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捨てられ妻、今は大物に抱かれています の小説カバー

捨てられ妻、今は大物に抱かれています

夫に裏切られ、屈辱の中で離婚を突きつけられた柴田友子。どん底を味わった彼女だったが、その苦難を糧に再び自らの足で立ち上がる。かつては平凡な主婦に過ぎなかった彼女は、類まれなる才能を開花させ、今や世界中から熱い視線を浴びる人気画家へと華麗な転身を遂げていた。名声と輝かしい日々を手にした彼女の前に、かつて自分を捨てた元夫が「もう一度やり直したい」と身勝手な未練を抱いて現れる。しかし、彼の前に立ちはだかったのは、友子を優しく腕に抱く謎めいた大物実業家の姿だった。「彼女は俺の大切な人だ」という力強い宣言が響き渡る。自分を卑下していた過去を脱ぎ捨て、真実の愛と成功を掴み取った女性の物語。かつての夫の嫉妬や後悔が交差する中で、新たなパートナーとの絆が深まっていく。どん底からの鮮やかな飛躍を描き、真の幸福を問いかける、痛快な大人の逆転ラブロマンスが幕を開ける。
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新鹿花月の目に、かすかな陰りが射した。

あのことを口にするほど愚かではない。だから、彼女は適当に言い訳をこしらえてごまかした。「結婚してからの2年間、彼女は名前を伏せて家庭に入ってた。あんたとは差がつきすぎたのよ。もしあんたがもっと強引な手を打ってたら、彼女に反論する余地なんてなかったんじゃない?」

伊藤友征は唇をきゅっと結んだ。

あの2年間、柴田友子は確かに彼に多くの助力を惜しまなかった。心を込めて、身を削るようにして彼を愛していた。

だが──単なる愛だけでは、何の意味ないんだ

彼は這いあげて、ここまでたどり着いて

ようやく手に入れた今の地位を、どうにか守り抜くには、権力者の後ろ盾が必要だった。

新鹿家のお嬢様という肩書きは、柴田友子の愛なんかより、はるかに価値があった。

そんなことを考えていると、艶やかな紅い唇がふいに近づいてきた。「友征、やっと地獄から抜け出せたわね。お祝い、しない?」

伊藤友征は伏し目がちに彼女を見下ろしながら、なぜか脳裏に柴田友子の冷ややかな顔がよぎった。

──家を出てから、もうこんなに時間が経っているのに。彼女は一度も、帰ってこいと電話を寄越してこない。

以前なら、彼がほんの少し様子を違えただけで、彼女はすぐに取り乱していたのに──

胸の奥に、言いようのない苛立ちが込み上げる。彼は思わず彼女を突き放した。「君、今は妊娠中だろ。もう少し自重しろ」

新鹿花月は、どこまでも抜け目のない女だった。

彼の気がどこか上の空なのを、新鹿花月はあっさり見抜いた。「どうしたの、友征。まさか…離婚したくない?」

彼はすぐさま否定する。「まさか、そんなわけないだろ」

「でも、なんだか顔が晴れないじゃない」

伊藤友征は、彼女をなだめるように言った。「親父の病状が悪化して、もう長くないかもしれない。久野斯年が急いで帰国したんだ。たぶん家の継承の件で動いてる。どう対処するか、俺も今考えてるところだ」

新鹿花月はふと目を見張った。「久野斯年…? 伊藤家の正妻が産んだ息子ってやつ? だって、もう『伊藤』の苗字じゃないんでしょ。そんな奴に、あんたと家督を争う資格なんてある?」

伊藤友征の瞳に、薄い翳りが落ちた。

口ではそう言えても──結局のところ、自分こそが“私生児”なのだ。

この何年も、心血を注いでここまでのし上がってきたのは、伊藤家で認められるためだけじゃない。

それ以上に──同じ血を引く、あの異母兄・久野斯年を押さえつけたかった。

どうあっても──彼は勝たなければならなかった。

一方その頃、友子はぐっすり眠ったまま、気づけば外はもうすっかり夜になっていた。目を覚ましたはずなのに、体は余計に重だるい。

夢の中、彼女は見知らぬ男に何度も何度も奪われていた。

薬のせいか、それとも──あの男の腕前があまりに巧みだったのか。

今こうして目覚めても、まだ身体の芯がふわふわしていて──柴田友子は、思わず頬を赤らめた。

友人からの電話を受けたときも、柴田友子はまだ心身ともにふわついたままだった。

電話の向こうで、咲耶衣夢がすぐに異変を察する。「ちょっと、声が妙に色っぽいんだけど?何、あのクズ男と一発ヤって水に流したってわけ?」

柴田友子は軽く咳払いしながら、たしなめるように言った。「縁起でもないこと言わないで」

咲耶衣夢は、けたけたと笑い声を上げた。

「そうだ友子、あんたの血液検査の結果、もう出たよ。検出された薬の成分、私の知り合いに渡しておいた。コネの広い人だから、もしかしたら購入者の情報がつかめるかも」

柴田友子は気を取り直して、声に力を込めた。「ありがとう、衣夢」

「本当に感謝してるなら、あのクソ男に未練タラタラになるのはやめて。離婚したんだから、これからはちゃんと仕事に集中しなさいよ」

そのまっすぐな言葉に、柴田友子の胸はじんわりと温かくなった。彼女は目を伏せ、小さく答えた。「…うん、わかってる」

よくよく思い返してみれば──自分が伊藤友征を好きだった理由のほとんどは、感謝の気持ちからだった。

特別な家庭に生まれ、周囲の期待に押し潰されそうな日々。抑圧された子ども時代、ずっとそばで支えてくれたのが彼だった。励まし、寄り添ってくれた存在。

その寄り添いから、やがて曖昧な情が芽生え──それを恋だと、彼女は勘違いしたのだ。

「愛に飢えてることにも、誰かにすがらないことにも慣れちゃったから…だから執着なんてしないの」 柴田友子はスマホを見つめながら、ぽつりと呟いた。「この2年はね、あの頃、伊藤友征がくれた優しさの、ただの返礼だったって思うことにしたの」

咲耶衣夢の脳裏に、過去の風景がちらついた。確かに――あの頃の伊藤友征は、本気で彼女を想っていた。

けれど、真心なんてものは、一瞬で色褪せる。

「友子…本当に、忘れられたんだ本当に忘れられたらいいんだけど」

柴田友子の鼻先がつんと熱くなった。彼女は慌てて目元を手で覆い、涙をこらえた。

そのときになって、ようやく気がついた。薬指が、空っぽになっている。

しばらく呆然としたあと——

指輪が、なくなっていた。

あれほど大事にしていたのに、一日と一晩が過ぎて、やっと失くしたことに気づいたのだ。

きゅっと締めつけられていた胸の奥が、ふっと力を抜いたように緩んでいく。友子は小さく呟いた。「…うん、本当に、手放せた」

……

指輪がなくなったことは、すぐに伊藤友征の耳にも入った。

彼は用事で一度戻ってきたとき、柴田友子の指がすっかり何もつけていないのに気づき、思わず尋ねた。「俺たちの結婚指輪は?」

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