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囚人番号309番の私を、世界的富豪が買い占めた夜。 の小説カバー

囚人番号309番の私を、世界的富豪が買い占めた夜。

看護師の長谷杏奈は、夫・和夫が起こした交通事故の身代わりとして三年間服役する。獄中で人命を救い減刑された彼女は、家族との再会を夢見て予定より早く出所するが、そこで待っていたのは残酷な裏切りだった。和夫は杏奈の親友である聡子と不倫に耽り、育児放棄によって愛娘の莉々を死なせていたのだ。さらに、夫が身代わりをさせた事故の真相は口封じのための殺人であり、出所後の杏奈に保険金をかけ殺害する計画まで進んでいた。愛する娘を失い、献身を蹂躙された杏奈の心は深い絶望に染まる。しかし、かつて彼女が命を救った世界的富豪・有馬康太の手が差し伸べられたことで運命は一変する。康太の圧倒的な支援を得て新たな身分を手に入れた杏奈は、過去を捨てて上流社会へと華麗に転身。自分を陥れた者たちへの壮絶な復讐劇を開始する。それはやがて、正義と真実の愛を取り戻す戦いとなり、彼女は巨大なビジネス帝国を導く伝説の存在へと登り詰めていく。裏切りに塗れた過去を清算し、自らの手で新たな栄光を掴み取る波乱の物語。
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指先が少し開いた玄関のドアに触れた時、胸の奥で心臓が激しく鳴っているのがはっきりと分かった。

夫の身代わりとなって服役した刑務所生活。本来なら3年の刑期だったが、私は刑務所内で3回人命救助をしたことで、3ヶ月の減刑を勝ち取った。

クリスマス前に手に入れたこの突然の自由は、2年9ヶ月間くすんでいた私の世界を照らす1筋の光のようだった。

このサプライズを胸に秘め、刑務所から家へと1直線に帰ってきた。ドアを開けたら、長谷和夫がどんなに驚いて笑うだろうか、娘の長谷莉々が私の胸に飛び込んできて、甘い声で「ママ」と呼んでくれるだろうかと想像しながら。

それは、私が3年近い刑務所暮らしと引き換えに得た希望であり、数え切れないほどの冷たい夜を耐え抜くための支えだった。――私の家、私の夫、私の娘が、きっとあの頃のまま私を待ってくれているはずだと。

蒼海市六番通り18号。私が3年近く思い続けてきた我が家。

そっとドアを押し開けると、玄関から漂ってきた匂いに、私は一瞬で凍りついた。

私の馴染みのあるジャスミンの香りじゃない。

刑務所に入る前、和夫が私にプレゼントしてくれたジャスミンのアロマ。「君みたいに爽やかな香りだね」と彼が言ってくれたそれを、私はずっと玄関の棚に置いていた。

だが今、空気に満ちているのは、吐き気がするほど甘ったるい香水の匂いだった。それは主張が激しく、まるで熟れすぎたリンゴが腐る直前に必死で最後の誘惑を放っているかのようで、鼻の奥をツンと刺激した。

私のアロマボトルがなくなっている。

視線を玄関の壁に向けると、さらに胸がざわついた。

海辺で撮った私たち家族3人の写真も、莉々が1歳の誕生日に可愛いドレスを着て撮った写真も、すべて消えていた。

写真が飾られていた場所にはうっすらと跡が残り、まるで傷跡のように、言葉にできない何かが起きたことを私に告げていた。

リビングにはクリスマスの飾り付けもない。

嫌な予感がツル草のように一瞬で心臓に巻き付き、息が苦しくなった。

「和夫?」私はおそるおそる声をかけた。その声は広いリビングに響き、ひどくか細く聞こえた。

何の返事もない。

しかし、家の中のあちこちに生活の跡があるのに、それは私とは無関係のものだった。

ローテーブルの上にはワイングラスが2つ置かれ、その縁にはうっすらと口紅の跡がついていた。派手な真っ赤な口紅で、私はそんなどぎつい色を使ったことがない。

ソファには黒いシルクのネグリジェが無造作に放り出されていた。透け感のあるデザインで、サイズは明らかに私より1つ大きく、生地にはさっきの甘ったるい香水の匂いが染み付いていた。

私はソファのそばに歩み寄り、新しくできた引っかき傷に触れた。

何かに導かれるようにしゃがみ込み、傷の横の隙間に爪を引っ掛けると、指先がソファの下にある小さくて硬いものに触れた。

そっと引っ張り出すと、小さな箱が手のひらに転がり落ちた。

それは莉々のパズルボックスで、角が1つ欠けていた。

ドクン。私の世界がこの瞬間弾け飛び、そして一瞬で死の静寂に包まれたような気がした。

これは莉々が一番気に入っていた誕生日プレゼントだ。

あの子が3歳になった日に、私が自分の手で贈ったもの。

あの子はパズルゲームが好きだった。

あの時、彼女は私の首に抱きつき、舌足らずな声で言った。「ママ、この箱すっごく可愛い。私、パズル名人になるの」

私が刑務所に入る日も、あの子はこの箱を握りしめ、泣きながら私の服の裾を掴んで離そうとしなかった。

はっきりと覚えている。あの子はこのパズルボックスを宝物のように大切にしていて、ソファの下にポイッと放り投げるようなことなど絶対にしない。

それなのに今は、まるでゴミのように暗い隅っこに捨てられ、分厚いホコリをかぶっている。

(莉々は? 私の莉々はどこにいるの?)

2階の寝室から、突然男女がイチャつく声が聞こえてきた。その声は階段を抜けて、はっきりと私の耳に届いた。

2人の声には聞き覚えがあった。

男の声は、私が3年間ずっと想い続けてきた和夫。そして女の笑い声は、なんと私の親友である秦野聡子だった。

血が頭に上り、そして次の瞬間、全身が凍りついた。

私はパズルボックスをソファの下に戻した。

ほとんど本能のまま、音を立てずに階段を上っていった。その1歩1歩は、まるで刃の上を歩いているようだった。

寝室のドアは完全には閉まっておらず、少しだけ隙間が開いていた。そこから見える光景は、鋭いナイフのように私の目を容赦なく突き刺した。

私の夫。私が3年の刑期をかけて守った男が、私の親友、かつて心から信頼していた友人と一緒に、全裸でベッドに横たわっていた。

聡子は和夫の胸に腕を回し、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。そして和夫はうつむき加減で彼女の首筋にキスをしていて、その手つきはやけに生々しかった。

聡子は、どうでもいい世間話でもするような、面白がる声で言った。 (ねえあなた。もし長谷杏奈が莉々の死んだこと知ったら、発狂しちゃうんじゃない?)

莉々が死んだ?

その言葉は落雷のように私の脳内に響き渡り、全身が冷え切り、まともに立っていられないほどだった。

私は唇を強く噛み締めて、どうにか声を殺した。口の中に血の味が広がった。

和夫の声が聞こえてきた。その声には陰湿な響きが混じっていた。「狂ってくれたほうがいいさ。あいつが生きているだけで邪魔なんだ。 あの時の交通事故のこと、俺が身代わりにさせた詳しい事情を知っているのはあいつだけだからな。 それに、あいつにかけさせたあの保険、受取人は今や俺だけだ。あいつを始末すれば、1000万円の保険金が手に入る。そうすれば俺たち、ずっと一緒にいられる」

ーー保険?

さらに多くの真実の欠片が脳裏に流れ込み、身の毛のよだつような事実がパズルのように組み上がっていく。

あの時、和夫は車で人を轢いてしまったと言い、泣きながら私に身代わりになってくれと頼み込んだ。ただの過失傷害だから刑期は長くならないと言って。

私は彼を信じ、法廷ですべての罪を認めた。ただ彼に莉々をしっかり育ててもらうために。

それに、私が刑務所に入る前、彼がどうしてもとサインさせた高額な生命保険。私はてっきり私を心配してくれているのだと思っていたが、最初から私を殺すための詐欺だったのだ!

私の娘は死んだ。私の夫は私を殺そうとしている。私の親友は私を裏切った。

3年の刑務所暮らしと引き換えに待っていたのは、こんなにも入念に仕組まれた罠と、完全なる裏切りだった!

(あいつらが、私の幸せだった家庭をぶち壊したんだ!)

(今すぐ部屋に飛び込んで、この手で2人を殺してやりたい!)

(でも、ここで暴走してはいけない!)

私は奥歯を噛み締め、拳を強く握りしめた。

これ以上ここにはいられず、きびすを返してこっそりとその場を離れた。

玄関まで来た時、近所の鈴木真理にバッタリ出くわしてしまった。

真理が驚きと喜びの混じった大きな声を出し、静寂を破った。「杏奈?帰ってきたの?」

私は答えるしかなかった。「真理、うん」

寝室からのイチャつく声が一瞬で止んだ。

慌ただしい足音が聞こえ、振り返ると、和夫と聡子が急いで服を着込み、裸足のまま飛び出してきた。

私を見た瞬間、和夫の顔に驚愕が走り、すぐさま激しい動揺に変わった。

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