
財産狙いの裏切り婚約者
章 3
浅田梓紗 POV:
私は, 震える手でペンを握った.
この男に, 私の全てを奪われる.
屈辱だった.
しかし, 生きるためには, 他に選択肢はなかった.
私の目の前で, 海翔は満足そうに笑った.
「よくやった」
彼は, 私の頭を撫でた.
その偽りの優しさに, 私は吐き気がした.
私は, 床に散らばったオルゴールの破片を拾い集めた.
母が大切にしていたもの.
私にとって, かけがえのないもの.
母は, 私が生まれてすぐに難病を患った.
その病気は, 遺伝性のものだった.
私が, その病気を引き継いでしまったのだ.
父は, 母の病気に苦しんだ.
彼もまた, 母の死に打ちひしがれた.
私の病気を治すために, 彼は必死に働いた.
しかし, 過労がたたり, 父もまた, この世を去ってしまった.
父は, 私を海翔に託した.
彼は, 海翔が私を支え, 守ってくれると信じていたのだ.
「こんなガラクタ, まだ拾っているのか? 」
海翔の声が, 私の耳に届いた.
彼は, 私の手の中のオルゴールを嘲笑った.
「これには, 特別な意味があるのよ」
私は言った.
「母が, 私に遺してくれたものだから」
海翔は, 一瞬, 驚いたような顔をした.
しかし, すぐに冷笑に戻った.
「まさか, まだそんなものに執着しているのか」
彼は, 私の手からオルゴールを奪い取ろうとした.
私は, 彼の手を振り払った.
「もう触らないで」
私の声は, 冷たかった.
海翔は, 私の態度に苛立ったようだった.
彼は, 私を寝室へと引きずり込んだ.
「何をしても, 無駄だ」
彼は言った.
「君は, 僕のものだ」
私は, 彼の言葉に鳥肌が立った.
彼の触れる手が, 私を汚しているように感じた.
「やめて! 」
私は叫んだ.
しかし, 彼は私の言葉に耳を傾けなかった.
「明日, この譲渡契約書にサインしてもらう」
彼は言った.
「そうすれば, 君の病気も治してやる」
彼は, 壊されたオルゴールを修復する代わりに, 私にサインを強要した.
私は, もう抵抗する気力もなかった.
ただ, 彼の言う通りにペンを握った.
「愚かな男ね」
私は, 心の中で呟いた.
彼は, 私が既に全ての資産を海外に移管していることに気づいていない.
私がサインした譲渡契約書は, ただの紙切れに過ぎない.
彼が欲しいのは, 私の財産.
しかし, 私は, 彼に何も与えない.
彼は, 私を愛していると嘯いた.
しかし, その言葉は, 全て嘘だった.
「何を考えているんだ? 」
海翔の声が, 私の耳に届いた.
彼の目には, 欲望の色がはっきりと見て取れた.
「君は, 僕と結婚するんだ」
彼は言った.
「そうすれば, 全て解決する」
私は, 彼の言葉に吐き気がした.
「あなたが欲しいのは, 私の財産だけでしょう? 」
私は尋ねた.
海翔の顔が, 怒りで歪んだ.
「僕が君を愛しているのは, 当たり前だろう! 」
彼は叫んだ.
しかし, 彼の言葉には, 何の感情もこもっていなかった.
彼は, 私を抱きしめた.
その温もりは, 私にとって, ただの不快感でしかなかった.
「君が僕を怒らせたからだ」
彼は言った.
「君が僕の言うことを聞かないからだ」
私は, もう何も感じなかった.
彼の言葉は, 私の心を通り過ぎていった.
過去の記憶が, 私の脳裏を駆け巡った.
彼が, 私に優しく接していた頃の記憶.
あの頃の彼は, どこへ行ってしまったのだろう.
いや, 最初から, あの頃の彼など存在しなかったのだ.
彼は, 最初から, 私の財産を狙っていた.
私の病気を, 利用していたのだ.
「梓紗, 僕の言うことを聞くんだ」
海翔の声が, 私の耳に届いた.
「さもないと, どうなるか, 分かっているだろう? 」
彼の言葉は, 私を奈落の底へと突き落とした.
私は, 彼の支配から逃れる術はないのだろうか.
私は, 必死に抵抗した.
「やめて! 私を解放して! 」
私は叫んだ.
しかし, 彼の力は, 私よりも強かった.
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