フォローする
共有
見捨てられた妻は、天才デザイナーとして華麗に舞う の小説カバー

見捨てられた妻は、天才デザイナーとして華麗に舞う

凄惨な玉突き事故に巻き込まれ、血まみれになった私は必死の思いで夫に助けを求めた。しかし、秘書には狂言だと一蹴され、直後の街頭ビジョンには初恋の女性を抱きしめる夫の姿が映し出される。満身創痍で帰宅した私を待っていたのは、家族からの更なる拒絶だった。額から流血する私を夫は冷淡な目で見下し、実の娘さえも「お母さんなんて嫌い」と私を避けて夫の背に隠れた。さらに、その女性からの電話一本で、夫は重傷の私を放置して娘と共に彼女の元へ駆けつけてしまう。七年間、人生のすべてを捧げて尽くしてきた家族という絆が、単なる残酷な幻想であったことを私は悟った。心の中にあった愛情も未練も完全に潰え、私は財産と親権をすべて放棄する離婚届に判を押し、深夜の家を後にする。西園寺家の妻という立場を捨て、かつて天才と謳われたデザイナー「結城凛」としての誇りを取り戻した私は、自分を裏切った者たちへの反撃を開始する。失意の底から這い上がり、自らの才能だけを武器に、華麗なる第二の人生を切り拓いていく物語。
共有

3

凛が寝室のドレッサーの前に座り、鏡に映る血の固まった額を無表情で見つめていると、背後でドアが乱暴に開かれた。

救急箱を持った暁が、苛立ちを隠さずに部屋へ入ってくる。

「意地を張るな」

命令口調で言いながら、暁は凛の肩を掴み、無理やり椅子に座らせ直した。凛は抵抗せず、まるで魂の抜けた人形のようにされるがままになる。

暁が、不器用に消毒液を含ませた綿を、躊躇なく傷口に押し当てた。

「……っ!」

焼けるような激しい痛みに、凛の身体がビクッと跳ねる。だが、声は一切出さなかった。ただ、鏡越しに映る暁の顔を、氷のように冷たい目で見つめ続ける。

凛の無反応さに、暁の苛立ちはさらに募った。

「なぜ何も言わない」

舌打ちをして、暁が手を止める。

その瞬間だった。

彼のポケットの中でスマートフォンが震え、寝室に特別な着信音が響き渡った。その音を聞いた途端、暁の険しい顔が瞬時に和らぐ。慌ててスマホを取り出す彼の目に、画面の『絢子』という文字が映った。

それを見た凛の唇の端が、微かに吊り上がった。自嘲の笑みが、静かに漏れる。

暁は凛から数歩離れて電話に出た。

「どうした、絢子」

先程までの彼とは別人のような、甘く優しい声。

電話の向こうで、絢子が泣きそうな声で訴えているのが聞こえる。「階段から転落してしまって……痛くて、動けないの。もしかしたら、骨折してるかもしれない……」

途端に、暁の顔色が変わった。

「すぐに行く。いいか、絶対に動くなよ」

緊迫した声でそう言うと、彼は電話を切った。血の滲む凛の額を一瞥するが、その躊躇いは一瞬で消え去る。

「絢子が怪我をした。手当ては千代にやらせろ」

そう言い放ち、暁は救急箱をテーブルに乱暴に放り投げた。ガシャン、と音を立てて落ちた救急箱から、白い包帯が床に転がり落ちる。暁は、それを拾おうともしなかった。

「……私の頭の傷より、彼女の骨折の疑いの方が、重傷なのですね」

凛が、淡々とした声で問い詰める。

図星を突かれた暁は顔をしかめ、理理不尽な言い訳を口にした。

「彼女は一人暮らしで心細いんだ。お前とは違う」

その時、ドアの隙間から桜子が顔を覗かせた。

「お父さん、絢子おばちゃんのとこ行くの?」

目を輝かせる娘に、暁が頷く。

「私も行く!早くおばちゃんを助けてあげて!」

桜子は父親の背中を押し、そして、振り返って凛に言った。

「お母さんは一人で大丈夫でしょ?」

無邪気な残酷さが、凛の心を抉る。

凛は床に転がった包帯を見つめたまま、感情のない声で答えた。

「ええ。大丈夫よ」

暁は桜子の手を引き、一度も振り返ることなく、足早に寝室から出て行った。

バタン、とドアが閉まる音が部屋に響き渡り、完全な静寂の中に、凛は一人取り残された。

ゆっくりとしゃがみ込み、床に落ちた包帯を拾い上げる。血で汚れた手で、それを強く、強く握り締めた。事故の後遺症か、吐き気が込み上げてきたが、凛はそれを無理やり飲み込む。肉体の痛みなど、もはやどうでもよかった。

鏡の中の自分と、目が合う。

かつて、天才デザイナーと呼ばれた自分。その見る影もない、惨めな姿。強い嫌悪感が込み上げてきた。

凛は洗面所へ向かうと、洗面器に冷たい水を張り、顔についた血と涙の痕を、ゴシゴシと洗い落とした。傷口が開いて再び血が流れるが、心の痛みに比べれば、もはや何も感じなかった。

タオルで顔を拭いた時、凛の瞳から、暁への未練も、桜子への期待も、すべてが完全に削ぎ落とされていた。

クローゼットを開け、暁が買い与えた高級な服を、一枚残らず床に引きずり下ろす。

そして、一番奥に隠してあった箱を取り出した。中に入っていたのは、大学時代に着ていた、安価だが着心地のいい、シンプルなカットソーとジーンズ。

凛はその服に着替えると、鏡の前に立った。

深く、息を吐き出す。

決別のための行動を、今、開始する。

続けて視聴する!
物語はいよいよ佳境へ!アプリに切り替えて続きを読む
全エピソードをロック解除
公式サイトを開く

おすすめの作品

偽令嬢との浮気現場に遭遇したので、私は最高権力者に抱かれることにした。 の小説カバー
9.6
一族から受けた九十九回もの過酷な折檻を耐え抜き、ついに自らの意志で結婚する権利を勝ち取ったヒロイン。満身創痍の体を引きずりながら、この喜びを最愛の恋人に分かち合おうと彼の元へ向かう。しかし、そこで彼女を待ち受けていたのは、かつて自分の正当な身分を奪った「偽の令嬢」に対し、熱烈なプロポーズを捧げる恋人の裏切りだった。かつて「君以外とは結婚しない」と誓ったはずの男は、偽令嬢への愛は本能だと語り、ヒロインとの関係を単なる責任に過ぎないと切り捨てる。信じていた絆がただの幻想であったことを悟り、絶望の淵に立たされた彼女は、ある重大な決断を下す。それは、かつて拒絶していた実家からの提案を受け入れることだった。彼女は震える手で電話をかけ、冷徹に告げる。「御曹司との政略結婚、お受けします」と。愛に裏切られ、全てを失った女が、国内最高権力者の胸に飛び込むことで始まる復讐と逆転の物語。偽りの愛を捨て、彼女は新たな運命へと踏み出す。
離婚禁止令!冷徹CEOは新妻をずっと前から狙ってた の小説カバー
9.1
父の莫大な医療費を工面するため、浅見乃愛は妹の身代わりとして、耳が不自由で冷酷と噂される男のもとへ嫁ぐことになった。新婚初夜、覚悟を決めて服を脱いでいく乃愛だったが、夫は一瞥もくれず「この結婚はただの契約に過ぎない。一線を越えるな」と冷徹な警告を突きつける。気まぐれな夫の機嫌を損ねぬよう、乃愛は息を潜めるように日々を過ごしていた。周囲は彼女が不幸になるのを嘲笑いながら待っていたが、予想に反して夫は乃愛の窮地を救う最大の理解者となっていく。やがて契約期間が終わり、乃愛が荷物をまとめて去ろうとしたその時、夫の態度は一変した。彼は目を赤く染めて「行くな」と彼女を引き留め、自ら引いた一線を越えて乃愛を激しく求め始めたのだ。夜ごと情熱的に愛される中で、かつての禁欲的で冷徹な面影は消え去っていた。困惑する彼女の耳元で、夫は甘く低い声で囁く。「俺がどれほど長い間、君を想い続けてきたか知っているかい?」――その言葉には、長年秘めてきた深い愛が込められていた。
さようなら、価値を見抜けなかった妻へ の小説カバー
9.0
献身的に尽くした二年間、妻である柳瀬真理亜の冷淡な態度は変わることはなかった。「あなたには百万ドルの価値すらない」という非情な言葉と共に突きつけられた離婚届。しかし、神代無双はその絶望的な宣告を、静かな微笑みと共に受け入れた。彼にとってその瞬間は、平穏な日常を装うために封印していた真の姿を解き放つ合図に過ぎなかったのだ。音楽界に革命をもたらす異才、医学の常識を覆す天才、そして武術界に名を刻む伝説の体現者。隠し持っていた圧倒的な才能を次々と開花させていく無双の姿は、瞬く間に世界中を驚愕の渦へと巻き込んでいく。かつて彼を無能だと見下し、蔑んでいた人々は、そのあまりの変貌ぶりに激しい後悔と動揺を隠せない。変わり果てた元夫の輝きを目の当たりにし、真理亜は「そんな人だとは知らなかった」と涙ながらに縋り付くが、彼の視線が再び彼女へと向けられることはない。偽りの愛を捨て去り、己の力で新たな頂点へと駆け上がる男の、華麗なる逆転劇が幕を開ける。
ラストドラゴン の小説カバー
8.6
現代社会の片隅で、ただ絶望に染まったまま命を落とした男。しかし、彼が再び目を覚ましたのは、見たこともない異世界の冷たい牢獄の中だった。死んだはずの男は、そこでレイリアと名乗る竜人のシャーマンと運命的な出会いを果たす。彼女と協力して決死の脱獄を果たした男を待ち受けていたのは、あまりにも残酷な世界の真実だった。かつて彼が過ごした地球はすでに滅び去り、今いる場所こそが、人々が恐れる「地獄」そのものであるということ。そして何より、自分自身の正体が戦うために造られた人造人間「ホムンクルス」であるという衝撃の事実。過酷な運命に翻弄されながらも、何も持たなかった男は、滅びゆく世界を救うために立ち上がる。これは、かつて人生に絶望し、すべてを諦めていた一人の男が、異世界の戦乱の中で己の存在意義を見出し、やがて伝説の英雄王へと至るまでの軌跡を描いた壮大なファンタジー戦記である。男の新たな歩みが、今ここから始まる。
君臨せし大統領の服従 の小説カバー
9.5
父の投獄と親友の裏切りという絶望に直面した彼女は、冤罪を晴らすべく大統領への直訴を試みるが、その過程で予期せぬ事態に見舞われ、正体不明の男と一夜を過ごすことになる。後に、その男こそが探し求めていた大統領本人だと知るが、彼は彼女を冷遇。あろうことか、彼女の身分を騙る偽者の女を傍に置くのだった。しかし、彼女は自力で父の無実を証明し、各界を牛耳る重鎮へと成長。さらにA国のプリンセスという真の素性が明らかになると、権力者たちはこぞって彼女に跪く。真実を知り、激しい後悔に苛まれた大統領は「生涯、愛する女性は彼女ただ一人だ」と公に宣言し、他の女たちを突き放す。国民がその豹変ぶりに騒然とする中、彼女は「独りで生きていく」と冷ややかに告げる。かつての傲慢な態度は消え、大統領はただ彼女を抱きしめ、必死に許しを請うしかなかった。「もう一度だけ、私にチャンスをくれないか?」と。運命に翻弄された二人の関係は、圧倒的な立場の逆転を経て、新たな局面を迎える。
封印された愛 の小説カバー
7.8
高校を卒業し、輝かしい新生活への一歩を踏み出した主人公。自由を手にし、長年の夢を叶えようと胸を躍らせていた彼女だったが、過酷な運命がその行く手を阻む。彼女が幼い頃から肌身離さず身につけていたブレスレット、それは見知らぬ男との婚姻を宿命づける、逃れられない契約の証だった。抗う術を持たず、一度は決められた結婚に従わざるを得なかった彼女だが、あまりに過酷な現実に耐えきれず、ついにすべてを投げ出して逃亡を図る。しかし、自由を求めて彷徨う彼女を、再び数奇な運命が翻弄する。断ち切ったはずの縁が導くように、かつての結婚相手である彼が、いつの間にか彼女の日常へと再び姿を現したのだ。過去の束縛と現在の葛藤が交錯するなかで、彼女は一体何を見出し、どのような結末へと辿り着くのか。封印されていた愛の歯車が、再び静かに動き始める。自らの意志と運命の間で揺れ動く彼女の人生は、どこへ向かっていくのだろうか。予測不能な展開が待ち受ける、切なくもドラマチックな現代ロマンス。