
醜い妻は死んだ、今、貴方を支配する
章 3
3年後。
東京のスカイラインは、黒いベルベットの上にこぼれた宝石箱のようにきらめいていた。
5月の第一月曜日。都立美術館本館で開催される『星明かりのチャリティ・ガラ』の日だった。
空気は電気を帯びたように張り詰めていた。日中の湿気はすっかりなくなり、ハイファッションと、それ以上に大きな賭けにふさわしい、爽やかで涼しい夜となっていた。
佐伯 純一が黒塗りのリムジンから降り立った。カメラのフラッシュが一斉にたかれ、目がくらむような白い光の壁ができた。
3年前よりも、彼の姿はシャープになっていた。顎のラインはより硬質に、瞳はより冷たくなっていた。彼が身にまとっていたのは、まるで鎧のように体にフィットした、藤本 智則のオーダーメイドのタキシードだった。
エレナ・ローズが彼の腕にまとわりついていた。彼女が着ていたドレスは、いかにも頑張りすぎという感じだった。想像力をかき立てる隙もないほど、肌が透けるスパンコールのドレスだ。高価なものだったが、彼女が着ると安っぽく見えた。
「純一さん!純一さん!こっちです!」とカメラマンたちが叫んだ。
「元奥さんはどこですか?」と、ある記者が大胆かつ無遠慮に叫んだ。
純一の表情は微動だにしなかった。彼はその質問を無視した。この3年間、聖絵に関する質問をずっと無視し続けてきたのだ。彼女は忽然と姿を消した。パパラッチに撮られた写真は一枚もなく、クレジットカードの利用履歴も一切なかった。彼が雇った私立探偵でさえ、手詰まりになっていた。まるで地球が彼女を丸ごと飲み込んでしまったかのようだった。
厳密に言えば、彼女は彼の「元」妻ではなかった。離婚届は、彼女の署名だけがあり、彼の署名がないまま、今も彼の金庫に眠っている。彼が決して手放さなかった、ちっぽけなパワーゲームだった。
「無視して、ベイビー」とエレナは喉を鳴らすように言い、彼の二の腕を握りしめた。彼女の爪が生地を通して食い込む。「ただの嫉妬よ」
純一は、いつもの疲労感に襲われた。彼は優しく、しかしきっぱりと彼女の手をほどいた。
突然、騒然としていた群衆が静まり返った。カメラマンたちでさえ、一瞬カメラを下ろした。
一台の車が停まった。リムジンではない。深夜の闇のような深い青色に塗装された、ヴィンテージのロールス・ロイス・ファントムだった。それは、旧家の富をささやくような車だった。
ドアが開いた。
一本の脚が伸びる。
長く、しなやかで、引き締まった筋肉が滑らかに輝く肌に包まれていた。
一人の女性が降り立った。
フラッシュの光が狂ったようにたかれた。その音は、まるで機械仕掛けのイナゴの大群のように、耳をつんざくほどだった。
彼女は背が高かった。まるで液体のシルクでできているかのような、エメラルドグリーンのガウンをまとっていた。タイトなマーメイドカットは、彼女の歩幅を優雅な滑るような動きに制限し、深く入ったスリットが想像力をかき立てた。その色は、彼女の肌をアラバスターのように見せていた。
髪は深く豊かなマホガニー色で、クラシックなハリウッドウェーブにスタイリングされ、片方の肩に流れ落ちていた。
彼女は群衆の方を向いた。その顔は…息をのむほど美しかった。高い頬骨、深いベリーレッドに彩られたふっくらとした唇、そして、はっとするほど鋭い灰色の瞳。
彼女は微笑まなかった。手を振ることもしなかった。ただそこに立ち、エレナがおままごとをしている幼児のように見えるほどの、冷たく荘厳な力を放っていた。
車の反対側から男が降りてきた。セバスチャン・コール。純一のビジネス上のライバルであり、古賀製薬のオーナーだ。
セバスチャンは車を回り込み、女性に腕を差し出した。彼女はそれを取り、その動きは流れるように優雅だった。
「彼女は誰だ?」というささやきが群衆に広がった。
「モデルか?」
「セバスチャンの婚約者か?」
純一は階段の最上段に立ち、下を見下ろしていた。彼は麻痺したように感じた。心臓が一度跳ね、そして倍の速さで鼓動を打ち始めた。
あの顔を知らなかった。いや、本当は。あまりにもシャープで、完璧すぎた。
だが、あの瞳。
あの瞳は知っていた。
彼を悩ませ続けた瞳だ。
「あれは誰?」とエレナが、即座の嫉妬をにじませた声でささやいた。
「わからない」と純一はつぶやいた。彼は目を離すことができなかった。奇妙なデジャヴの感覚が彼を襲ったが、彼はそれを押し殺した。ありえない。彼が知っている女は、弱々しく、打ちひしがれ、地味だった。この女は鋼とダイヤモンドだ。
女とセバスチャンが階段を上り始めた。彼らが近づくにつれて、女は顔を上げた。
彼女の灰色の瞳が、純一の瞳を捉えた。
一瞬、時間が引き伸ばされた。群衆の騒音が遠のいていく。
純一は、賞賛や欲望の眼差しを期待した。普段、女性たちが彼に向ける視線だ。
しかし、そこには何もなかった。
彼女の瞳には温かみがなく、まるで家具でも見るかのように彼を見ていた。無関心で、退屈そうに。
彼女は臆することなく視線を外し、セバスチャンがささやいた何かに笑いながら、彼に注意を向けた。彼女の笑い声は低く、ハスキーで、音楽のようだった。
純一は、息が詰まるほど鋭い、身体的な拒絶の痛みに襲われた。
「中に入ろう」と彼は唐突に言い、緑の幻影に背を向けた。
都立美術館の内部、グレートホールは白いバラの庭園へと姿を変えていた。ウェイターたちがシャンパンを手に巡回していた。空気は高価な香水と金の匂いがした。
藤原 聖絵はシャンパンのグラスを手に取った。だが、飲まなかった。ただステムを持ち、光にかざして回していた。
「君のせいで交通渋滞が起きそうだ」とセバスチャンが彼女の耳元でささやいた。「純一は息が止まっていたと思うよ」
「窒息させておけばいいわ」と聖絵は言った。声は穏やかだったが、脈拍は速まっていた。彼と再会するのは…思った以上にきつかった。彼を愛しているからではない。怒りがまだあまりにも生々しいからだ。
「何か疑っているな」とセバスチャンは指摘した。「じっと見ていた」
「彼が見ているのは、彼がナルシストで、私がこの部屋で唯一、彼の所有物ではないからよ」と聖絵は訂正した。「彼は私に気づいていない。結婚していた頃、彼は私のことなんてまともに見ていなかったもの」
彼女は部屋を見渡した。かつてカントリークラブで彼女を嘲笑っていた女たちの顔が見えた。宇都宮夫人。鳥井姉妹。
今や彼女たちは皆、新しい「イット・ガール」が誰なのか知りたくてたまらない様子で、ささやきながら彼女をじっと見つめていた。
「セバスチャン!」甲高い声がした。
エレナだった。彼女は純一を引きずってきたのだ。彼女は我慢できなかった。自分の縄張りを主張しなければならなかったのだ。
純一は気乗りしない様子だったが、その目は聖絵に釘付けになっていた。彼は彼女を研究するように見つめ、言葉にできない何かを探していた。
「やあ、セバスチャン」と純一は硬い声で言った。彼は聖絵を見た。「まだ自己紹介をしていなかったと思うが」
セバスチャンは、サメのような笑みを浮かべた。「純一。エレナ。今夜の私のゲストだ」
彼は効果を狙って間を置いた。
「藤原 聖絵。菊田 聖絵と呼んでいただいても構いません」
純一は凍りついた。
その名前は、物理的な打撃のように彼を襲った。聖絵。
彼は彼女を凝視した。贅肉を探した。発疹を探した。恐怖を探した。
どれもそこにはなかった。それなのに…その名前。
「菊田?」と純一は繰り返した。「菊田卿と何か関係が?」
「彼の名付け子よ」と聖絵は言った。その声は滑らかで、かつて彼が近くにいると出ていたどもりは微塵もなかった。
「聖絵」と純一は再び言った。彼はその名前を舌の上で試していた。それは灰と後悔の味がした。
「ありふれた名前よ」と聖絵は冷ややかに言った。「でも、私たちには共通点があるようね、佐伯さん。いえ…共通の人物が」
彼女はエレナを見た。その視線は外科医のメスのようだった。一瞥でエレナの不安を切り裂いた。
「素敵なドレスね」と聖絵は嘘をついた。「とても…大胆だわ」
エレナは顔を赤らめた。
純一はエレナに気づかなかった。彼は聖絵の瞳をじっと見つめていた。同じ灰色だった。彼の元妻と全く同じ色合いの灰色だ。
だが、そんなはずはない。彼の元妻はめちゃくちゃだった。この女性は女王だ。それに菊田? 藤原家は日本の名家とは何の関係もなかったはずだ。偶然に違いない。残酷で、嘲笑うかのような偶然だ。
「どこかでお会いしましたか?」と純一は尋ねた。止める間もなく、質問が口から滑り出た。それは丁寧な問いかけではなく、探りを入れるようなものだった。
聖絵は微笑んだ。だが、その目は笑っていなかった。
「いいえ、佐伯さん。あなたのような方なら、きっと覚えているはずですから」
彼女はセバスチャンの方を向いた。「少し外の空気を吸いたいわ。この一角は、必死な感じがして少し息苦しいの」
彼女は立ち去り、純一はその場に立ち尽くしたままだった。彼はグラスを強く握りしめ、クリスタルのステムが折れそうになっていた。
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