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福田社長、もう十分です——私は離婚届にサインしました の小説カバー

福田社長、もう十分です——私は離婚届にサインしました

結婚から三年の月日が流れても、凛和が夫に注いできた献身的な愛が報われることはなかった。夫である福田社長の心には、常に「初恋の女性」という消えない影が潜んでいたからだ。ついに突きつけられたのは、あまりにも無慈悲な離婚届。絶望の淵に立たされた彼女は、最後の希望を振り絞るようにして「もし私との間に子供ができても、あなたは離婚を選ぶの?」と問いかける。しかし、彼から返ってきたのは、彼女の淡い期待を無残に打ち砕く非情な肯定の言葉だった。すべてを諦め、深く傷ついた凛和は、彼のもとを去る決意を固めて静かに姿を消す。愛を捧げ尽くし、すべてを失った彼女がたどり着いたのは孤独な病室だった。ところが、あんなに冷淡だったはずの夫が、今さらながら彼女の前に現れて縋りつく。「凛和、頼むから離婚しないでくれ」と。かつての傲慢さは消え、必死に許しを請う彼の姿。一度は完全に断ち切ったはずの愛の行方が、再び激しく揺れ動き始める。
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3

この三年間、ふたりは表向きには何もなかったが、実質的にはごく普通の夫婦同然だった。

毎朝、彼女は彼のスーツを選び、ネクタイを締めてやり、一緒に会社へ向かう。

夜に接待があるときは、その予定をきちんと伝えて

寝る前の夫婦生活もよくあるし、たまにはふたりで湯船に浸かることもあった。毎晩欠かさない「おやすみのキス」も、彼らの日常の一部だった。

結婚記念日も、バレンタインデーも、誕生日も——彼は一度も忘れたことがなかった。

彼女が望むものは、どんなものであれ叶えてくれた。

ロマンティックな演出も、ささやかな儀式も、余すところなく用意された。

彼は、「理想の夫」に必要なことを、すべて完璧にやり遂げていた。

彼女自身でさえ、日々がこのままずっと幸せに続くのだと思っていた。

けれど――江渡帰月が帰ってきた。

だから、すべてが終わる。

昨日の電話の女の声……あれが江渡帰月だったのだろうか。

もう、ずっと前から連絡を取っていたの?

この一ヶ月間、宗之の出張中ずっと…二人は一緒にいたってこと?

昨日、帰国したのも一緒だったの?

昨夜は…江渡帰月と過ごしていたの?

そんなことを考えた瞬間、凛和の心は氷のように冷たく凍りついた。宗之は、彼女の心を一刀ずつ、容赦なく切り裂いていく。血まみれで、見る影もないほどに。

「凛和、安心して。たとえ離婚しても、君は福田家の一員であることに変わりはない。君は、俺にとって一番大切な“妹”なんだ」

妹…?

3年の結婚生活。3年間、同じベッドで眠った日々。それでも結局、たどり着いたのは「妹」という立場だった。

そんなの、受け入れられるわけがないじゃないか…。

「そのときになってから、考えるよ」凛和は目を伏せ、皮肉のこもった笑みを唇の端に浮かべながら、曖昧に言葉を濁した。

宗之は、手を伸ばして襟元を軽く引き、深い眼差しで彼女を見つめた。「そうだ、さっき――俺に何か言いたいことがあったんじゃないか?」

凛和は手元の書類を適当にめくりながら、口元にかすかな笑みを浮かべた。「別に。ただ、新シーズンの服飾販売計画が出たの。ひとつだけ決めきれない点があって相談したかったんだけど……今はもう、いい方法を思いついたから」

言わなくていい言葉は、もう心にしまっておけばいい。

「そうか。お疲れ」

福田氏ブランドの総監督として、凛和の手腕に、宗之は一切の疑念も抱いていなかった。

彼女はまさにこの業界で生きていくべくして生まれてきた人間だった。ジュエリーでも、ファッションでも、ゲームでも、電子機器でも、彼女が関わった商品は例外なくヒットを飛ばす。

「これが私の仕事だから。…じゃ、仕事に行ってくる」

凛和は深く息を吸い込み、慌てるそぶりも見せずにくるりと背を向けた。ひとつひとつの足取りをしっかりと刻みながら、平静を装い続ける。

「一緒に行くよ」 宗之はそう言って、二階へ着替えに向かった。

凛和の足がふと止まり、喉の奥から込み上げてくる酸っぱさに、目元が一瞬で赤く染まった。

離婚を切り出した後で、どうして彼はあんなにも平然としていられるのか――一緒に会社に行こうなんて、どうしてそんなひどいを

そうか、これが「愛していない」ということなのだ。

「もういいわ。どうせもうすぐ離婚するんだし、気をつけた方がいいよ。誰かに見られたら困るでしょ」

その言葉を残して、彼女は足早にその場を立ち去った。

彼女は怖かった。次の瞬間、自分が宗之の前で取り乱してしまうのが。

それだけは、絶対に駄目だった。

あの夜のあと——彼が彼女と結婚を決めたのは、彼女が「聞き分けのいい、素直な子」だと思ったから。

でも……ごめんね、赤ちゃん。これからは、ママが一人で頑張るから。

背後では、宗之が彼女の乱れた足取りを見つめていた。その眉が、かすかに寄った——誰にも気づかれないほどのわずかな仕草だった。

……

ガレージに着くと、彼女は運転席のドアを開けた。けれど、すぐにエンジンをかけることはせず、まずはスマホでSNSを開いた。

スクロールを続けた末に、ようやく手がかりを見つけた

宗之本人も、彼の友人たちもほとんど投稿しない。ただし、数少ない例外も存在する。

そのひとりが、内藤家の三男──内藤空だった。

凛和は見た。昨夜、内藤が投稿したSNSには、高級酒がずらりと並んだ食卓の写真が添えられていて、こう書かれていた。「江渡帰月美人の歓迎会。おかえり、これでやっと宗之の結婚祝いが食べられる!」

最後にはお祝いの絵文字も付いていた。

位置情報は、彼らがよく集まるあの会員制クラブだった。

――ぱたん。

涙がスマートフォンの画面に落ち、虹色の光がにじんだ。

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