フォローする
共有
裏切られた妻は、高嶺の花となる の小説カバー

裏切られた妻は、高嶺の花となる

5年前、彼女は愛する彼を窮地から救い出すため、自らの体を張って凶刃に倒れた。その代償として腹部に深い傷を負い、彼女は二度と子供を授かることができない体になってしまう。かつて彼は「一生、子供はいらない」と愛を誓い、彼女の献身に寄り添うはずだった。しかし、月日が流れるとともに彼の心は変節し、あろうことか「代理出産」という残酷な選択肢を彼女に突きつける。しかも彼がその相手として選んだのは、かつての彼女の面影を強く残す女子大生だった。裏切りとも取れるその身勝手な望みを聞かされた瞬間、彼女の心の中で彼への愛情は完全に潰える。彼が新しい命への執着を見せ始めたその最初の日、彼女はすでに静かな決意を固めていた。すべてを捨てて彼のもとを去り、自らの足で新たな人生を歩み出すことを。これは、献身的な愛を裏切られた妻が、絶望の淵から這い上がり、誰もが憧れるような気高く美しい「高嶺の花」へと生まれ変わるまでの物語である。二人の関係が修復不可能な段階に至ったことに、愚かな彼はまだ気づいていなかった。
共有

2

翌日まで、一条蓮は部屋に戻らなかった。遥も、もう気にも留めなかった。

夜が明けると、遥は部屋に大勢の使用人を呼び、荷物の片付けを始めた。

彼女のウォークインクローゼットは広大で、これまでに蓮が贈ったあらゆる贈り物で満ちていた。

今、彼女は去る。これら全てが不要になり、寄付するつもりだった。

蓮が白石葵を伴って突然部屋に入ってきたとき、遥はちょうど箱の中のダイヤモンドブレスレットを手に取ろうとしていたところだった。

それは、二人の結婚一周年記念に蓮が自ら作ってくれたものだ。そこには、二人の名前が丁寧に刻まれていた。

持っていくべきか、それとも置いていくべきか。遥が躊躇していると、横から伸びた手が、そのブレスレットを奪い去った。

「わあ、このブレスレット、すごく素敵!蓮さん……」

「気に入ったなら、持っていけ」

蓮は遥に尋ねることなく、そのブレスレットを葵の手首に直接はめた。

その光景を目にして、遥は眉をひそめた。「蓮、あなた、忘れたの?このブレスレットは……」

「結婚一周年」という言葉が口から出る前に、蓮に遮られた。

「ただのブレスレットじゃないか。葵が欲しいならくれてやれ。君には新しいものを買ってあげるよ」

ただのブレスレット? 遥の口元には、苦々しい笑みが浮かんだ。

そうね。どうせ彼はもう覚えていないのだから。誰にあげようと、もうどうでもいい。

部屋中の宝石を見渡しながら、蓮は訝しげに尋ねた。「どうして急に、こんな物を片付け始めたんだ?」

「特に理由はないわ。多すぎるから、寄付しようと思って」

遥はそう答えながら、机の上の檀木の箱から翡翠のペンダントを取り出した。

それは母が亡くなる前に残してくれた唯一の遺品。これだけは、絶対に持っていく。

「遥お姉さん、このペンダント、本当にきれいね。ちょっと貸してくれない?」

遥は無意識にペンダントを強く握り締めた。「だめ。これは私の母の遺品なの」

「そうなの? 私、本当に好きなのに。玉は人を守るって言うし、私もただ、蓮さんとの子供が無事に生まれるように祈るだけなのに!」

「古い物一つ、貸して何が問題だというんだ?」

蓮の口調は少し苛立ちを含んでいた。彼は直接遥の手からペンダントを奪い取ると言った。「葵に貸すくらい、大したことじゃないだろう」

彼の言葉に、遥は衝撃を受けた。

「一条蓮!あなた、自分が何を言っているのか、わかってるの? これは私の母が、私に残してくれた唯一の遺品だって言ったじゃない!」

遥は渡すのを拒み、もみ合っているうちに、ペンダントは「パチン」と音を立てて床に落ち、瞬く間に粉々に砕け散った。

蓮は眉をひそめ、説明しようと「遥——」と口を開いた。

床に散らばったペンダントの破片を見て、遥は震える手でしゃがみ込み、一片一片拾い集めた。

鋭い破片が彼女の指を切り裂き、

鮮血があふれ出た瞬間、遥の目は赤く染まった。

「お母さん——」

心の奥底から込み上げる痛みを押し殺し、彼女は蓮をきつく睨みつけた。

「あなたたち、出て行って!」

「遥お姉さん、怒らないで。全部私が悪かったの。もう着けないから、ね? 自分の立場をわきまえてなかった。代理母の私なんかが、こんな物を要求する資格なんてないのに! 私を許して。それに、蓮さんにも怒らないで。大したことじゃないわ、私が弁償するから」

葵はそう言って歩み寄り、可哀想な様子で遥の手を握ろうとしたが、遥は力強く彼女を押しのけた。

「弁償? あなたに、何が弁償できるっていうの? あなたたち、人の言葉が理解できないの? “遺品”って何なのか、わかる?概念があるの?」

「いたっ!」

葵は数歩後ずさり、背中を棚にぶつけて痛みで泣き出した。

「痛い、私のお腹が——」

「葵!」

その光景を見て、蓮の顔色は険しくなった。

彼は遥の腕を掴み、彼女の全身を力強く壁に叩きつけた。

「佐倉遥!お前正気か? 葵は妊娠中なんだぞ、彼女を押すなんて!」

彼は遥を鋭い目で睨みつけ、彼女が大切に抱えている玉の破片を指差して、低く吠えた。「ただのペンダントじゃないか、大したことないだろう? 今すぐお前の母さんに送ってあげようか? 下のほうでまた着けられるようにしてやろうか?佐倉遥!」

この言葉は、遥の心の最後の防壁を完全に打ち砕いた。

彼女は目の前のこの男を見て、初めて、この数年間の結婚生活が、徹頭徹尾、滑稽な茶番に過ぎなかったと悟った。

「一条蓮!出てって!」

遥は背中の痛みを顧みず、手近にあった花瓶をつかみ、蓮に向かって激しく投げつけた。

「出てって!あなたたち二人とも、私の前から消えて!」

花瓶が蓮に当たる寸前、葵は素早く彼の前に立ちはだかった。

肩に花瓶が当たり、葵は痛みに叫んだ。「ああ!蓮さん、大丈夫!?」

「葵!」彼女が倒れ込むのを見て、蓮は急いで彼女を抱きしめ、心配そうに上から下まで見回した。「大丈夫か!?」

葵は泣きながら訴えた。「お腹が痛い!体中が痛い!」

「大丈夫だ、すぐに病院に連れて行くから!」

蓮は葵を抱きかかえて部屋を飛び出し、去り際に遥を一瞥した。

「君はやり過ぎた。子供が無事であるよう祈った方がいい、さもないと——」

彼の言葉は最後まで続かなかったが、遥にはわかっていた。彼の子供に何かあれば、彼はきっと彼女を殺すだろう。

彼女はまさか、五年の結婚生活がこんな悲惨な結末を迎えるとは、夢にも思わなかった。

涙が手のひらの砕けたペンダントに滴り落ち、遥は声をあげて泣き崩れた。「お母さん、蓮と結婚したことを後悔したわ。本当に後悔してる!」

おすすめの作品

捨てられ花嫁、隣の席で運命が動き出す の小説カバー
9.1
華やかな婚礼の席で、星川理緒は最悪の事態に直面した。新郎が愛する女性を追って、彼女を置き去りにしたまま式場を去ったのだ。一方、隣の会場でも悲劇が起きていた。車椅子に乗る新郎・一之瀬悠介を嫌った花嫁が、結婚を拒絶して姿を現さなかったのである。周囲の嘲笑を浴びる中、理緒は同じ境遇にある悠介に目を留め、一つの決断を下す。「花婿がいない私と、花嫁がいないあなた。いっそ二人で結婚しませんか?」と。理緒は不遇な彼を必ず幸せにしようと心に誓い、二人の新生活が幕を開ける。当初、悠介は理緒の目的を金目当てだと疑い、用が済めば即座に離婚するつもりでいた。しかし、献身的な彼女と過ごすうちに、冷徹だった彼の心は激しく揺れ動き始める。やがて、立場は完全に逆転した。いつの間にか妻を深く愛してしまった悠介は、離婚を望む理緒に焦りを募らせる。「どうすれば彼女を引き止められるのか」と。捨てられた花嫁と車椅子の御曹司、奇妙な縁から始まった関係は、予測不能な愛の行方へと動き出していく。
裏切られた女、結婚式で笑う の小説カバー
8.1
婚約から3年、信じていた彼に裏切られた。彼は私の親友と不倫関係に陥り、それを隠すどころか周囲に堂々と見せびらかしたのだ。かつては幼なじみとして絆を育んだはずの私は、業界内の嘲笑の的にされていた。彼は、私が彼への執着ゆえに何をされても耐え忍び、決して離れないと高を括っていたのだろう。しかし、そんな彼の独りよがりな確信は、ある日突然崩れ去ることになる。私の隣に新たな伴侶となる名家の御曹司が現れ、彼のもとに結婚式の招待状が届いたのだ。さらに追い打ちをかけるように、私と新しいパートナーの婚姻届が世間に公開された。迎えた式の当日、かつての傲慢な姿は消え失せ、必死に土下座して謝罪を繰り返す彼の姿があった。そんな彼を冷徹な眼差しで見下ろしながら、私は隣に立つ夫の腕を抱き、静かに告げる。「あなたのような人と関わっていた過去こそが、私にとって最大の恥だわ」と。これは、裏切りに甘んじていた女が完璧な復讐を果たし、真の幸せを掴み取るまでの物語である。
離婚後、冷酷な彼は泣きながら跪いた の小説カバー
7.8
桐嶋凌久と結婚して三年の月日が流れたが、桜井詩織の献身的な愛が彼の心を溶かすことはなかった。凌久が真に愛する女性に向ける慈しみと、妻である自分への冷徹な態度の差を突きつけられた時、詩織の淡い期待は無惨にも打ち砕かれる。「子供を産めば自由にしてやる」という冷酷な言葉通り、彼女が難産で苦しむ最中、凌久は愛する女性を連れて海外へと飛び立ってしまう。病室で血に染まりながら、詩織は彼に捧げた虚しい歳月を振り返り、積年の恩義はすべて返したと決意した。二度と会わないことを誓い、彼の前から姿を消した詩織。しかし、冷徹だったはずの凌久は、別れを告げられた瞬間に狂ったような執着を見せ、彼女の行方を追い始める。やがて再会を果たした時、かつての傲慢な面影はなく、凌久は瞳を赤く腫らして跪き、涙ながらに復縁を請うのだった。だが、静かに微笑む詩織の心に彼への情熱はもう残っていない。「桐嶋社長、もう遅すぎたのよ」と告げる彼女の言葉が、後悔に震える彼を突き放す。
強制離婚したら、オレ様社長の子供を拾ってしまいました! の小説カバー
9.2
不妊という現実に直面し、四年間に及ぶ結婚生活を強制的な離婚という形で終えた清水瞳。深い傷を負った彼女は、平穏を求めて移り住んだ地方の町で、予期せず一人の赤ん坊を拾うことになった。孤独な心を埋めたいという願いから、瞳はその子を自らの手で育てる決意を固める。それから四年後、穏やかに暮らす彼女の前に、突如として高級車の車列を連ねた傲慢な社長、天草蓮が現れた。彼は瞳に対し、四年間息子を養育した報酬として四千万円のカードを突きつけ、子供を連れ去ろうとする。必死に我が子を守ろうと「この子は渡さない」と抵抗する瞳だったが、そんな彼女の態度を見た蓮は、不敵な笑みを浮かべて驚くべき提案を口にする。「ならば、大きいほうの貴様もまとめて連れて行くだけだ」と。拾った子供との縁が、かつての絶望を塗り替える波乱に満ちた新たな運命の幕開けとなる。
7年間の片想いが冷めたので離婚します。 の小説カバー
8.1
長年募らせてきた片想いの末、ついに憧れの男性の妻となった主人公。周囲からは身の程知らずな玉の輿だと揶揄されますが、彼女は彼を独占できた喜びに浸っていました。しかし、結婚生活を待っていたのは空虚な現実でした。夫はまるで心を持たないロボットのように無機質で、どれほど尽くしても愛が返ってくる気配はありません。美貌も富も兼ね備えた自分が、なぜ情熱のない男に執着し続けるのか。その愚かさに気づいた彼女は、潔く離婚を突きつけ、自由な人生を歩む決意を固めます。離婚後、彼女は若き起業家や人気俳優との浮名を流し、華やかなスキャンダルで世間を騒がせます。一方、元妻の奔放な恋愛事情をネットで目にするたび、かつて冷徹だったはずの元夫は激しい嫉妬に駆られていきます。自分を捨てて輝きを増した彼女に対し、彼は「俺の女だ」と執着を見せますが、充実した日々を謳歌する彼女は冷ややかに言い放つのでした。「失礼ですが、どなた様でしょうか?」と。かつての献身的な愛は、もうどこにも残っていないのです。
冷徹御曹司の豹変。~捨てられた偽令嬢は、新婚初夜に溶かされる~ の小説カバー
9.1
実の両親の元へ本物の令嬢が戻ってきたことで、家を追われた「偽の令嬢」。家族に捨てられ、周囲からは没落を嘲笑される絶望的な状況の中、彼女は国内屈指の名門一族へと嫁ぐことになった。しかし、世間はその結婚を「子供を盾にした脅迫によるもの」と断じ、夫となる御曹司には別に愛する人がいると噂した。誰もが彼女の不幸な新婚生活と冷遇を確信していたが、事態は予想外の方向へと動き出す。冷徹非情な男として畏怖される御曹司が、人目も気にせず妻に付き従い、甲斐甲斐しく世話を焼く驚きの姿を見せたのだ。実は彼の本性は、妻を何よりも優先する極端な「妻至上主義者」だった。初夜から惜しみない愛を注ぎ、彼女を甘く溶かしていく夫。一方で、かつて彼女を虐げ、無情に切り捨てた者たちは、強大な権力を持つ彼からの報復に怯え、震え上がることになる。逆境から一転、最強の庇護者を得た彼女の幸福な逆転劇が幕を開ける。