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兄の悔恨、炎に消えた妹 の小説カバー

兄の悔恨、炎に消えた妹

「助けて、お兄ちゃん」。燃え盛る炎の中、拘束された美桜は最期の力を振り絞り、ポケットの中のスマホを起動させた。煙に巻かれ意識が遠のく中、兄・蒼甫へと繋がった電話。しかし、受話器越しに聞こえてきたのは、救いの手ではなく凍りつくような冷徹な言葉だった。「嘘つきの放火魔が。お前なんか、死ねばいい」。かつて兄を庇って背中に負った火傷の痕が疼く。それは二人にとって全ての始まりであり、絆の証だったはずの傷跡。しかし、妹を狂言自殺の常習犯だと断じる兄の無関心と拒絶が、美桜の生きる希望を完全に断ち切った。熱で溶けゆく携帯電話から漏れる無情な終話音とともに、彼女の命は炎の中に消えていく。自分を愛してくれなかった唯一の肉親によって見捨てられ、絶望の中で息絶えた美桜。肉体を失い、ただの魂となった彼女は、自らを殺したも同然の「英雄」である兄のその後を、静かに見届け始めることになる。血を分けた兄妹の間に横たわる深い溝と、凄惨な死の果てに待ち受ける真実とは。愛憎が渦巻く現代ミステリーホラー。
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蒼甫は、携帯電話の画面を見た瞬間、顔中の筋肉を緩ませた。私の魂は、彼のそんな表情を、何年も見ていなかった。

「美桜…どうしたんだい? 大丈夫?」

彼の声は、まるで別人のように優しかった。甘く、愛おしさがこもっている。私の魂は、その声を聞くだけで、胸が締め付けられるような痛みを感じた。

「うん、僕も会いたいよ。今すぐ行きたいけど、まだ仕事が…」

彼は、私が見たこともないような優しい笑顔を浮かべた。

美桜…高森美桜。

私の魂は、その名前を聞いた瞬間、全身を駆け巡る悪寒を感じた。彼女は、うちに引き取られた養女。そして、私から全てを奪った女。

かつて、お兄ちゃんも私に、こんな風に優しく微笑んでくれたことがあった。幼い頃、私が転んで泣いていると、彼はいつも一番に駆けつけてくれた。私の手を握り、頭を撫でて、「大丈夫だよ、陽葵。お兄ちゃんがいるから」と言ってくれた。

しかし、その優しさは、美桜が家族になって以来、私から完全に向けられなくなった。お兄ちゃんの優しい笑顔は、今では全て美桜に向けられている。

私の魂は、まるで心臓を直接握り潰されるような痛みに襲われた。

彼にとって、美桜が全てだった。

「わかった、わかったよ。すぐに終わらせて、迎えに行くからね。美桜が寂しがってるって聞いたら、僕も寂しくなるよ」

蒼甫は、携帯電話に向かって甘い言葉を囁いた。

「何を怯えているんだい? 誰かに何かされたのか?」

彼の声が、突然、少し低くなった。表情に、わずかな緊張が走る。

「陽葵が、また何かしたのか?」

蒼甫の目が、鋭く私の方に向けられた。私の魂は、彼の視線が私を貫くような錯覚に陥った。

「あの女が, また美桜をいじめたのか? 許さない。絶対に許さない」

彼の声は、怒りに震えていた。

「安心して、美桜。僕が必ず守るから。あの女が君に手を出そうとしたら、僕が責任を持って、二度と君の前に現れないようにする。どんな手を使ってでも、ね」

蒼甫の言葉は、私に向けられた明確な脅迫だった。私の魂は、彼の言葉に、深い絶望を感じた。

「だから、美桜は何も心配しなくていい。僕が全部解決するからね。週末は、二人で温泉に行こうか? ゆっくり休んで、僕と一緒に癒されよう」

彼は、再び優しい声に戻った。

私を、二度と美桜の前に現れないようにする、か。それは、つまり…

私の魂は、自嘲するように笑った。お兄ちゃんは、私を殺すと言っているのだ。

彼が、美桜の言葉しか信じないことは知っていた。しかし、彼がここまで私を憎んでいるとは。

お兄ちゃん…本当に、私を、死んでほしいと願っているの?

彼の言葉が、深く深く、私の魂に突き刺さった。

「うん、愛してるよ、美桜。早く会いたい」

蒼甫は、携帯電話に向かって、甘く囁いた。その言葉は、私の魂を粉々に打ち砕いた。

私の魂は、その言葉を聞いて、胸の奥底から冷たい水が湧き上がってくるような感覚に襲われた。

愛している…私には、一度も言ってくれなかった言葉。

「陽葵は本当に嫌な女ね。いつも蒼甫君の邪魔ばかりして」

電話の向こうから、甘く、しかしどこか悪意を秘めた声が聞こえた。美桜の声だった。

この声…!

私の魂は、全身が震え上がった。この声だ。この甘い声に、私は騙され、お兄ちゃんは操られてきた。

「…み…みお…」

私の魂は、無意識に、かすれた声を出そうとした。だが、それはただの空虚な響きとなり、誰にも届かない。

お兄ちゃん、お願い、美桜を信じないで! 彼女は…!

私の魂は、必死に警告しようとした。しかし、私の声は、彼には届かない。私の存在も、彼には見えない。

「じゃあね、蒼甫君。週末、楽しみにしてるわ」

美桜の声が、電話の向こうで響いた。その声は、甘い毒のように、私の魂を蝕んだ。

「うん、またね」

蒼甫は、携帯電話を切り、満足げな笑顔を浮かべた。

「陽葵の件、今すぐもう一度確認してくる」

蒼甫は、森永警部にそう言って、再び遺体安置室に向かおうとした。

森永警部は、慌てて蒼甫を呼び止めた。

「橘隊長! 陽葵さんの携帯に、何度か電話したんだが、繋がらないんだ! まさか、本当に何かあったんじゃ…」

森永警部の顔には、真剣な心配の色が浮かんでいた。

「また、俺の気を引くための芝居だろう。どうせ、どこかで男と遊んでいるか、俺に恨みを晴らすための計画を練っているかだ」

蒼甫は、冷たく言い放った。

「そんなことはない! 陽葵さんは、君のために…」

「もういい!」

蒼甫は、森永警部の言葉を遮り、苛立ったようにその場を去ろうとした。その時、彼の携帯が再び鳴った。

彼の表情は、まるで氷が溶けるかのように、柔らかなものへと変わっていった。

誰だろう…

私の魂は、その変化に、言いようのない不安を感じた。

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