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捨てたのは私の方なのに。~土下座して縋る傲慢CEOの歪んだ求愛~ の小説カバー

捨てたのは私の方なのに。~土下座して縋る傲慢CEOの歪んだ求愛~

藤原家が直面した財政破綻を回避するため、藤原美月が西園寺颯真のもとへ嫁いでから3年の月日が流れた。この結婚はあくまで利益のための政略結婚であり、美月が10年もの間、密かに颯真へ恋心を抱き続けていた事実は誰にも知られていない。一方、颯真には忘れられない女性がいることは周知の事実であり、美月は愛のない「名ばかりの妻」として虚しい日々を過ごしてきた。しかし、彼の想い人が帰国するという知らせを機に、美月の心はついに限界を迎える。長年抱き続けた愛情が完全に枯れ果てた彼女は、自ら離婚を申し出た。執着を捨て去り、颯真を過去のものとして前を向く美月。だが、彼女を失って初めて、颯真は取り返しのつかない喪失感と激しい後悔に襲われることになる。かつての傲慢さを捨て、なりふり構わず彼女の影を追い求める颯真は、必死の思いで復縁を懇願する。「頼む、俺のそばに戻ってきてくれ」。しかし、深く傷つき、決別を選んだ美月の心に届く言葉はもうなかった。立場が逆転した二人の、歪で切ない愛の行方が描かれる。
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東陵グループ、社長室。

「藤原さん、私、西園寺社長の子を妊娠したの」

トップ女優の久我友紀は、手にしていた妊娠検査の診断書を藤原美月の目の前に投げつけた。

その言葉を聞いても、美月は顔も上げず、淡々と言い放った。「あなたで42人目よ」

友紀は一瞬ぽかんとし、すぐには言葉を返せなかった。

「な……。なんですって?」

美月は落ち着き払った様子で顔を上げると、手に持っていたペンを机で軽く叩いた。

「私を訪ねてきた女は、あなたで42人目。西園寺家に嫁ぎたいのかしら? あなたのやり方、まだ少し甘いわね」 美月は手元の診断書に目を落とし、鼻で笑った。「この手の芝居はもう飽きるほど見てきたけれど、あなたの演技、お粗末ね」

友紀は二度も主演女優賞に輝いた大女優だ。「演技がお粗末」だなど、屈辱以外の何物でもない!

「美月さん、私のお腹にいるのは間違いなく西園寺颯真社長の子よ! その辺にいる女たちと一緒にしないで!あなたのその席は、いずれ私のものになるわ!」

友紀は怒りに震えて拳を握りしめたが、美月は相変わらず意に介さない。まるで、拳を綿に打ち込んだような気分だった。

美月は椅子に深く背を預けた。こんなやり取りには、もう嫌というほど慣れてしまっていた。

颯真と結婚して3年。彼の数々のスキャンダルや女たちの後始末してきたおかげで、対応の腕ばかりが上達していく。

それが忘れられない初恋の相手だろうが、情熱を燃やした相手だろうが、彼女の前では皆、引き下がるしかなかった。

西園寺夫人の座に座り続けて3年。この地位を誰かに譲るつもりなど、毛頭なかった。

「お話はそれだけ? 久我さん、こんな大々的に東陵グループまで私を訪ねてきて、明日のトップニュースになるのが怖くないのかしら?」

美月は平然とした表情で友紀を見つめた。

友紀は美月の言葉に一瞬言葉を詰まらせた。彼女は公人であり、評価も非常に高い女優だ。颯真が美月に喧嘩を売るだけの後ろ盾を与えていてくれなければ、自分のキャリアを賭けるような真似はしなかっただろう。

友紀はあたりを見回し、監視カメラがないことを確認すると、颯真からかけられた言葉を思い出し、再び強気な態度を取り戻した。

「美月さん、西園寺夫人の座が手に入るなら、女優の名声なんて惜しくないわ! それに――あなたは西園寺社長と結婚して3年も経つのに子供ができないんでしょう?少しは自分の問題を考えたらどうなの? 私は彼と付き合って、たった一ヶ月で妊娠したのよ。物分かりがいいなら、さっさと離婚しなさい。それがあなたのためでもあるんだから!」

友紀は美月を真っ向から見据えた。美月の心が少しも揺るがないとは信じられなかった。

本来の計画では、今頃美月は逆上して取り乱しているはずだった。

しかし、彼女は終始平然としており、何の隙も見せない。

こんな展開では、颯真にどう報告すればいいのか?

すると、美月はただふっと鼻で笑い、眉を上げた。「久我さんが本当にその子を産みたいのなら、どうぞ。西園寺家には隠し子の1人や2人、養う余裕くらいありますから」

「隠し子」という言葉を、美月は極めて平淡に、しかしことさらに耳障りな響きで口にした。

友紀はその言葉に喉を詰まらせ、しばらく口を開くことができなかった。

美月は立ち上がるとデスクを離れ、ゆっくりと傍らのコートを羽織った。「颯真がどんな男かは、私が一番よく分かっているわ。ここ数年、面倒事を持ち込まれたのも一度や二度じゃないもの。でも、次に私に離婚を迫るなら、もう少しマシな手口を考えてちょうだい」

「お引き取りを。それとも、秘書に送らせましょうか?」

美月はわずかに顎を上げ、友紀に退室を促した。

美月のあまりに落ち着き払った態度に、友紀が用意していた台詞も演技プランも、すべて吹き飛んでしまった。

(どうして……。この女、少しも怒らないの?)

世間では、颯真と美月の夫婦仲は冷え切っており、互いに干渉しない仮面夫婦だと周知されている。

しかし、たとえ仮面夫婦だとしても、旦那の「愛人」を前にして、何の反応も示さないなんてことがあるだろうか?

それとも、本当に慣れてしまったというのか?

同じ女として、友紀はふと美月に同情を覚えた。

「ねえ、愛のない結婚を本当にこのまま続けられるの? それとも、お金のためなら何でも受け入れるってわけ?旦那の隠し子を育てることになっても、構わないって言うの?」

友紀は美月を激しく睨みつけながら言い放った。

美月はソファへ歩み寄って腰を下ろすと、自分でお茶を淹れ、淡々と返した。「男が浮気しようと思ったら、どうしたって止められないものよ。だから、男の愛を当てにして結婚するべきじゃないわ。彼が何をもたらしてくれるか、その利益を見るべきなの。利益だけは決して裏切らないから」

「久我さんは芸能界に長年いるのだから、そんな道理、もちろんご存知でしょう?」

その言葉に、友紀はその場で凍りついた。しばらく立ち尽くしていたが、やがて美月を憎々しげに一瞥すると、テーブルの上の診断書をひったくった。「西園寺夫人の座、必ずあなたから奪ってみせるわ!」

捨て台詞を残すと、彼女は踵を返してドアを押し開け、去っていった。

美月は友紀が去った方向をしばらく見つめていた。コーヒーカップを握る手は微かに白く強張り、目の奥が熱く潤んでくるまで、その視線を外すことはなかった。

今の美月の顔には、先ほどまでの冷静さはなかった。その瞳の奥には、隠しきれない自嘲の色がにじんでいた。

「隠し子を育てることも構わないのか?」友紀の言葉が頭の中で何度も繰り返される。

もちろん、平気なはずがない。

だが、彼女にどんな選択肢があるというのか。

彼女は颯真と共に育ち、彼に恋焦がれてきた。ずっと彼の背中を追いかけ、その視界に入り、自分を見つめてほしいと願い続けてきたのだ。彼と一緒にいたい一心で、最も不得意な広報学を専攻し、家族の反対を押し切ってまで、西園寺家との政略結婚に固執した。

西園寺家を支えるため、昼夜を問わず仕事に没頭し、颯真の冷え切った心を温めようと努めてきた。

しかし、結婚して3年。彼女が得たのは、彼の鳴り止まないスキャンダルと、数え切れないほどの愛人たちからの挑発だけだった。

彼と顔を合わせる回数は指で数えるほどしかなく、会えたとしても、向けられるのは限りない冷淡さと無情な言葉。夫婦の営みでさえ事務的で、型通りのものだった。彼が子供は欲しくないと言うので、彼女はずっと避妊薬を飲み続けてきた。

この3年間、彼女はまるで道具だった。西園寺家の体面を保ち、彼の性的な欲求を処理するための道具。

失望は幾度となく積み重なった。それでも、幼い頃に抱いたあの淡い恋心が彼女を突き動かし、彼からは離れられなかった。

深く息を吸い込み、美月は胸に込み上げる苦い思いを無理やり飲み込んだ。感情を押し殺すと、静かに階下へと向かった。

彼女がロビーに降り立つと、待ち構えていた記者たちが一斉に彼女を取り囲んだ。

「出てきたぞ!藤原美月だ!」

記者たちのマイクが、今にも美月の顔に突き刺さらんばかりに迫り、フラッシュの光が激しく明滅する中、容赦のない質問が次々と浴びせられる。

「藤原さん、最近、西園寺社長と女優の久我友紀さんの熱愛の噂、ご存じですか?」

「友紀さんはすでに西園寺社長のお子さんを妊娠し、そのまま結婚するのではないかとの見方もありますが、この件について一言いただけますか?」

「ご家族のために我慢されるのか、それとも西園寺社長との離婚を選ばれるのか、お考えをお聞かせください」

「西園寺社長とご結婚されて3年になりますが、いまだお子さんがいらっしゃらないことから、不妊ではないかという声も出ています。この点については事実なのでしょうか?」

「西園寺社長との夫婦関係は、すでに破綻していると考えてよろしいのでしょうか?」

「藤原さん、一言いただけませんか?」

美月は唇を固く結んだまま、口を開こうとしない。

次から次へと投げかけられる質問は、どれも鋭利な刃物のようだった。

まるで、美月の傷口に塩を塗り込むかのように。

もとから苛立ちを抱えていた彼女の心は、この瞬間、一気に燃え上がった。

この3年間、颯真のために、何度こうした不祥事の火消しに奔走してきたことか。

しかし、颯真は少しも自重しようとしない。それどころか、こうした騒動を利用して彼女を離婚に追い込もうとしているのだ。

今朝、共通の友人のSNSで目にした投稿が頭をよぎる。颯真の忘れられない女性――橘千夏が帰国した。

(これこそが、彼がなりふり構わず私との離婚を急ぐ理由なのね?)

友紀が会社へ乗り込んできた情報も、彼がマスコミにリークしたに違いない。

颯真の差し金がなければ、これほど多くの記者が東陵グループの敷地内でこれほど好き勝手できるはずがない。

しかし、なぜ?

(私が正真正銘の西園寺夫人なのに、どうしてこんな屈辱を味わわなければならないの? 誰も彼もに、離婚を強いられて……)

美月は拳を固く握りしめた。心の底に押し殺してきた感情が、この瞬間、ついに決壊した。

心の奥底に隠してきた屈辱と苦しみ、そして友紀に浴びせられた言葉の数々。それらが蜘蛛の巣のようにまとわりつき、彼女の心臓を締め付け、息もできないほどに追い詰めていく。

不意に、彼女は顔を上げた。最も近くにいた記者を真っ向から見据えると、艶然と微笑んでみせた。

「颯真は精子無力症なの。それに5分も持たないのよ。浮気の心配をするくらいなら、むしろ寝取られて私に恥をかかせないか心配した方がマシだわ」

この噂を流したのが彼だというのなら、その報いは自分自身で受けてもらうまで。

それはあまりにも予想外の告白だった。

その場の空気が凍りついたように静止した。

(そんなこと、言っていいのか……?)

(精子無力症?)

(5分ももたない?)

(我々にそこまで言っていいのか……?)

一瞬の静寂の後、記者たちは我に返ったように猛烈な勢いでシャッターを切り、美月が車に乗り込んで会社を去る姿を次々と撮影した。そして、このニュースは瞬く間にトレンドのトップに躍り出て、爆発的な注目を集めた。

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