
三度目の延期、私はもう終わり
章 3
芳賀瑞子 POV
「へえ, 素敵なヘッドピースね. まさか, そんなところにいたとはね」
私の言葉に, 莉泉の顔から血の気が引いた.
圭貴も友人たちも, 一瞬にして沈黙した.
部屋の中の空気が, 重く凍りついた.
「あのヘッドピース, 本来は瑞子家の家宝として, 代々次の花嫁に受け継がれるものなのよ」
私は, 冷たい声で続けた.
「圭貴が私に贈ってくれた時, 『これを身につけて, 俺のそばに立ってほしい』と言ったわ. まさか, それが, 他人の髪を飾るために贈られたものだとは, 思いもしなかったけれど」
莉泉は, 驚いた顔でヘッドピースに触れ, すぐにそれを外そうとした.
「あら, ごめんなさい! 知らなかったの! 圭貴が, ただ可愛いからって…」
彼女は, わざとらしく涙を浮かべ, 圭貴にすがりついた.
圭貴は, 莉泉を庇うように私の前に立ちはだかった.
「瑞子! 何を言ってるんだ! 莉泉が知るわけないだろ! 」
「知るわけがない? 私の婚約者から, 直接贈られたものを, 嬉々として身につける神経, 私には理解できないわ」
私の言葉に, 圭貴の顔が怒りで歪んだ.
「お前, 本当に性格が悪いな! 莉泉に謝れ! 」
「謝る? 私が? なぜ? 」
私は, 圭貴を冷めた目で見つめた.
彼の言葉は, もう私の心を揺るがすことはなかった.
「このヘッドピースは, 本来, 私と圭貴の結婚式で, 私が身につけるはずのものだった. それが, 今, ここにいるあなたに贈られている. この事実を, 私がただ受け入れるとでも思っているの? 」
莉泉は, 涙を流しながら, 圭貴の腕の中で震えていた.
それを見た圭貴の友人たちが, 私を非難し始めた.
「瑞子さん, いくらなんでも言い過ぎじゃないですか? 」
「そうですよ, 莉泉ちゃんが可哀想です」
「大人になりましょうよ. こんなことで, パーティーの雰囲気を壊さないでください」
私は, 彼らの言葉に何も反応しなかった.
ただ, 静かに立ち上がった.
「ご心配なく. もうすぐ, このパーティーから出ていくわ」
私がそう言うと, 圭貴は眉間に深い皺を寄せた.
「瑞子, どこに行くつもりだ? 勝手な真似をするな! 」
「勝手? 私の人生を, あなたにコントロールされる筋合いはないわ」
「お前は, 俺の婚約者だろ! 俺の女だ! 」
圭貴の声が, 怒りで震えていた.
彼は, 私の腕を掴み, 強く引き寄せた.
「放して」
私の声は, ひどく冷たかった.
圭貴は, 私の言葉を聞き入れず, さらに強く腕を掴んだ.
「お前, まさか婚約を破棄するつもりか? ふざけるな! そんなこと, 俺が許すわけないだろ! 」
「許す許さないは, あなたには関係ないわ」
その時, 私のスマートフォンが鳴った.
日野さんからの着信だった.
私は, 圭貴の手を振り払い, 電話に出た.
スピーカーフォンにすると, 日野さんの声が部屋中に響き渡った.
「芳賀さん, 結婚式の花束の件ですが, 白百合とバラ, どちらをご希望されますか? 」
彼の声は, どこまでも穏やかで, そして, 私の決断を後押しするかのようだった.
圭貴と友人たちは, 日野さんの言葉に困惑した表情を浮かべた.
「白百合でお願いします」
私は, 日野さんの声に答えた.
圭貴は, 私の腕を再び掴み, 怒鳴った.
「おい, 何を言ってるんだ! お前は, 俺と結婚するんだぞ! 勝手に結婚式の準備を進めるな! 」
私は, 圭貴の言葉を無視した.
日野さんの声を聞いていると, 心が落ち着くのを感じた.
「瑞子, 誰と話してるんだ? まさか, ドレスも勝手に決めてるのか? 」
圭貴の言葉に, 私は思わず笑ってしまった.
その笑いは, 嘲笑に満ちていた.
「ええ, そうよ. 私, 結婚するのよ」
私の言葉に, 圭貴は顔色を大きく変えた.
彼は, 私の肩を掴み, 強く揺さぶった.
「お前, 何を言ってるんだ! 俺の結婚式だろ! お前は, 俺と結婚するんだ! 」
「あなたの結婚式? 笑わせないで. 私の結婚式よ」
私の言葉に, 圭貴の顔は怒りで真っ赤になった.
彼は, 私の胸ぐらを掴み, 壁に押し付けた.
「お前, 俺の気持ちを弄んでいるのか! 俺がお前を愛していると知っていて, 他の男と結婚するつもりか! 」
「愛してる? あなたが私を? 冗談も休み休み言ってちょうだい」
私は, 圭貴の目をまっすぐに見つめた.
彼の目に映るのは, 自分勝手な傲慢さだけだ.
「あなたは, 私の愛を当然のものだと思って, 踏みにじってきた. 私との結婚式を三度も延期し, その間, ずっと莉泉と…」
そこまで言いかけた時, 部屋のドアが勢いよく開いた.
そこに立っていたのは, 日野聡之だった.
彼の背後には, 数人の屈強な男たちが控えている.
部屋の中の空気が, 一瞬にして張り詰めた.
日野さんは, 圭貴の腕を鷲掴みにし, 強引に私から引き離した.
圭貴は, あまりの力に, よろめいた.
「私の妻に, 気安く触れるな」
日野さんの声は, 低く, 冷たかった.
その声には, 一切の感情が感じられなかった.
しかし, その冷たさの中に, 燃え盛るような怒りが込められているのが分かった.
圭貴は, 日野さんの圧倒的な存在感に, 怯んだかのように後ずさりした.
部屋の中の誰もが, 日野さんの迫力に言葉を失っていた.
私は, 日野さんの背中に隠れるように, 静かに息を吐いた.
もう, 大丈夫だ.
私は, 一人じゃない.
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