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砕かれた福の神と愛の終焉 の小説カバー

砕かれた福の神と愛の終焉

遺伝性の不治の病により、私の命は残りわずかとなった。十年前、愛する光紀の将来を想うがゆえに「金のために別れる」と偽りの言葉で彼を突き放した私。しかし、成功を収め大富豪となった彼は、積年の恨みを晴らすべく私を妻の座に縛り付け、残酷な復讐を開始した。彼は愛人を堂々と連れ歩き、私の目の前で母の形見である大切な「福の神」を彼女に与える。愛人の手で粉々に砕かれたその宝物は、私に残された最後の希望そのものだった。絶望から吐血し倒れる私を、彼は演技だと冷たく突き放す。親友のために生きようと抗ったが、愛人の妊娠という追い打ちが私の心を完全に折った。かつて信じた彼の愛も言葉も、すべてが虚構だったのだ。私は自らの死を受け入れ、静かに遺体寄贈の同意書に署名した。この命が尽きた後、真実を突きつけられた彼がどれほど深い後悔と狂気に囚われることになるのか、今の私には知る由もなかった。
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3

―― 麻里乃 ――

私が百合奈の挑発を無視して立ち去ろうとしたその時だった。百合奈は足元にあったコードにつまづいた。彼女はバランスを崩し、大きくよろめいた。

「きゃっ!」

百合奈は悲鳴を上げた。彼女は床に倒れ込み、その瞬間、近くのデスクの角に手を打ち付けた。鋭い音が響き、彼女の手の甲から血がにじみ出た。

その悲鳴を聞きつけた光紀が、会議室から飛び出してきた。彼は百合奈の血まみれの手を見て、顔色を変えた。彼の目は、瞬く間に怒りに燃え上がった。

光紀は会議を中断し、百合奈のもとへ駆け寄った。彼は百合奈を抱き起こし、腕の中に優しく抱きしめた。その姿は、まるで百合奈が彼の唯一の存在であるかのようだった。

「誰がやったんだ! 誰が百合奈を傷つけた!」

光紀の怒鳴り声が、オフィス中に響き渡った。彼の声は恐怖を伴い、周囲の社員たちは皆、縮み上がった。誰もが光紀の恐ろしい形相に怯え、口を開くことができなかった。

私は光紀の目に映る憎しみを真っ直ぐに見た。そして、ためらいなく答えた。

「私がやった。」

私の言葉に、光紀の瞳が凍りついた。百合奈は光紀の腕の中で顔を上げた。

「彼女が勝手に転んだだけだ。自業自得だ。」

私はそう言って、百合奈を冷たく見下ろした。彼女の挑発が招いた結果だった。

百合奈は光紀の腕の中で泣きじゃくった。

「社長…私、あなたのことを愛してしまったから、こんな目に遭うんです。奥様が私を憎んでいるから、こんな…」

彼女は涙を流し、自身が犠牲者であるかのように語った。そして、光紀への揺るぎない愛を訴えた。

「私、社長のこと、本当に愛しています。どんなことがあっても、社長のそばにいたいです…」

百合奈の言葉に、光紀はフッと笑った。彼の笑みは、百合奈への寵愛を明確に示していた。彼は百合奈の髪を優しく撫でた。

「大丈夫だ。君は悪くない。私が守ってやる。」

光紀は百合奈を抱きしめ、額にキスをした。その優しい眼差しは、私に向けられたことのないものだった。私は光紀が百合奈に注ぐ愛情を、確かにこの目で見た。それは、私への復讐だけでは説明できないものだった。

私は光紀に近づき、冷たい声で言った。

「治療費が欲しい。病気になった。お金がない。」

私と光紀の間には、もう夫婦としての絆はなかった。私たちの関係は、結婚という契約でしか繋がっていなかった。光紀は、私を金のために彼を捨てた女だと信じ込み、その憎しみから私と結婚した。

光紀は、私が金のために彼を捨てたとずっと信じていた。だから、彼は私がお金を要求することを憎んでいた。彼は私を軽蔑し、金にがめつい女だと罵った。しかし、私はそんなこと、もう気にならなかった。

過去、私が彼に金を要求するたびに、彼は渋々ながらも私の要求に応じていた。それが、彼の私への復讐の方法だった。私に屈辱を与え、私を支配すること。しかし、今回は違った。

光紀は私を冷めた目で見つめた。そして、初めて私に屈辱的な条件を突きつけた。

「百合奈に謝罪しろ。そうすれば、金をやる。」

光紀の言葉に、私の全身が震えた。謝罪など、できるはずがなかった。私の尊厳を踏みにじる要求だった。私は首を横に振った。

「しない。」

その瞬間、私の体は激しい痛みに襲われた。胃のあたりが締め付けられ、頭が真っ白になった。立っているのがやっとだった。

私は光紀に背を向けた。彼からの金も、彼の言葉も、もういらなかった。私はただ、この場所から立ち去りたかった。

私は知っていた。私が死んだ後、光紀はきっと、私の真実を知るだろう。その時、彼はどんな顔をするだろうか。どんな後悔に苛まれるだろうか。私はそのことを、少しだけ気になった。だが、その時はまだ、自分が彼の前から「死」という形で完全に消えることになるとは、考えてもいなかった。

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