
三年越しの錯愛、彼女はもう戻らない
章 2
桜庭柚葉が手に持っていたクリスタルトロフィーが粉々に砕け散った。
破片が飛び散り、辺り一面に散らばった。
「本当にごめんなさい…」藤堂茜は呆然とし、すぐにしゃがみ込んでガラスの破片を拾い始めた。「痛っ」
藤原悠斗はすぐに彼女を引き上げ、血がにじむ指先を心配そうに見つめた。「ガラスを拾う必要はないよ。後で使用人に掃除させればいいさ」
藤堂茜は申し訳なさそうに、顔色の悪い桜庭柚葉を見た。「先輩、本当にごめんなさい。うっかりして飛燕杯を割ってしまいました」
クラシックダンスを学ぶ者にとって、「飛燕杯」は最高の栄誉である。
それが今、桜庭柚葉の栄誉は地面に散らばる破片となってしまった。
藤原悠斗は「飛燕杯」という言葉を聞いて眉をひそめた。
彼は、柚葉がこのトロフィーを手にした時、嬉しさのあまり泣き笑いし、一晩中俺の耳元で喋り続けたことを忘れられない。
ダンスはわからないが、格闘選手として、賞がどれほどの価値を持つか理解していた。
「先輩、わざとじゃないんです…」 藤堂茜は涙を浮かべ、再びガラスの破片を拾おうとした。
次の瞬間、彼女の襟を桜庭柚葉が掴んだ。
「パシッ」という音が響き渡った。
澄んだ音のビンタが藤堂茜の白い頬に落ちた。
真っ赤な指の跡が衝撃的に目立つ。
広々としたリビングルームの雰囲気が一瞬にして凝固した。
「何を無実のふりしてるの?」 桜庭柚葉は理性を保とうとしたが、散らばる破片と、藤堂茜が故意にぶつかった瞬間を思い出し、怒りが沸騰した。
「故意かどうか、監視カメラを調べればわかるわ」
その言葉に、藤堂茜の目に一瞬の不安がよぎった。
「もういい!」藤原悠斗は藤堂茜の前に立ち、冷たい目で桜庭柚葉を見た。「ただのガラスの破片だろ。 飛燕杯だろうが何だろうが、お前が得た栄誉は消えるわけじゃない。そんなに攻撃的になる必要あるか?」
……
桜庭柚葉は目の前の男を呆然と見つめた。心が黒い網に絡め取られ、息ができなかった。
「茜はわざとじゃないんだ。お前は勝手に怒らないでくれ」
藤原悠斗は藤堂茜の腫れた頬を心配そうに見つめ、手を桜庭柚葉の顔に振り上げた。
彼は目を閉じ、宙に浮いた手をゆっくり引き戻し、警告した。「次彼女に手を出すようなことがあれば、俺は絶対に許さない。出て行け」
桜庭柚葉は目が熱くなり、鼻がつんとした。
彼女は深く息を吸い、スーツケースを引きながら大股で去った。
外ではいつの間にか大雨が降り始めていた。
桜庭柚葉は雨の中を狼狽しながら歩き、十四歳の時、藤原悠斗が彼女のために喧嘩をした場面を思い出した。
あの日は、人生初の重要な大会で優勝し、トロフィーを抱えて帰宅したが、酔っ払いの男にぶつかった。
トロフィーは地面に砕け、酔っ払いは悪態をつきながら蹴り飛ばした。
藤原悠斗は相手の鼻に一発をくらわせた。
その夜、彼は泣きじゃくる彼女を背負って家に帰り、一晩中かけて壊れたトロフィーを修復した。
今でも、血走った目で誇らしげにトロフィーを渡し、「見てみろ、どこも壊れてないだろ」と言った彼の姿を忘れられない。
かつて彼女の栄誉を大切にしてくれた男が、今は別の女のために自分を殴ろうとした…
校外に借りたアパートに戻ると、桜庭柚葉は全身ずぶ濡れだった。
不運にも高熱を出し、彼女は二日間寝込んでいた。
「ピン——」
ドアベルが鳴った。
桜庭柚葉がドアを開ける前に、足音が近づいてきた。
弱々しく目を上げると、藤原悠斗が上から俺を見下ろしていた。その陰鬱な目がすぐ近くに迫っていた。
次の瞬間、桜庭柚葉の首を大きな力が掴んだ。
「教えろ、茜をどこに閉じ込めた!」
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