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冷遇妻は、二度と微笑まない の小説カバー

冷遇妻は、二度と微笑まない

結婚から三年の月日が流れても、雨宮瑛人の態度は氷のように冷たいままだった。神楽涼子は彼の冷遇に耐え、完璧な妻として献身的に尽くしてきたが、この結婚は彼女の兄の犠牲によって成立した歪な鎖でもあった。涼子はいつか愛が芽生えると信じていたが、瑛人の心には常に別の女性の影があった。決定的な瞬間は結婚記念日に訪れる。猛吹雪の中で待ち続ける涼子を余所に、瑛人は愛人の誕生日を祝っていたのだ。絶望の淵で涼子の心はついに決壊する。彼女は涙を流すこともなく即座に離婚届に署名し、全ての痕跡を消して彼の前から姿を消した。周囲は瑛人が初恋の相手と復縁し、離婚が成立するのを当然視していた。しかし、いつまで経っても離婚の報告は届かない。やがて人々が目撃したのは、かつて冷酷な絶対君主として君臨していた瑛人が、一人の女性の足元に縋り付く姿だった。プライドを捨て、無様に離婚を拒む彼の哀願が虚しく響く。「頼む、行かないでくれ。離婚なんてしたくないんだ」と。立場が逆転した二人の愛の行方は。
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3

瑛人は、冷たい言葉を一言残して去っていった。

涼子は書類を握りしめる。胸は痛むが、それよりも肩の荷が下りた安堵感の方が強かった。

外で車のエンジン音が遠ざかるのを聞き、ふと思い出したように携帯電話を取り出す。番号を押し、呼び出す。

その頃、秘書の佐藤大和は瑛人を乗せ、別荘地を静かに離れていた。

山道にはほとんど人の気配もなく、車内には穏やかな音楽が流れている。瑛人は後部座席で目を閉じ、仮眠をとっていた。

「雨宮社長、先ほど高橋様からお電話がありました。伊藤さんを無事にご自宅までお送りしたとのことです」佐藤が報告する。

「ああ」 返事はそれだけだった。

バックミラー越しに大和は後ろを覗く。表情までは分からないが、別荘を出た瑛人の纏う空気は氷のように冷たく、車内の雰囲気まで重く沈んでいる。

これ以上口を開くまいと思った矢先、スマホが鳴り響いた。

「雨宮社長、奥様からです」佐藤が発信者を見て報告する。

瑛人ははっと目を開けたが、沈黙したままだった。

着信音が鳴り続ける間、大和は迷い、そして意を決して応答した。「奥様?」

「佐藤秘書、雨宮瑛人に伝えて。 離婚協議書にサインしたら、明日、区役所に離婚届を出しに行くわ。 来ないなら、委任状をサインして送ってちょうだい」

(社長が離婚?!)

佐藤は驚き、さらに車内の冷気を強く感じた。

だが瑛人は何も言わないまま、大和はとりあえず応じるしかなかった。「かしこまりました、奥様」

……

瑛人が帰宅しないと分かっていても、涼子はその夜、山中の別荘で過ごした。 翌日も、わざと出勤時間を過ぎるまで待ち、それから自宅に戻り、荷物をまとめた。

かつて二人のために特別に用意された新居。涼子は三年間少しずつ飾り付けてきた家具や小物をすべて処分させ、ゴミ箱へ。持ち出したのは、数着の服と日用品だけだった。

嫁入り道具は、この数年、神楽グループの資金繰りのためにほとんど使い果たされていた。

雨宮家からの品は、持ち出す気になれなかった。

区役所に到着すると、、やはり大和の姿しかなく、瑛人は現れなかった。

「奥様、雨宮社長は本日大変お忙しく――」いつものように大和は言い訳を始めた。

だが涼子は手を上げ、遮った。

もう、こんな自己欺瞞の中で生きたくはなかった。

涼子は登記窓口に進み、用意した書類一式を渡す。

手続きは簡単で、数分で完了した。あとは役所での審査を待つだけだと告げられ、荷物をまとめてその場を後にした。

タクシーを降り、引いたスーツケースを転がしながら、一時的に借りた小さなアパートへ。

家具付きで入居可能だったため、布団を整え、少し休憩してから荷解きを始める。

服をハンガーに掛け、洗面用具を並べ、ソファにぬいぐるみを置き、窓辺に風鈴を吊るす。

その時、ドアチャイムが鳴った。

「どなた?」

ドアを開けると、コートを羽織った長身の若い男性が立っていた。――兄、神楽空良だった。

「お兄ちゃん!」

胸に罪悪感が押し寄せ、涼子は目を上げられずにいた。

しかし空良は気にする様子もなく、優しく彼女の頭を撫でる。「馬鹿な妹だ。辛いことがあったなら、どうして家に帰ってこなかったんだ?」

涼子の涙はもう止まらず、自ら兄の胸に飛び込む。「お兄ちゃん、私、離婚するの。ごめんなさい」

「やっとわかってくれたね。嬉しくてたまらないよ」 空良は変わらず温かく、穏やかに、無条件に彼女を受け入れた。

「でも、神楽家が……」涼子は顔を上げ、兄を見つめる。

瑛人の前ではきっぱりと言い切ったものの、心配がないわけではなかった。

「とっくに言っていたはず、神楽家は俺の責任だ。お前には関係ない」

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