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砕かれた福の神と愛の終焉 の小説カバー

砕かれた福の神と愛の終焉

遺伝性の不治の病により、私の命は残りわずかとなった。十年前、愛する光紀の将来を想うがゆえに「金のために別れる」と偽りの言葉で彼を突き放した私。しかし、成功を収め大富豪となった彼は、積年の恨みを晴らすべく私を妻の座に縛り付け、残酷な復讐を開始した。彼は愛人を堂々と連れ歩き、私の目の前で母の形見である大切な「福の神」を彼女に与える。愛人の手で粉々に砕かれたその宝物は、私に残された最後の希望そのものだった。絶望から吐血し倒れる私を、彼は演技だと冷たく突き放す。親友のために生きようと抗ったが、愛人の妊娠という追い打ちが私の心を完全に折った。かつて信じた彼の愛も言葉も、すべてが虚構だったのだ。私は自らの死を受け入れ、静かに遺体寄贈の同意書に署名した。この命が尽きた後、真実を突きつけられた彼がどれほど深い後悔と狂気に囚われることになるのか、今の私には知る由もなかった。
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私は遺伝性の難病に侵され, 余命数ヶ月を宣告された.

かつて, 愛する夫・光紀の未来を守るため, 私はお金のために彼を捨てたと嘘をついた.

十年後, 成功を収めた彼は復讐のために私を妻にし, 若い愛人を公然と連れ歩いた.

彼は愛人が私を侮辱するのを許し, 母が残した唯一の愛の信物「福の神」さえも彼女に与えた.

「こんな安っぽいもの, 誰も欲しがらないわよ! 」

愛人はそう叫び, 私の目の前で福の神を粉々に砕いた.

私は絶望の中で血を流して倒れたが, 彼は私が芝居をしていると冷たく言い放った.

病の床で, 私は親友のために必死に生きようとしたが, 耳に届いたのは愛人が彼の子を妊娠したという知らせだった.

彼の愛も言葉も, すべてが嘘だったのだ.

私は完全に心を閉ざし, 静かに遺体寄贈の同意書にサインした.

私がこの世を去った後, すべての真実を知った彼が狂気に陥るとは知る由もなかった.

第1章

―― 麻里乃 ――

夫は、私の人生がもうすぐ終わることを知らなかった。彼は、私を傷つけるためならどんなことでもした。私を苦しめることが、彼の生きがいになっているようだった。私の心は、もうとっくに死んでいた。

彼は、会社の新人である菊池百合奈を公然の愛人にした。百合奈は若く、私たちがまだ貧しかった頃の私によく似ていた。光紀は、私に嫉妬させ、苦しめるために百合奈を選んだ。これは私への復讐だった。

光紀と百合奈の関係は、もう半年以上続いていた。社内では公然の秘密で、誰もが知っていることだった。光紀は百合奈に異常なほど執着していた。それまでのどの愛人にも見せなかった顔を百合奈には見せていた。

彼の愛人たちはいつも短命だった。光紀の気まぐれな寵愛はすぐに終わり、彼女たちはあっけなく捨てられた。しかし、百合奈だけは違った。光紀は百合奈を本気で愛していると、誰もが噂し始めた。会社の人々がひそひそ話すのを何度も聞いた。彼が百合奈に注ぐ愛情は、まるで彼が私に抱いていた最初の愛のようだった。その噂は、私の耳にも届いた。

私が百合奈を初めて見たのは、光紀の会社の創立記念パーティーだった。華やかな会場で、光紀の隣に立つ百合奈は、私自身が過去に戻ったかのように見えた。彼女の笑顔は無邪気で、昔の私そのものだった。その時、私は胸に鋭い痛みを覚えた。単なる嫉妬ではない、体の奥からの痛みだった。

それから数週間、私の体は次々とおかしな症状を訴え始めた。朝起きると倦怠感がひどく、頭がぼんやりした。めまいがして、立ち上がることさえ困難な日もあった。突然鼻血が出たり、体が熱くなったりした。私は一人で病院に行った。誰にも知られずに診察を受け、検査を待った。検査結果は、私を絶望の淵に突き落とした。

診断は遺伝性の難病。母と同じ病気だった。医師は私のカルテに目を落としながら、淡々と余命は数ヶ月だと告げた。私はただ、椅子に座り、窓の外の曇り空を見上げた。まるで他人事のように、冷静にその事実を受け止めた。感情が湧き上がらなかった。

死は怖くなかった。恐怖は、すでに私の中に巣食う病の痛みだった。母が経験した、あの激しい痛みを私が味わうことになるのかと思うと、胸が潰れそうだった。その痛みだけが、私の唯一の恐怖だった。

痛みを和らげる治療法はあった。最新の医療技術を使えば、苦痛を軽減できると医師は言った。しかし、それは非常に高額だった。普通の家庭には到底払えないような金額だった。私はため息をついた。

私は光紀に話すしかなかった。一度だけ、彼に頼んでみようと決めた。私は彼の会社に向かった。彼のオフィスフロアに着くと、秘書デスクに座っていたのは、菊池百合奈だった。彼女は私を見るなり、顔をしかめた。

光紀は会議室から出てきた。彼は私をちらりと見たが、すぐに百合奈の方を向いた。私を無視し、百合奈と親密に話していた。私はただ、彼のオフィスの応接室で待ち続けた。まるで、そこにいない存在のように扱われた。光紀は私を見ようとせず、百合奈の肩を抱き、耳元で何か囁いた。百合奈は嬉しそうに笑った。

やがて百合奈が応接室にやってきた。彼女は私の全身を値踏みするように見た後、嘲笑した。

「岩崎社長の奥様ですか? 随分と老けられましたね。こんな醜いおばさんが、あんな素晴らしい社長の奥様だなんて信じられません。」

彼女の声には、私への軽蔑と優越感がにじみ出ていた。百合奈はわざとらしく私に近づき、耳元で囁いた。

「私は岩崎社長の秘書です。社長は私をとても可愛がってくれます。私と社長の関係を、あなたはご存知ですか?」

彼女は私を挑発するように、私の顔を覗き込んだ。私は何も言わなかった。表情一つ変えなかった。百合奈は嘲笑した。

「岩崎社長が言うには、あなたは自分を捨てた女なんですってね。お金のために彼を捨てた。だから彼はあなたを恨んでいる。でも、私は違います。私は社長を心から愛しています。あなたのように、お金で男を選ぶような女じゃありませんから。」

彼女は自分のことを私と全く違う人間だと強調した。若く、美しく、純粋だと。そして私を、お金に執着する醜い女だと決めつけた。

私は近くにあった窓ガラスに映る自分を見た。やつれた顔、こけた頬、生気のない瞳、薄くなった唇。髪はパサつき、肌はくすんでいた。百合奈の言う通り、鏡の中の私は醜かった。私の人生はもうすぐ終わる。この姿の私を、誰も愛したいとは思わないだろう。愛されることなど、もう期待していなかった。

私は自分の外見も、病気で蝕まれた体も、それによって訪れる死も、ただ静かに受け入れた。心が動くことはもうなかった。絶望は、私にとっての安息になりつつあった。

その時、近くを通りかかった男性社員が百合奈のセリフに眉をひそめた。彼は百合奈の言葉が不快だったのか、私に気づくと、少し困った顔をした。

「菊池さん、社長の奥様は昔、本当に美人でしたよ。あなたと社長がつきあっていた頃の星野さんの写真、見たことがありますか? 本当に素敵な人でした。社長は今でも奥様のことを…」

その社員は話しかけられたことに気づくと、慌てて口をつぐんだ。彼は気まずそうに、私と百合奈の顔を交互に見た。百合奈は顔を赤くして、彼を睨みつけた。

「余計なことを言わないでください。社長と奥様の間には、複雑な事情があるんです。あなたが口を挟むべきことではありません。」

社員は「申し訳ありません」とだけ言って、足早に立ち去った。百合奈は私をもう一度睨んだ。その目は、獲物を狙う獣のようだった。

「あなた、社長の気を引こうとしているのでしょう? だとしても、もう遅いですよ。社長は、あなたのことなんて、とっくに忘れているはずです。」

彼女の言葉は、私の心を全く揺さぶらなかった。だが、その社員の言葉は、私の心に奇妙な残響を残した。光紀は、今でも私のことを覚えているのだろうか。彼の復讐は、本当に私への憎しみだけなのだろうか。私は分からなかった。ただ、もうどうでもいいと思った。しかし、その「どうでもいい」という諦めが、後に私をさらに深い絶望へと突き落とすことになるとは、この時の私には想像もできなかった。

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