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間違われた花嫁と執着御曹司 の小説カバー

間違われた花嫁と執着御曹司

小林由佳が迎えた結婚式当日、あろうことか新郎は式場に姿を現さなかった。最良の日になるはずが、夫となる男に置き去りにされるという最悪の裏切りに遭った彼女は、深い絶望と激しい憤りに飲み込まれてしまう。自暴自棄に陥った由佳は、その荒れ狂う感情をぶつけるかのように、新婚初夜という特別な時間を名も知らぬ見知らぬ男と共に過ごし、自らの身を委ねてしまった。一夜限りの過ちで終わるはずだった。しかし、その夜を境に、彼女の運命は大きく狂い始める。素性も知れないその男は、なぜか執拗に由佳の前に現れ、彼女を追い詰めるように付きまとい始めたのだ。裏切った新郎への思いと、突如として現れた謎の男による異常なまでの執着。翻弄される由佳の日常は、甘く危険な歪みを見せ始める。愛と憎しみが交錯する中、逃げ場のない執着の物語が幕を開ける。由佳を待ち受けるのは破滅か、それとも新たな愛の形なのか。孤独な魂が彷徨う夜の果てに、彼女が見つける真実とは。
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2

院長が言った。「彼女が昨夜当直だった林舞子医師です」

白鳥功が入ってきて林舞子のネームプレートを一瞥し、言った。「来てください」

舞子は呆然とした。

「どこへ……」

「いいから、早く行くんだ」 院長はそれ以上問いただすことを許さず、舞子の腕を引いた。「清水社長をお待たせしないように」

彼女はすぐに院長室へ連れて行かれた。

清水雅樹がソファに深く沈み込んでいた。すらりとした長身は背筋が伸びており、注意深く観察しなければ、その薄い唇から血の気が引いていることには気づかないだろう。

病院に漂う消毒液の匂いが、彼のかすかな血の匂いを覆い隠していた。

純黒のスーツをまとい、その鋭い顔つきは、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた者だけが持つ圧倒的なオーラを放っていた。その視線ひとつで、人は畏怖の念に駆られる。

功が雅樹の後ろに回り込み、身をかがめて小声で報告した。「昨夜の監視カメラの映像は、すべて何者かによって意図的に破壊されていました。おそらくあなたを追っていた者たちが、証拠を残さないために破壊したものと思われます。こちらが昨夜当直だった林舞子医師です。院長も彼女が当直だったと確認しており、先ほど勤務記録も確認しましたが、間違いなく彼女の当番でした」

雅樹が顔を上げた。

舞子は息を呑んだ。(この男は天聚グループの社長では?)

「昨夜、私を助けたのは君か?」雅樹の視線に、探るような色が混じった。

舞子はすぐにうつむき、彼の視線から逃れた。

「は、はい、私です」昨夜、具体的に何が起こったのかは知らない。しかし、彼と関係を持つことができれば、良いことしかないのは分かっていた。

ちょうど第二軍区総病院でのインターンを控えた、重要な時期だった。

インターンとは名ばかりで、そこへ行けばそのまま残れることを誰もが知っている。

あそこの環境は、ここと比べて雲泥の差だ。

雅樹の後ろ盾があれば、第二軍区総病院への道は間違いなく自分のものになるだろう。

「望むものは何でも与えよう。結婚でもだ」 雅樹の表情は硬いままだが、昨夜のことを思い出したのか、その硬質な顔つきが少しだけ和らいだ。

「あの……わ、私は……」幸運はあまりに突然訪れ、舞子はしどろもどろになった。

「よく考えて、決まったら連絡してくれ」雅樹は立ち上がり、秘書に自分の連絡先を彼女に渡すよう命じた。

院長が自ら見送りに出た。「清水社長」

「見送りは結構」 雅樹の顔には、いつもの冷淡さが戻っていた。ふと何かを思い出したように足を止め、「彼女が病院にいる間、よろしく頼む」と告げた。

「ご安心ください。お任せを」院長は愛想笑いを浮かべた。

誰も聞いていないことを確認し、秘書が小声で忠告した。「社長、あなたは既にご結婚されています。結婚の約束は……」

林さんにはできないのでは、と。

無理やり押し付けられた女のことを思い出し、雅樹の表情がみるみるうちに険しくなり、その口元に氷のような弧が描かれた。「死にたいのか」

秘書は身震いした。それが、彼に嫁いできた女のことを指しているのか、それともこの結婚を仕組んだ黒幕のことを指しているのか、判断がつかなかった。

……

小林由佳は別荘に戻った。ここは新婚の夫の家である。

「奥様」家に入ると井上さんが出迎えた。「どうして一晩中お留守だったのですか」

「急にシフトが入ったの」由佳は小声で答えた。

彼女の目は赤く、疲れた表情をしていた。

井上さんは由佳がひどく疲れている様子を見て、それ以上は聞かなかった。

由佳は二階へ上がると、バスタブに身を沈めた。昨夜の出来事を思い返すと、頬が熱くなるのを止められず、腕の中に顔を埋めた。

心境は複雑だった。

相手がどんな男かも知らないまま、こんなふうに自分を捧げてしまったのだ。

それに、自分は――既婚者なのだ。

新婚の夫である――清水雅樹に申し訳が立たなかった。

シャワーを浴びて服を着ると、由佳は家を出た。

井上さんは由佳がまた出かけるのを見て、歩み寄った。「またお出かけですか。朝食は召し上がらないのですか?」

由佳は時間を見て言った。「仕事に遅れてしまうわ」

井上さんは由佳が医者だと聞いていたので、その仕事の大変さを理解していた。医者という職業が尊敬に値するものであることもあり、牛乳を持ってきた。「温かいですよ。これを飲んでからお行きなさい」

由佳は井上さんを見た。その気遣いに温かい気持ちになり、そっと目を伏せて小声で言った。「ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」井上さんは笑った。丸い顔がとても優しげに見える。

由佳が飲み干すと、井上さんはカップを受け取った。由佳は玄関へ向かった。

由佳はすぐには病院へ向かわなかった。こんなに早く家を出たのは、入院病棟に寄るためだった。

彼女の母親は集中治療室にいる。

中へ入り、母親の様子を確認したが、状況は相変わらず悪かった。

気持ちがずしりと重くなった。

母親は末期の心不全を患っており、命を繋ぐには心臓移植しか道はなかった。そして、そのためには莫大な手術費用が必要だった。

由佳が父親の言う通り清水家へ嫁ぐことを承諾したのは、もし断れば金は出さないと脅されたからだ。

今、適合する心臓さえ見つかれば、母親は助かるのだ。

由佳は母親を見つめ、かすれた声で言った。「お母さん、私が絶対に治してあげるから」

母親は、この世でたった一人の大切な肉親なのだ。

ブーブー――

ポケットの中のスマートフォンが震えた。

「由佳、ちょっと頼みたいことがあるんだ」電話の向こうから声が聞こえた。

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