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冷徹な高嶺の花は、身籠ったバツイチ女を逃がさない の小説カバー

冷徹な高嶺の花は、身籠ったバツイチ女を逃がさない

18歳の誕生日、悲劇に襲われ名誉を失った雲野美緒を救ったのは篠原航平だった。加害者を裁き、自分を妻に迎えてくれた彼との生活に、美緒は確かな幸せを感じていた。しかし結婚2年目、妊活を目前に彼女が耳にしたのは、夫の冷酷な本音だった。航平にとってこの結婚は、愛する本命の女を刑務所送りから守るための隠れ蓑に過ぎず、美緒はただ利用されていたのだ。信じていた愛がすべて偽りだと知った彼女は、本命の女の帰還を機に離婚を決意する。航平は「俺なしで生きていけるはずがない」と高を括り、彼女が泣きついてくるのを待ちわびていた。だが、再び世間の前に現れた美緒は、テクノロジー界の新星として眩いほどの成功を収めていた。立場は逆転し、今度は航平が雨の中で跪き、後悔と共に復縁を乞うことになる。しかし、彼女の傍らには名家の御曹司である新たな守護者の姿があった。高嶺の花と称される彼が、強い独占欲で美緒を抱き寄せ、過去を切り捨てた彼女を情熱的に愛し抜く。裏切りから始まった運命は、真実の愛によって塗り替えられていく。
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夫の篠原航平が女性と親密な様子でホテルに出入りしていた――友人からそんな話を聞かされても、美緒は「見間違いじゃない?」と笑って受け流すだけだった。

あの航平が浮気など、あり得るはずがない。

2人は幼馴染であり、13年もの歳月を共に歩んできたのだ。その絆は、何よりも深く揺るぎないものだった。

先月の美緒の誕生日にも、彼は海崎市で最も大きな屋外ビジョンを貸し切って華々しく祝い、街中に向けて彼女への愛を誓ってくれたばかりなのだ。

さらには、2人は今、本格的に妊活を始めたばかりなのだ。

今日、やっと妊娠可能と診断が下りたその足で、一番にこの喜びを分かち合おうと、美緒は航平のオフィスへ向かった。

最上階にあるオフィスへ直通するエレベーターを降りた途端、1人の人影に遮られた。

「どうやってここまできたんですか? アポイントのない方は、通すわけにはいきません!」

目の前に立つ女性は、鮮やかな黄色のワンピースに身を包んでいた。愛らしく整った顔立ちだが、なぜか見覚えがある気がしてならない。

彼女は両腕を広げて美緒の前に立ちはだかり、その顔にはどこか小生意気で勝ち気な色が滲んでいた。

「須藤さん、こちらは社長の奥様です。早く奥様に謝りなさい」

社長秘書の長谷川誠が急ぎ足でやってきて彼女を引き離した。その女性は一瞬驚いた後、唇を噛みながら顔を上げた。

「雲野社長、申し訳ありません。私は須藤心結と申します。篠原社長に学費を支援していただいている学生で、今は社長のお傍でインターンをさせていただく機会をいただき、大変感謝しております。 先ほどは来客の連絡を受けておりませんでしたので、規定通りお止めしてしまいました。どうかご理解ください」

無垢を装ったその瞳の奥には、チクリと刺すような言葉の棘が潜んでいた。

美緒は言葉を返すことなく、すっと目を伏せた。その視線は心結の手に落ちていた。

「綺麗な色のネイルね」

微細なラメが煌めくモランディ・ブルー。それは昨日、航平の右手の小指の爪にこびりついていた、あの見覚えのある残色と寸分違わぬものだった。

昨晩、2人でキッチンに立っていた際、それを見つけた美緒が尋ねると、航平は「仕事中にインクがついた」と事もなげに笑っていた。当時の彼女は、彼の言葉を少しも疑わなかった。

心結は慌てて両手を後ろに隠し、どこか気まずそうに顔を背けた。

その時、美緒の目に飛び込んできたのは、彼女の耳の後ろの白い首筋に刻まれた深いキスマークだった。縁には微かな歯形の痕まで残っている。

4年の交際と2年の結婚生活――航平の、秘められた歪な性癖を誰よりも熟知しているのは美緒だった。

情欲が最高潮に達したとき、彼は決まって耳の後ろへ執拗に顔を埋め、息を荒くしてこう飢えたように呟くのだ。

「なあ、いつになったら俺を受け入れてくれる? 狂いそうなほどお前が欲しいのに、我慢しすぎて全身が痛いんだ……」

数年前の凄惨な事件で子宮に深刻な重傷を負い、心身ともに酷く衰弱していた美緒は、そう簡単には孕まぬ体になっていた。

おまけに航平は避妊具に対する極度のアレルギーを抱えており、多忙な生活も相まって、結婚から2年が経つ今も、2人は本当の意味での最後の一線を越えずにいたのだ。

彼が欲望を必死に抑えて冷水シャワーを浴びに行くたび、美緒は申し訳なさと感動、そして甘い幸福感に胸を震わせてきたのである。

だからこそ、航平から子供を作ろうと提案され、仕事を辞めて家で療養に専念するよう勧められた時、美緒は何の迷いもなくそれを受け入れたのだ。

この半年間、彼女は言われるがまま苦い漢方薬を飲み続けてきたが、その心は常に甘い期待で満たされていた。

今夜は、2人にとって本当の意味での初夜になるはずだった。美緒は気恥ずかしさを堪え、普段なら決して選ばないような勝負下着までまで用意していたのだ。

だが、今になってようやくわかった。航平は本当に私を大切にし、辛抱強く待ってくれていたわけではなかった。とっくの昔から外で欲求を満たしていたのだ。

友人の忠告を笑い飛ばした自分への嘲笑。盲目的に信じ切っていた愛。それらすべてが、今や容赦のない無残な平手打ちとなって美緒のプライドを打ち砕く。彼女は全身の血が凍りついたかのように、その場に縫い付けられていた。

「奥様、社長は白石様とオフィスで打ち合わせ中です。どうぞお入りください」

我に返ると、長谷川が不満げな心結を連れて、すでにその場を離れていた。

美緒は一歩、また一歩と社長室へと歩を進めた。

オフィスのドアを押し開けた時、隙間から話し声が漏れ聞こえてきた。

「身代わりで遊ぶのは勝手だが、身近に置くなんて大胆すぎる。美緒にバレて、家の中がめちゃくちゃにならないようにしろよ」

それは、二番目の兄である白石宏樹の声だった。

雷に打たれたような衝撃を受け、その場に立ち尽くし、全身が冷たくなっていく。

航平の浮気を、まさか実の兄までもが知っていたとは。

「兄さん、心配いりませんよ。美緒は僕を心から信じきっていますから。 あれだけ俺を愛していて、聞き分けもいい。俺から離れられるなんて考えられない。家庭が崩壊するなんてありえませんよ。 それに、家で妊活に専念していますから、他のことに構っている余裕なんてないはずです」

航平の低く落ち着いた声は、相変わらず心地よく響く。その言葉には絶対的な自信が満ち溢れていた。

だがその響きは、今や幾重にも毒を塗った針となり、ドアを突き抜けて美緒の心臓を容赦なく刺していく。

「それもそうだな。あの時、美桜が送り込んだチンピラのせいで、美緒は二度も刺され、子宮を失いかけた。あの当時、海崎市であいつが子供を授かる体ではなくなったと知らない者はいなかったからな」

「お前が付きっきりで看病し、膝を折ってプロポーズし、海外旅行へ連れ出してあいつを絶望のどん底から引き戻してくれなければ――俺たちが美桜の犯行の証拠を隠滅し、海外へ逃がす時間を稼ぐことなど到底できなかったからな」

「もしあの件で美桜が刑務所に入ることになっていたら、あの子の人生はめちゃくちゃになっていたはずだ。 お前の美桜への想いも、大したものだ」

「だが、美桜はプライドが高い。自分の目に砂が入るのを許せない性格だ。美緒のような扱いやすい女とは違う。自分に似せた身代わりを作ったと知れば、黙っていないだろう」

「単なる遊びですよ。美桜が帰国したら、あの子とは手を切ります」

「お前が分かっているなら、それでいい」

ドアノブを掴む美緒の手は、抑えようもなく震えていた。足元から這い上がってくるような寒気が、全身を支配していく。

まるで鉄の手に心臓を鷲掴みにされ、容赦なく握り潰されたかのような衝撃に、彼女は息を詰まらせた。あまりの激痛と絶望に、背中を丸めてその場に蹲ることしかできなかった。

美緒は白石家の正真正銘の令嬢でありながら、17歳になってようやく家族に探し出された。

どれほど聞き分けのいい娘を演じ、家族の機嫌を伺っても、両親も兄たちも、養女の美桜ばかりを溺愛していた。

ただ唯一、祖母だけが美緒を心から慈しんでくれた。

18歳の誕生日のことだ。祖母は白石家に伝わるブレスレットを美緒に贈った。それに嫉妬した美桜は大声で泣き喚き、結局、両親は彼女をなだめるためだけに、10億円の豪邸を買い与えて埋め合わせをした。

だが、それから間もなくのことだった。夜道を帰宅していた美緒は、数人のチンピラに絡まれてしまう。

暗い路地へと引きずり込まれ、必死に抵抗したものの、容赦なく二度も刃物で刺された。

血まみれになった彼女を見ると、チンピラたちは怯えて逃げ去った。美緒は血の跡を残しながら、助けを求めて必死に路地を這い出した。

病院に運び込まれた時には、子宮を失いかけるほどの重体だった。

当時、この事件は社会問題として大きく報道され、世間を騒がせた。

「聞いた?白石家の探し出された令嬢、レイプされた上に子宮もダメになって、摘出することになったんだって!」

「うそ、じゃあ子供が産めない体になったってこと? もともと育ちが悪くて、何から何まであの養女に敵わなかったのに、それじゃあ一生嫁にも行けないし、白石家のお荷物ね」

「一体、何人の男に弄ばれたのかしら? 私だったら、とっくに自殺してるわ」

心ない噂と嘲笑が、洪水のように美緒を襲った。

そんな人生で最も暗い時期に、美緒の傍に寄り添い、献身的に支えてくれたのが幼馴染の航平だった。

誰もが彼女を指さす中、彼は街中の凄まじい逆風を跳ね除け、彼女に愛を告白した。

そればかりか、彼は盛大なセレモニーまで用意し、18歳になったばかりの彼女にプロポーズしたのだ。

彼女を旅行に連れ出し、その優しさで傷ついた心を癒していった。

幼い頃に溺れた時も、助けてくれたのは航平だった。あの日から、彼女はずっと彼の後ろを追いかけてきたのである。

もともと彼に密かな恋心を抱いていた美緒は、その深い慈しみに夢心地のまま溺れていった。白石家の猛反対を押し切り、当時まだ何者でもなかった彼と共に歩むことを決意したのだ。

共に起業し、狭い地下室で暮らす日々も、どんなに辛くても苦しくても怖くなかった。2年後、2人は約束通り入籍した。結婚してからも彼は変わらず優しく、恋人時代のような睦まじい日々の中で妊活を始めたはずだった。

すべてが、あまりに完璧だった。美緒にとって航平は人生を照らす光であり、自分を救い出してくれる美しい夢――過酷な運命に対する神様からの贈り物だと信じて疑わなかったのだ。

まさか思いもしなかった。航平が本当に愛していたのは、あの美桜だったなんて。

どうりで心結を初めて見た時、見覚えがあると思ったわけだ。彼女の容姿と雰囲気は、美桜のあの儚げで無垢な様子に驚くほどよく似ていたのだから。

航平が愛を囁き、プロポーズし、結婚まで決めたのは、すべては美桜の犯した罪を隠し、彼女を守るためだったのだ!

(はっ、大した純愛だこと)

(じゃあ、この私は一体何だというの?)

(彼らの偉大な愛の物語の、生贄?)

(あの大切な妹を守り抜くための、ただの犠牲?)

(こんなにも美しい夢を見せてくれたことに、感謝でもすべきなのかしら?)

「誰だ?」

ドアの向こうから、低く冷たい声が響いた。

デスクに座っていた航平が、その深い眼差しでわずかに開いたドアを一瞥すると、勢いよく立ち上がった。

彼は長い脚を力強く踏み出し、人を寄せ付けない殺気を纏ってドアへと歩み寄る。重厚な両開きのドアを乱暴に開け放ち、鋭い視線を外へと向けた。

だが、そこには誰もいない。

静まり返る廊下があるだけだった。

航平が訝しげに眉をひそめていると、長谷川が足早に近づいてきた。

「今、誰かここに来たか?」航平が威圧的な視線を向ける。

長谷川は動揺を隠しながらも、慌てて恭しく答えた。

「社長、奥様がお見えになりました。 先ほど須藤さんと鉢合わせして、少しご機嫌を損ねられたご様子でしたが……。奥様にお会いにならなかったのですか?」

「美緒が来ていたのか?」宏樹も歩み寄り、その表情に緊張が走る。

航平は眉をきつく寄せた。その瞬間、何故か得体の知れない胸騒ぎが彼を襲い、冷ややかな眼差しを長谷川に突きつける。

「すぐに監視カメラの映像を確認しろ」

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