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世界的建築家は元専業主婦 の小説カバー

世界的建築家は元専業主婦

篠崎財閥の令嬢という高貴な身分を隠し、世界的建築家「N」としての名声も封印して、私は愛する夫のために五年間も慎ましやかな専業主婦を演じ続けてきた。しかし、待望の妊娠を伝えた私に突きつけられたのは、あまりにも残酷な裏切りだった。義母からは無理やり堕胎薬を飲まされ、夫の愛人からは無慈悲な暴力を受ける。激痛の中で救いを求めた夫の瞳に宿っていたのは、冷徹な蔑みだけだった。最愛の我が子を奪われ、身に覚えのない汚名を着せられて社会から抹殺されかけた時、私の中の優しさは死んだ。意識を取り戻した私は、復讐の決意を胸に篠崎グループの総帥である父へ連絡を入れる。「お父様、もう十分です。彼らを地獄へ突き落とします」。隠していたのは莫大な富だけではない。卑劣な者たちが縋り付く「権力」そのものが自分の手の中にあることを、骨の髄まで分からせてやる。次は法廷で会おう。元専業主婦による、壮絶な報復劇が今幕を開ける。
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2

胃からせり上がるような激痛に, 私は顔を歪め, お腹を抱え込んだ. 身体の痛みよりも, 心臓が握り潰されるような絶望が, 私の全身を支配した.

私は, 慎六郎のために, 私の全てを隠し, 平凡な妻を演じてきた. 彼の夢を支え, 彼の成功の陰で尽くしてきた. それなのに, 尽くしてきた私の末路がこれなのか.

『私の赤ちゃん…』

私は無力な母親だ. 何一つ守れない.

私は震える手で, 必死にお腹を庇った. しかし, 義母と結月の暴力は止まらない.

「この嘘つき女! 慎六郎お兄様を誑かすのもいい加減にしろ! 」

結月が, 私の頭を掴んで壁に打ち付けた. 視界が白く点滅する.

「死んでしまえばいいのよ! あなたのような女は, この世に必要ない! 」

義母は, 私の頬を何度も叩いた.

痛かった. 体が, もう限界だと叫んでいた.

朦朧とする意識の中で, 私の視界は赤く染まっていった. 熱い液体が, 太ももを伝って流れ落ちるのが分かった.

『血だ…』

激痛と共に, 私の体から大切なものが失われていくのが分かった.

「やめて…」

私はか細く呟いた.

その時, 玄関のドアがけたたましい音を立てて開いた. 私は一瞬, 救われると期待した. 慎六郎が帰ってきたのだと.

しかし, そこに現れたのは, 純白のドレスを身につけた絵里香だった. 彼女の瞳は潤み, まるで悲劇のヒロインのように見えた.

「奈津枝さん! なんてことをするの! ? 」

絵里香の甲高い声が, 部屋に響き渡った.

その後ろからは, 大勢のメディア関係者が押し寄せ, 一斉にフラッシュを焚き始めた. 私は, 何が起こっているのか理解できなかった.

フラッシュの眩しさに目が眩む. 薄れる視界の片隅に, 巨大な横断幕が見えた. そこには, 『家庭を壊す寄生虫, 野々村奈津枝』と書かれていた.

義母と結月は, 突然の事態に呆然と立ち尽くしていた. 計画が狂ったのだろう. 絵里香が, 私たちの計画を狂わせたのだ.

「お義母様, 結月ちゃん! 可哀そうな慎六郎さんを, 彼女から守ってあげて! 」

絵里香は涙ながらに叫び, 義母に抱きついた.

そして, カメラに向かって, まるで演技でもするかのように泣き始めた.

「奈津枝さんは, 私が慎六郎さんと結婚するのを邪魔するために, 勝手に住み着いていたんです! 私たちが幸せになるのが, 許せないんです! 」

絵里香は私の顔を指差し, 身の毛のよだつような嘘を並べ立てた.

「彼女は, 私のいない間に慎六郎さんを誑かした家政婦なんです! 私の慎六郎さんを返して! 」

絵里香は, 私に駆け寄ると, 力任せに私の頬を叩いた. 私の顔には, すでに義母に叩かれた跡と, 血の味が広がっている.

「これが, 他人の家庭を壊した女の末路よ! 私のファンのみんな, 見ていてください! この女の醜い姿を! 」

絵里香は, カメラに向かって, 勝ち誇ったように叫んだ.

私は, あまりのことに頭が真っ白になった.

「あなたは…何をしているんですか…私が, 慎六郎さんの, 妻です…! 」

私は痛む体を引きずりながら, 精一杯の力で反論した.

「あなたが, 私たちを, 壊したんです…! 」

「嘘をつかないで! 慎六郎さんは, 私しか愛していない! あなたみたいな, どこぞの馬の骨かも分からない女に, 慎六郎さんの愛が分かるはずがない! 」

絵里香はヒステリックに叫んだ.

その時, 義母が我に返った.

「そうよ! この女は寄生虫よ! 慎六郎の優しさにつけこんで, この家に居座っていたのよ! 今すぐ, この家から叩き出して! 」

メディアのフラッシュが, 一斉に私に向けられる. 私は, 屈辱と絶望の中で, 床に倒れ込んだ.

その時, 玄関のドアから, 慎六郎が駆け込んできた.

「絵里香! 奈津枝! 一体, 何をしているんだ! 」

慎六郎は, 混乱した顔で叫んだ.

絵里香は, 震える体で慎六郎に抱きついた.

「慎六郎さん! 奈津枝さんが, 私を, 私をいじめるんです! 慎六郎さんとの結婚を邪魔するために…」

慎六郎の目に, 私への軽蔑と怒りが宿った. 私を信じるどころか, 絵里香の言葉を真に受けたのだ.

「奈津枝! 絵里香に謝れ! なんてことをするんだ! 」

慎六郎は, 私を指差して叫んだ.

その瞬間, 私の下腹部に, 激しい痛みが走った. 熱い液体が, また, 大量に流れ出る.

『血だ…赤ちゃんが…』

私は, 声にならない悲鳴を上げた.

お腹の子が, 私から離れていくのが分かった.

私の意識は, ゆっくりと遠のいていく. 最後に見たのは, 慎六郎の冷酷な目と, 絵里香の勝ち誇った笑顔だった.

鼻を突く消毒液の匂いで, 私は意識を取り戻した. 重い瞼をゆっくりと開くと, 目に飛び込んできたのは, 真っ白な病室の天井だった.

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