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エースの罠 の小説カバー

エースの罠

7年前、エメラルド・ハットンは癒えない傷を抱え、愛する家族や友人のすべてを捨ててニューヨークへと逃れた。彼女を絶望の淵に突き落としたのは、幼い頃にいじめから救ってくれた、兄の親友への一途な恋心だった。裏切りに遭い、深く傷ついた彼女は、生き抜くために辛い記憶を心の奥底に封印し続けてきた。しかし大学卒業後、エメラルドは運命に導かれるように、避けていた故郷へと戻ることになる。そこで彼女を待ち受けていたのは、冷酷な億万長者へと変貌を遂げたアキレス・バレンシアだった。壮絶な過去を背負い、誰もが恐れる男となったアキレスの心は底知れぬ闇に覆われていたが、唯一、親友の妹である彼女だけが彼の「光」だった。長い年月を経て再会した彼女を、彼は二度と離さないと誓う。アキレスは彼女を完全に手に入れるため、甘美で危険な誘惑のゲームを開始する。次々と仕掛けられる巧妙な罠と、愛と欲望が渦巻く炎の中で、エメラルドは自分の心を守り抜くことができるのか。欲しいものは必ず手に入れる男、アキレスが支配するこのゲームから、逃げ出すことは決して許されない。
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腕時計をちらりと見る。

午前9時30分。

「お客さま、携帯電話の電源をお切りくださいませ。 飛行機はまもなく離陸致します」客室乗務員は、天使のような声で促した。

「はい、今すぐ」 申し訳なさそうに答えた。

うなずいて、乗務員は歩き去った。

「ママ、もう電話切らないと。 乗務員に2回も注意されたの」

「わかった、わかった! もう切るわね。 あと数時間で帰ってくるんですもの。 到着したら、空港の外で待っていますよ!」 ママの声から、興奮しているのがわかる。 すると突然、ホームシックに襲われた。 だって、もう2年も会っていないんだもの。

「その子と馴れ馴れしくしないように」と、後ろでパパが叫ぶ。

頭を振って、私は笑い声をあげた。 「では、 空港で会いましょう」

「愛してるよ!」 パパとママが声をそろえた。

「私もよ!」

ため息をついて、窓の外に視線を移すと、 別の飛行機が滑走路を離陸し、ちょうど空高く飛んでいくのが見えた。 それを見るのは、昔から大好き。 自分が離陸するときには、ひっくり返らないよう、いつも苦労するのだけれど。

そばで人が倒れて、思わず振り向いた。 苦しそうに、彼はシートにもたれた。

「お腹の調子はどう?」 と聞くと、額に汗をかき、頬も赤らんでいた。

「良くないよ。 ゆうべ、残りもののマカロニなんか食べなきゃよかった。 神よ! 誓います! もう二度と残りものには手をつけません」 彼は声を絞り出した。

かわいそうなやつ! こんな状況なのに、一緒に実家に来るなんて。

「ごめんね、ワーナー。 辛いのに、付き合わせちゃって。 やっぱり、残っているべきだったわね?」

すると、少年のような笑顔を浮かべた。 「そんなこと言うなよ。 今朝体調が悪いのをわかってて、一緒に来ることにしたんだから」

「一緒に来てと頼んだのは、私の方だし」罪悪感に苛まれた。

「冗談はよせよ。 君のためなら、何だってできるよ。 ほんの少し具合が悪い旅だけど、 もう薬も飲んだし、 今日中におさまるさ」 彼は私の手を握り、指を絡ませる。

私は、感謝の気持ちを込めて微笑んだ。

「愛してるよ」私の目を見つめて言った。

笑顔が消えそうになるのを何とかしのいで、彼の手を握り返す。 ちょうど乗客にシートベルトを促すアナウンスがあり、気まずい思いをせずに済んだ。

私たちは、付き合い始めてもう6ヶ月。 大学に入学してから知り合いになり、 すぐに親友になったわ。 私は、誰と付き合っても1週間以上続かなくて、誰かと関係を築くことはできないと思っていたの。 でも、ワーナーが友人の集まりに誘ってきたときは、断れなかった。

彼は、女の子が理想とする彼氏の条件をすべて満たしている。 つまり、ハンサムで知的、謙虚なうえに正直。 そして、一番大切なのは、私のことをよく理解してくれている。 そういうわけで、彼と知り合ってから、かれこれ3年が経った。 だから交際を申し込まれて、イエスと答えたの。

でも、たとえワーナーが何千回、愛を告白してくれても、私から気持ちを伝えることは、どうしてもできない。 彼のことは嫌いじゃない。好意を抱いているし、 素晴らしい人よ。 ただ、深い愛情を抱くには、もう少し時間が必要なんだと思う。 だから、今はその日が来るのを待っているの。

「お客さま、コーヒーはいかがですか?」 その声で、現実に戻った。

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