彼女は卑屈で、反抗する勇気もなかった。 遅宴はその事実を知っていながら、彼女を庇うどころか、「彼女に悪気はないさ。君と冗談でじゃれているだけだろう」と軽くあしらうだけだった。
だが今はどうだ。遅宴は怒りに顔を歪め、許可心に謝罪を強要している。
許可心がそれを拒むと、遅宴は彼女の頭を掴み、何度もテーブルに打ち付け始めた。許可心の額は、みるみるうちに赤く腫れ上がっていく。
「このクズ!遅宴、私たち何年も付き合った仲じゃない!別れた途端、もう新しい女を見つけたわけ!?」
その言葉に、徐秋美は凍りついたまま、思考を巡らせた。
遅宴が、かつて自分をあれほどいじめた許可心と、数年も「付き合っていた」?
許可心をレストランから追い出す彼を目の当たりにし、徐秋美は目の前の男がまるで別人のように思えた。彼は、本当に自分が十数年来知っている、あの遅宴なのだろうか。
徐秋美の視線を受けても、遅宴は平然とした表情を崩さない。
「あんな女の戯言を信じるな。あいつが何年も俺に付きまとってきただけだ。くっついたり離れたりを繰り返しただけで、全部合わせても一緒にいたのは半年にも満たない」
服が濡れてしまったため、徐秋美は遅宴が着替えるホテルまで付き添った。
部屋に入るや否や、遅宴は彼女を壁に押し付け、その唇を塞ごうと顔を近づけてきた。
徐秋美は一切ためらわなかった。彼を力任せに突き飛ばし、乾いた音を立ててその頬を張り飛ばす。わずかに冷静さを取り戻すと、彼女はドアを開けて部屋を出た。
「外で待ってる」
着替えを終えた遅宴は、彼女をデパートへと連れ出した。
「近々、妹が帰国するんだ。プレゼントを選びたいんだが、一緒に見立ててくれないか」
彼が口にする「妹」とは、まさか自分のことだろうか。
徐秋美はそう思いながら、彼の後に続いて高級ブランド店に入った。
普段は湯水のように金を使う男が、今この時に限って選んだのは、ハローキティの安っぽいネックレスだった。
「あいつは、こういう幼稚なものばかり好きなんだ……」
ラッピングされていくネックレスを凝視するうち、徐秋美の瞳がじわりと潤んだ。
彼女が何よりも好きなキャラクター、それがハローキティだった。今、彼女のスマートフォンを開けば、壁紙もプロフィール画像もハローキティで埋め尽くされているはずだ。
それは、まだ彼女が太っていた頃、遅宴に「顔がハローキティみたいに丸いな」と言われたことがきっかけだった。あの日以来、彼女はこの丸顔の子猫が大好きになったのだ。
昨日は友人の前で自分の悪口を並べ立て、「二度と連絡するな」とまで言ったくせに。なぜ今になって、自分のためにプレゼントなどを買うのだろうか。
支払いをする遅宴の後ろ姿を見つめながら、彼女は呆然と尋ねた。「その妹さんって、あなたにとって大事な人なの?」
遅宴は質問には答えず、的外れなことを口にした。「あいつにプレゼントを買うのが不満か?嫉妬したか?」
赤く充血した目を隠すため、彼女は彼に背を向けて店を出た。
遅宴は後を追ってくると、言い訳のようにこう続けた。「ただの安物の贈り物だ。あいつが戻ってきたら、少しはおとなしくなってほしいだけさ。昔みたいに俺に付きまとって、俺の恋愛の邪魔をしないようにな」
徐秋美は黙り込んだ。彼女は心に決めていた。
(安心して。もう二度とあなたに付きまとったりしない。ここを去ったら、私はもう二度と帰ってこないから)
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