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冷徹パイロットは契約妻を逃がさない の小説カバー

冷徹パイロットは契約妻を逃がさない

パトロンである桐谷蓮司から「本命になれると思うな」と冷酷な警告を突きつけられた宮沢凪佳。その直後、彼女は婚約者である天才パイロットの高嶺颯真のもとを訪れ、挑発的なキスと共に「今すぐ入籍する度胸はあるか」と契約結婚を迫る。颯真は冷淡な態度でそれに応じ、二人の関係は単なる便宜上の取引として始まるはずだった。しかし、新婚生活が幕を開けると、彼の「禁欲的」な仮面は無残にも崩れ去る。毎晩のように繰り返される激しい求愛。さらに、仕事場である機内のコックピットでさえ、彼は凪佳の耳元で甘く囁き、昨夜の彼女の秘めやかな声を録音したと告げて翻弄する。羞恥に震える彼女の手首を掴み、制御卓へと押し付けながら、颯真は逃げ場を奪うように言い放った。「まだ抵抗するのか? 管制塔に君の声を届けてもいいんだぞ」。冷徹なキャプテンによる執着は、もはや誰にも止められない。逃げられない契約から始まる、あまりに過激で甘美な独占愛が今、加速していく。
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颯真は凪佳より頭一つ分も背が高い。壁際に追い詰められた彼女の視線は、ちょうど彼の精緻な鎖骨に落ちていた。

圧が強すぎて息もまともに吸えず、凪佳は身じろぎしながら「ちょっと…離して」呟くように頼んだ。

「先に答えろ」颯真は尋常ではない強さで迫った。

凪佳はそっと目を閉じ、数秒だけ迷い、最後には歯を食いしばってうなずいた。

蓮司から逃げるには、もう選択肢がなかった。

彼女がうなずいた瞬間、颯真は半歩だけ身を引いた。凪佳は大きく息を吐いた。

彼は上半身裸のままソファに腰を下ろし、彼女が持ってきたタオルで当然のように髪を拭いた。 そのくつろぎきった姿は、彼女よりもはるかにこの部屋の主人らしかった。

だが凪佳の思考は三年前にさかのぼっていた。彼と初めて出会ったあの日へ。

あれは蓮司が段取った酒席だった。桐谷グループが航空分野へ参入するため、天才機長の颯真を特別に招いたのだ。

当時の彼は灰青色の航空制服に身を包み、その格好は着陸したばかりでそのまま駆けつけたようだった。

その気配は厳格で近寄りがたく、どこか禁欲的な印象をまとっていた――今の裸身を晒した姿とはまったくの別物だった。

酒席では、蓮司は彼に仕事の紹介を期待しながらも、一介の機長を内心では見下しており、態度もやけに高慢だった。

だが颯真は卑屈にも尊大にもならず、終始蓮司を無視したまま、宴が終わる間際にだけ凪佳の前へ来て、連絡先を交換したいと言った。

蓮司に気を遣った凪佳は戸惑った。けれど、彼女の愛はあまりに卑屈で、そして過剰で、蓮司にとっては忠犬のようにしか見えず、他の男に心が向くなど露ほども心配していなかった。

むしろ蓮司は、彼女を自ら颯真の方へ押しやったほどだ。

あのとき、颯真が凪佳を一瞥した眼差しには、怒気のようなものが宿っていた。まるで……まるで、その不甲斐なさに苛立っているようで。

二人は連絡先を交換した。

その後、颯真が話題にしたのは、二人の間にあった因縁についてだけだった――。

なんと彼の母と凪佳の母は親友同士で、互いの子供を許嫁にする約束まで交わしていたというのだ。

今、高嶺夫人は体が弱っており、自分の余命が長くないことを案じていた。そこで颯真に対し、一刻も早く凪佳と結婚し、骨の髄まで凍えるような実家から救い出すよう求めたのだ。

当時、凪佳の心は蓮司でいっぱいで、颯真からの申し出を、ほとんど考える間もなく断ってしまった。

それなのに、今は……。

いま思えば――あんな盲目な恋心など、ただの笑い話でしかなかった。

数分後、部屋のドアがノックされた。

誰かが颯真の着替えと書類を届けに来たようだ。

配送業者だろう、と凪佳は思った。

ただ、その配達員がきちんとしたスーツを着ているのが少々奇妙に感じられた。

颯真は悠然と服を着ながら、書類を凪佳に放り投げた。

我に返った凪佳が目を落とすと、それは婚前契約書だった。

契約書には、結婚後、凪佳は颯真の妻としての役割を全うすること、そして病弱な母にこの結婚が契約に基づくものであると悟られないようにすることが記されていた。

契約の甲斐として、彼は相応の報酬を支払う。その額、なんと月400万円。

この金額を見て、凪佳は驚きを隠せなかった。

機長である颯真の収入は決して低くないはずだ。

だが彼も所詮はサラリーマンだ。毎月400万円を捻出するのは容易なことではないだろう。

これほど高額な報酬を提示したのは、十中八九、かつて蓮司に受けた屈辱を晴らすため、見栄を張っているに違いない。

凪佳は彼から大金を受け取るつもりなどなかったし、ましてや一時の虚栄心のために借金を背負わせるような真似はしたくない。

彼女は意思を表示した。「他の条項には同意します。でも、報酬はいりません。 結婚したら仕事を探しますし……」

颯真の表情がわずかに曇った。

凪佳は途端に不安になった。

まさか颯真も蓮司と同じように、外で働くことを許さないつもりなのだろうか。

颯真は低い声で言った。「君が稼いだ金は君のものだ。俺が報酬を払うこととは矛盾しない」

凪佳はこっそりと彼を一瞥し、 心の中で深く嘆いた――。

(男という生き物は、どうしてこうも見栄っ張りで、自ら苦労を背負い込むのだろう)

彼女は弁解するしかなかった。「お金を受け取らないのは、主に私のプライドのためなんです。 その……あなたに囲われているなんて思われるのは嫌なんです」

「結婚する以上、契約だろうとなかろうと、君は俺の妻だ」 颯真は冷ややかな目で彼女を一瞥し、まだ拒む気配があるのを見て取ると、冷淡に言い添えた。「仕事を始めるなら、いろいろと物入りだろう。 丸腰で就職活動をするつもりか?まともなスーツ一着も買えないくせに」

凪佳は視線を落として自分の恰好を見やり、気まずそうに苦笑した。

まあいい。このお金はとりあえず受け取っておいて、機会があれば高嶺夫人に返せばいいのだ。

ようやく聞き分けがよくなったのを見て、颯真は婚姻届に必要な書類をさっさと記入するよう促した。

凪佳は慌ててその指示に従った。

一通りの手続きが終わると、彼は立ち上がり、帰る支度を始めた。凪佳も礼儀として見送ろうとした。

「一緒に来ないのか?」颯真はあからさまに不満げだった。

「そんなに急ぐんですか?」凪佳はおずおずと尋ねた。「まだ少し片付けたいことがあって……」

颯真はわずかに眉をひそめた。「三日だ」

「……わかりました」凪佳は俯き加減にうなずいた。

颯真は最後に一瞥をくれると、大股でアパートを出て行った。

三日という期限はあまりに短い。凪佳は一刻の猶予もなく、翌日にはさっそく、蓮司から買い与えられた品々の整理に取りかかった。

作業に没頭していると、突然、招かれざる客が訪れた。

颯真の秘書だと名乗る宮本陽沙という女性で、ボスの命令で引っ越しの手伝いに来たという。

凪佳はモデルのように背が高い彼女をまじまじと見つめ、困惑した――パイロットに秘書なんているものだろうか?

しかし人見知りな彼女はそれ以上突っ込まず、ただ笑顔で「ありがとうございます」とだけ言った。

陽沙は部屋に入るなり、眉をひそめ蓮司の贈り物ををけなした。「宮沢さん、元彼は相当なドケチね。こんな安物をプレゼントするなんて」

彼女は凪佳の手を引くと、嵐のような勢いで外へ連れ出そうとした。「さあ早く!まともな物を選びに行きましょう。 こんなガラクタを使わせてたら、私まで社長に皮を剥がれちゃうわ」

蓮司が買い与えた物はハイブランドではないにせよ、それなりの逸品ばかりだった。

しかし陽沙に言わせれば、颯真の目には「ガラクタ」に映るらしい。

とはいえ、一介のパイロットである颯真に、そんな派手な真似ができる財力があるのだろうか?

まさか、また見栄を張って無理をしているのでは?

陽沙の勢いに抗えず、二人はすぐにデパートへと到着した。だが入り口をくぐった瞬間、親密そうに寄り添う後ろ姿が目に入り、凪佳は頭を殴られたような衝撃を受けた。

それは蓮司と、ウェディングドレス姿の緒方澪智だった。

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