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婚約破棄された没落令嬢、氷の帝王たる冷酷総帥に甘く溺愛される の小説カバー

婚約破棄された没落令嬢、氷の帝王たる冷酷総帥に甘く溺愛される

パリで学問に励んでいた主人公の元に、義妹の玲奈から衝撃的な写真が届く。そこに写っていたのは、主人公の婚約者と玲奈が肌を重ねる不貞の現場だった。カメラ越しに嘲笑を浮かべる義妹の姿を見て、長年耐え忍んできた屈辱が限界に達する。没落した西園寺家を救うという名目のもと、婚約者の佐藤家からは「恩知らず」と蔑まれ、家を繋ぐための駒として従順な娘を演じ続ける日々。しかし、裏切りを知った瞬間に無力感は消え去り、心には冷徹なまでの怒りが宿った。主人公は予定を切り上げ、即座に帰国の途に就くことを決意する。大切にしていた婚約記念のドレスを迷わずゴミ箱へ投げ捨て、これまでの偽りの人生に終止符を打つ。ただ婚約を解消するだけでは終わらせない。自分を道具として扱い、踏みにじってきた者たちを、最も残酷で華やかな舞台で破滅へと追い込むための復讐劇がいま幕を開ける。氷のような決意を胸に、彼女は反撃を開始する。
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3

金曜日の深夜。窓の外は、急な夕立が地面を叩いている。ガラスを打つ雨音が、静の心に渦巻く焦燥と期待を煽るようだった。

スマートフォンの画面が、不意に光った。健斗からのLINEメッセージ。

「今、仕事が終わった、もう寝るよ、おやすみ、愛してる」

その安っぽい「愛してる」の文字を、静は感情の無い目で見つめた。唇の端が、侮蔑の形に歪む。返信はせず、スマートフォンをサイレントモードに切り替えた。

時計の針が、午前一時を指す。

彫像のようにソファに座り続けていた静の目の前で、ついにその瞬間が訪れた。

真っ暗だった監視画面に、玄関の明かりが差し込み、人影が現れた。

「……来た」

静は背筋を伸ばし、冷たく呟いた。迷うことなく、録画開始のボタンを押す。

画面の中で、健斗と玲奈が、千鳥足で寝室になだれ込んできた。二人とも、互いの衣服を獣のように引き裂き、欲望を隠そうともしない。

静は、その醜い姿を冷たい目で見つめていた。

「……静は、本当に面白みのない女でね、まるで木偶人形だ、やっぱり、俺を理解してくれるのは玲奈、お前だけだよ」

情欲に濡れた健斗の声が、スマートフォンのスピーカーから響く。

その侮辱の言葉を聞いても、静の心に怒りは湧かなかった。ただ、強い吐き気だけが、胃の底からこみ上げてくる。この男に対する、生理的な嫌悪感。

「じゃあ、いつになったらあのお飾りを追い出して、私を佐藤家の奥様にしてくれるの?」

玲奈の甘ったるい声が、健斗に絡みつく。

「決まってるだろう、西園寺の最後の土地を手に入れたら、すぐに捨ててやるさ」

その言葉が、静の中に残っていた、ほんの僅かな未練や感傷を、完全に消し去った。

「……人渣(クズ)」

静は、画面に向かって静かに吐き捨てた。

二人の顔と、決定的な会話がはっきりと録画されていることを確認すると、彼女はそれ以上見るに堪えず、アプリを閉じた。

二十分に及ぶ、破滅的な映像。

それを、三つの異なる暗号化されたクラウドストレージに、それぞれバックアップする。

全ての作業を終え、静は濁った息を深く吐き出した。これで、過去との繋がりは完全に断ち切られた。

彼女は文書作成アプリを開くと、その指が再びキーボードの上で踊り始めた。痛烈で、一切の逃げ道を許さない、婚約破棄の声明文の草稿を、瞬く間に書き上げていく。

翌朝。あくびをしながら寝室から出てきた彩音の目の前のテーブルに、静はバックアップ用のUSBメモリを置いた。

「弾薬は、十分に揃ったわ」

USBメモリを見て目を輝かせた彩音は、一枚の招待状を差し出した。金の箔押しが施された、豪奢なカード。

「今夜、ロイヤルクレストホテルで開かれる佐藤家のパーティー、最高の処刑場じゃない?」

招待状を受け取ると、それは彩音が報道関係者として受け取ったものだった。一般人は、足を踏み入れることすら許されない、上流階級だけの閉ざされた空間。

静は不敵に微笑むと、再びノートパソコンを開いた。ホテルの宴会管理システムに侵入し、招待客リストの末尾に、何食わぬ顔で自分の名前を付け加える。

夕暮れ時。静は、これまでの彼女のイメージを覆すような、深く、攻撃的な赤色のドレスに身を包んだ。大和撫子のような従順な仮面は、もうどこにもない。

一人、タクシーに乗り込み、ロイヤルクレストホテルへと向かう。

窓の外を流れるネオンの光が、彼女の瞳に、刃のような鋭い光を映し出していた。

タクシーが、金色の装飾が施されたホテルのエントランスに停まる。静がドレスの裾を捌きながら車を降りると、夜風が彼女の長い髪を揺らした。

回転ドアに向かおうとした、その時。

一台の黒いマイバッハが、特殊な連番のナンバープレートを誇示するように、彼女のすぐそばに滑り込んできた。

ドアが開き、黒服のSPが数人、素早く降りて黒い傘を広げ、鉄壁の人垣を作る。

静は、思わず足を止めた。

雨に煙るその向こうに、後部座席から降りてくる、長身の男のシルエットが見えた。

男は、黒い杖を手にしている。その姿から放たれる圧倒的な存在感に、周囲の空気が凍り付いたように感じられた。

その瞬間、静の心臓が、奇妙な音を立てて跳ねた。まるで、頂点に君臨する捕食者に、その存在を感知されたかのような、抗いがたい感覚。

男は、彼女の視線に気づいたかのように、僅かに顔をこちらに向けた。しかし、大きな傘の影が、その表情を窺わせない。冷たく、硬質な顎のラインだけが、闇の中に浮かび上がっていた。

ドアマンが、九十度の深いお辞儀で男を迎え入れる。

静は、彼ら一行が通り過ぎるのを、その場で待つしかなかった。

男の背中が、VIP専用の通路へと消えていく。

静は、頭を振って、今の奇妙な圧迫感を振り払った。

そして、視線を正面に戻す。

胸を張り、背筋を伸ばし、彼女は、これから始まる自分の戦場へと、堂々と足を踏み入れた。

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