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砕かれた福の神と愛の終焉 の小説カバー

砕かれた福の神と愛の終焉

遺伝性の不治の病により、私の命は残りわずかとなった。十年前、愛する光紀の将来を想うがゆえに「金のために別れる」と偽りの言葉で彼を突き放した私。しかし、成功を収め大富豪となった彼は、積年の恨みを晴らすべく私を妻の座に縛り付け、残酷な復讐を開始した。彼は愛人を堂々と連れ歩き、私の目の前で母の形見である大切な「福の神」を彼女に与える。愛人の手で粉々に砕かれたその宝物は、私に残された最後の希望そのものだった。絶望から吐血し倒れる私を、彼は演技だと冷たく突き放す。親友のために生きようと抗ったが、愛人の妊娠という追い打ちが私の心を完全に折った。かつて信じた彼の愛も言葉も、すべてが虚構だったのだ。私は自らの死を受け入れ、静かに遺体寄贈の同意書に署名した。この命が尽きた後、真実を突きつけられた彼がどれほど深い後悔と狂気に囚われることになるのか、今の私には知る由もなかった。
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―― 麻里乃 ――

光紀が私に深い愛情を抱いているという噂は、百合奈の耳にも届いていたようだった。彼女は私を睨みつけ、苛立ちを隠さなかった。彼女はそんな噂を信じていなかった。私への優越感を保ちたかったのだろう。

「岩崎社長が本気であなたを愛しているなんて、ありえませんから。彼はあなたを恨んでいるだけです。あなたを苦しめることだけが、彼の喜びなんです。」

百合奈はそう言って、私を嘲笑った。彼女は光紀から与えられた特別な待遇をひけらかし始めた。

「社長は私に、最新のスマートフォンをプレゼントしてくれました。彼が『君の指に似合う』って。それから、海外旅行のチケットも。彼は私の行きたい場所ならどこへでも連れて行ってくれるんです。あなたにはそんなこと、してくれないでしょう?」

彼女は自慢げに話した。私は彼女の言葉を聞き流した。光紀が他の女性に同じようなことをしていたのを、何度も見てきた。贈り物、旅行、甘い言葉。全ては、彼が私への復讐のために使う道具だった。私を傷つけるための、彼なりの方法だった。

光紀は、私に嫉妬させ、苦しめるために愛人を作っていた。それは、これまでのすべての愛人に対してもそうだった。彼らの寵愛は短命に終わり、光紀はすぐに次の女を見つけた。しかし、百合奈は違った。光紀は百合奈に、他の誰にも見せなかった顔を見せていた。光紀と百合奈は、まるで本当に愛し合っているカップルのようだった。

光紀は百合奈の手を握り、優しく微笑んでいた。百合奈も光紀に寄り添い、甘えた声で話していた。彼女の瞳は光紀だけを映していた。その光景は、私の視界に何度も飛び込んできた。私の隣には誰もいなかった。私は一人だった。心に何かが刺さるような感覚も、もうなかった。

私は百合奈に問いかけた。私の声は、驚くほど冷静だった。

「あなたは彼に、私と離婚するように言わないのですか?」

私の言葉に、百合奈は一瞬ひるんだ。彼女の顔が怒りで赤くなった。目を見開いて私を睨みつけた。

「何を言っているんですか! 離婚なんて、そんなこと、私が言えるわけないでしょう! 私はまだ、社長の奥様じゃないんですから!」

百合奈は私に罵声を浴びせた。彼女の言葉は、まるで機関銃のように私に降り注いだ。

「あなたが社長を捨てたから、社長は私と親しくなったんです! あなたが悪いんでしょう! 醜いおばさん! 早く消えてなくなればいいのに! 私と社長の邪魔をしないでください!」

彼女はさらに言葉を続けた。

「社長はあなたを愛していません! 社長が愛しているのは私だけです! あなたなんか、早く彼の前から消えればいいんです! そうすれば、私が社長の隣に立てるのに!」

近くにいた社員が、百合奈の過激な言葉に戸惑っていた。彼らは百合奈を止めようとしたが、百合奈は聞かなかった。彼女は完全に感情的になっていた。

私は百合奈の言葉をただ受け入れた。罵られても、もう何も感じなかった。私の心は、すでに麻痺していた。私が彼を捨てたのは事実だった。私は醜い。早く消えてなくなるべき人間だった。彼女の言葉は、私の心を全く傷つけなかった。感情は、冷たい氷のように固まっていた。

私はもう、光紀に怒ることも、悲しむこともなかった。彼の存在は、私の心から完全に消え去っていた。彼の行動一つ一つが、私にとってどうでもよかった。

光紀は、私にとって何の価値もない人間になっていた。彼の愛情も、彼の憎しみも、私にはもう届かなかった。彼の言葉一つで、私の感情は揺らがなくなった。

私は光紀に徹底的に失望していた。私の心は、彼に対する期待を完全に手放した。もう彼に何も求めなかった。彼の行動は、私にとって意味をなさなかった。

私は自分の置かれた状況を冷静に理解していた。病気で、余命数ヶ月。夫には愛人がいて、私は彼に捨てられた女だと思われている。それでも、私はこの運命を受け入れた。抗う力も、抗う意味もなかった。

私は光紀への感情を完全に手放した。彼の存在は、私の人生から消えた。私は残りの人生を、自分のために生きようと決めた。

私はこれからの人生を、私自身のものとして生きる。死が訪れるその日まで、私は自由に生きる。私はもう、誰のためにも生きない。他人の期待に応えることも、誰かの復讐に付き合うことも、もうしない。だが、そう誓ったそばから、私の体は再び激痛を訴え始めた。まるで、そんな私の決意を嘲笑うかのように。

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