フォローする
共有
籠の中の身重な鳥、冷酷な御曹司の甘い束縛 の小説カバー

籠の中の身重な鳥、冷酷な御曹司の甘い束縛

秘書として、そして妻として二年間、三谷美月は冷徹な夫・鷹司彰のために尽くし続けてきた。しかし、彼が心に抱くのは初恋の女性・佐野佳世への想いだけであり、美月の献身が報われることはなかった。佳世の帰国を機に二人は離婚。その半年後、美月は予期せぬ妊娠に気づく。彼女は長年の片思いに終止符を打ち、お腹の子を守るために誰にも告げず遠くへ姿を消した。彰と佳世の幸福な知らせを耳にするたび、美月は静かに彼らの幸せを願っていた。ところが、平穏な日々は出産という人生の転機に一変する。佳世と再婚するはずだった彰が、突如として美月の産室の前に現れたのだ。彼は再び共に歩みたいと切実に訴えかける。美月は「この子はあなたとは無関係」と拒絶するが、彰は「たとえ誰の子であろうと、二度と離さない」と強引なまでの執着を見せる。一度は壊れたはずの絆が、赤ん坊の誕生をきっかけに歪んだ愛へと形を変え、美月を再び甘く冷酷な束縛の中へと引き戻していく。
共有

3

三谷美月は孤児院で育った子供の中で、最も将来有望な存在だった。優れた学業成績が認められ、国内屈指の名門大学に授業料全額免除で合格したのだ。

彼女が鷹司彰と出会ったのも、その大学時代のこと。周囲には名家の御曹司たちが数多くいたが、その中でも鷹司彰はひときわ群を抜き、自然と美月の目に留まった。

結婚したこの二年間、夜ごとの寄り添い合う日々さえ、一生分の思い出として胸に刻むだけで十分だと、美月はずっと思っていた。

だけど予期せぬことに、今やお腹に命が宿ってしまった。

この子を中絶する選択は、彼女にはできなかった。この世で自分と血を分け合う唯一の存在なのだから。鷹司彰に親権を奪われる不安は拭えないが、一方で淡い望みも抱いていた。もし彼が佐野佳世の機嫌を損ねたくないのなら、この子の存在を認めようともしないのではないか —— と。

しかし昨夜の出来事が、その甘い考えを打ち砕いた。

美月は深くため息をつき、まだ平らな下腹に視線を落とした。鷹司彰はあの一夜のことを覚えていないようだが、万全の準備を整えなければならない。彼の目の届かない場所でこっそり子供を産めば、きっと発見されることはない。

たとえ後にバレたとしても、今回の誤解という前例がある。本当に子供が生まれたとしても、彼が再び乗り込んでくることはないだろう。

歳末が近づき、企業バイロンでは毎年恒例の年度総括会議が開かれた。美月は年度報告書を手に本社へ出向いたが、その手にもう一通、退職届を忍ばせていた。

逃げ出すのだ。この街を、鷹司彰の元を、少しでも遠くへ離れるために。

会議は午前九時十分に開始する予定だったが、九時半になっても鷹司彰の姿は見えなかった。

「さっき入ってきた時、佐野さんを見かけましたよ」別の支社長が部屋に入り、小声で囁いた。「鷹司社長の執務室にいらっしゃいました」

「なるほど、遅刻したのも無理はない。佐野さんと過ごしているのだろう」

鷹司彰は仕事を最優先に、時間に厳格な人物として知られていた。佐野佳世の存在だけが、その彼のルールを崩してしまう。

この瞬間、美月は「特別に愛される」という意味を、身をもって理解した。

彼女は立ち上がり、会議室の窓際へ歩み、カーテンの隙間から向かいにある社長執務室を眺めた。執務室のカーテンは半分閉じられており、濃いグレーを基調とした落ち着いた室内に、鮮やかな紫色の姿が浮かんでいるのがぼんやりと見えた。

かつて鷹司彰の秘書だった美月にとって、この執務室は見慣れた場所だ。

脳裏に光景が浮かび上がる。鷹司彰が椅子に座り、佐野佳世が机の縁に寄りかかり、二人が見つめ合って穏やかに笑う姿。それ以上に親密な様子さえ、容易に想像できた。

彼女は鷹司彰のためにバイロンに入社した。ただ、彼のそばに寄り添う小さな存在でいたいと願っていただけなのに、気づけば思いがけず深い関係に巻き込まれてしまった。

もしかしたら、この絆が深かったのは自分だけで、鷹司彰にとって自分は、通りすがりの傍観者に過ぎないのかもしれない。

二年間の結婚生活で、特別な扱いを受けたことも、愛されていると実感したことも一度もなかった。必死になって彼のそばに寄ったことが、果たして正しかったのか、間違いだったのか。

かつて深く結ばれた日々を思うと、ささやかな幸せを感じる一方、激しい後悔も押し寄せる。嬉しさと切なさ、後悔と未練 —— 入り混じった複雑な感情が、胸いっぱいに広がっていく。

「皆さん、報告を始めてください。会議は全て録画されており、社長が後で再生して確認されます」

遠藤航が会議室の扉を開け、声をかけてきた。

美月は指先を軽く動かし、カーテンから手を離し、うつむいたまま自分の席へ戻って座った。

各支社の責任者たちが順番に報告を進める。鷹司彰が同席していないため、議事は滞りなく進み、当初三時間を見込んでいた会議も、二時間で終了した。

「それでは皆さん、先に懇親パーティーの会場へ移動してください。社長もすぐに向かわれます」

遠藤航が各支社の年度報告書を回収し始め、美月の席に差し掛かった。

美月は柔らかく笑みを浮かべた。

「遠藤補佐、これを鷹司社長に届けていただけますか」

退職届を封筒に入れて差し出す。本来は直接手渡そうと考えていたが、佐野佳世が執務室にいる今、中に入るわけにはいかなかった。

「直接社長に渡しても大丈夫ですよ」

遠藤航は鷹司彰の専任補佐であり、美月が秘書だった頃から仕事で連携してきた仲だ。二人の結婚関係を知る、社内で唯一の人物でもある。彼は執務室の方をちらりと眺め、続けた。「仕事上の書類ですから、ノックして入って問題ありません」

会議室の扉は開け放たれており、執務室の中の様子がはっきりと伺えた。

佐野佳世は鷹司彰の社長用椅子の縁に腰を下ろし、二人の距離は極端に近い。

いつもは輪郭のはっきりした冷めた表情を見せる鷹司彰の顔に、柔らかな面影が宿っていた。金縁の眼鏡の奥、普段は澄んで厳しい瞳には、今や優しい情念があふれている。

この半年間、二人がこのように過ごしてきたのだろう。遠藤航はもう見慣れた様子だった。

だが美月にとって、鷹司彰がこれほど柔らかい表情を見せるのは初めての光景だ。思わず呼吸が詰まり、身動きが取れなくなった。

美月は退職届を無理やり遠藤航の手に押しつけ、声を潜めながらも断固とした口調で、必ず鷹司彰へ届けるよう頼んだ。どのような結末になろうと、自分は二度とこのビルに足を踏み入れない、とはっきり告げた。

遠藤は掌に収まった封筒を眺め、次に遠方で顔色を険しく曇らせた鷹司彰の姿に目を移した。瞳に無力さと同情の色が過ぎり、最終的に何も言わず書類を受け取った。

美月はもう彰の方を一瞥もせず、背筋を凛と伸ばし、ちょうど開いたエレベーターへと歩み入った。足取りを乱すことなく穏やかに進み、地下駐車場へ向かうボタンを押した。

エレベーターの扉がゆっくりと閉まり、駆け寄ろうとした彰の視線を遮り、同時に佐野佳世の隠しきれない得意げな笑みも完全に隔てた。

箱が地下へと降下していくにつれ、ずっと緊張状態だった肩の力がすっかり抜け落ちた。美月はエレベーターの内壁に身をもたれ、長い間堪え続けてきた涙が一粒、ついに手の甲に零れ落ちた。

彼女はこの瞬間、東京を離れる決意を完全に固めた。

続けて視聴する!
物語はいよいよ佳境へ!アプリに切り替えて続きを読む
全エピソードをロック解除
全編を読むには、moboreaderで「95RTJ」を検索してください。
コードをコピーし、Moboreaderアプリで検索して続きをお楽しみください。
95RTJ
コピー
公式サイトを開く

おすすめの作品

離婚後の私、無敵です。 の小説カバー
8.1
結婚記念日という特別な日に、御曹司の夫・尾崎時生から突きつけられたのは、初恋の女性を選ぶというあまりにも身勝手な裏切りだった。長年の献身を無下にする彼に対し、西森千夏は未練を断ち切り、即座に離婚届を叩きつけて去る。時生は「どうせすぐに戻ってくる」と高を括っていたが、彼女が選んだ道は芸能界への華々しい復帰だった。かつての「か弱い妻」から一転、圧倒的なカリスマ性で無双する千夏は、時生の愛人の本性を暴き、社会的に葬り去っていく。一方、千夏の前には世界的スターやメディア王、大富豪の継承者といった最高峰の男たちが現れ、彼女を巡って熱狂的な求愛を繰り広げる。立場は完全に逆転し、千夏の成功を目の当たりにした時生は、焦燥感からなりふり構わず復縁を迫る。しかし、かつての冷遇を忘れない彼女は、すがりつく元夫を一瞥だにせず冷酷に告げる。「一度捨てた過去を二度と拾うことはない」と。これは、裏切りを糧に覚醒した女性が、かつての夫を絶望の淵へと突き落とし、真の愛と栄光を掴み取る痛快な愛憎劇である。
三年間の冷酷な結婚生活:今更夫が後悔してももう遅い の小説カバー
8.5
結婚してから三年間、夫の健斗は「神聖な関係」という言葉を盾に私に一度も触れようとしませんでした。私はその言葉を信じ、献身的に五十嵐家を支えてきましたが、義兄の死をきっかけに現実は崩れ去ります。夫は密かに想いを寄せていた義兄の妻・彩音とその息子を自宅へ招き入れ、彼らを優先して私を冷酷に突き放したのです。彩音の息子が私の両親の遺影を損壊しても、夫は彼らを庇い、私を暴力的に責め立てました。さらに、一族にとって重要な鷹司家の晩餐会を欠席して彩音のもとへ向かい、私は極寒の吹雪の中に置き去りにされます。凍死寸前の絶望の中で救いの手を差し伸べたのは、財界で恐れられる鷹司家の当主でした。この三年間が、夫の不貞を隠すための茶番に過ぎなかったと悟った私は、復讐を誓います。巧妙な手段で夫に離婚届を書かせると、私はすべてを捨てて家を出ました。奪われた時間と尊厳の代償を、千倍にして彼らに突きつけるために。愛と裏切りの果てに、地獄を見た女の逆襲が今始まります。
夫が私を口説いている。 の小説カバー
9.3
結婚から二年の月日が流れたある夜、夫婦は初めて肌を重ねた。しかし、彼女が相手を夫だと認識していた一方で、夫は目の前の女性が自身の妻であることにすら気づいていなかった。冷徹に離婚を告げる夫に対し、彼女も未練を残すことなくその提案を受け入れる。だが、二人の運命はここから予想もしない形で深く絡み合っていく。時が過ぎ、業界の権力者である彼が帰国すると、世間はある噂で持ち切りとなった。彼が一人の有能な女性弁護士に執着しているというのだ。美貌と知性を兼ね備え、多くの男を虜にする彼女を彼は強引に追い詰める。しかし、彼女は指先で彼の胸を制し、「私には夫がおりますから」と冷ややかに告げた。絶句する彼をよそに、離婚が成立した後、彼女は不敵な笑みを浮かべて言い放つ。「私の元夫の名前を知りたい?奇遇ね、あなたと同じ名前なのよ」と。かつての無関心が執着へと変わり、皮肉な再会が二人の関係を泥沼の愛憎劇へと塗り替えていく。
私のセカンドチャンス、彼の後悔 の小説カバー
9.0
父の遺言により、二十二歳の誕生日に桐嶋家の男と結婚し、次期CEOを指名する運命を背負った神楽坂詩織。彼女は長年、桐嶋玲への一途な恋心を抱き続けていたが、誕生日の夜にその純愛は無残に打ち砕かれる。玲は衆人環視の中で、詩織に贈るはずのブレスレットを彼女の義妹である結菜に手渡し、愛を弄んだのだ。彼は詩織を罵倒し、不貞を容認するよう傲慢に迫る。前世の詩織は、その残酷な仕打ちに耐えながらも彼との結婚を選んだが、待っていたのは地獄のような日々だった。玲からの暴力や裏切りに遭い、最後は彼と結菜が睦まじく過ごす傍らで、毒を盛られ孤独な死を遂げる。しかし、絶望の中で息絶えたはずの詩織が再び目を開けると、そこは運命の分岐点となったあのパーティーの会場だった。玲が結菜に贈り物を渡そうとする数秒前の光景が目の前に広がる。忌まわしい記憶を鮮明に刻んだ彼女は、二度と同じ過ちを繰り返さないと決意する。自分を破滅させた男をCEOに指名することなど、もうあり得ない。今度こそ、自らの手で新たな人生を切り拓くための復讐が幕を開ける。
懐妊逃亡〜その種、国家最高権力につき〜 の小説カバー
7.8
予期せぬ不慮の事故が、彼女の運命を狂わせた。素性も知らぬ男と過ごした、決して明かすことのできない一夜。その場に残されていたのは、一枚の純金カードだった。しかし、それは対価などではなく、彼女を「泥棒」へと仕立て上げる罠であり、自由を奪う軟禁生活の幕開けとなる。投獄の恐怖と、法の裁きに絶望する彼女の前に現れたのは、あの一夜を共にした当の男だった。男は「妊娠」という事実を盾に取り、彼女の人生へと傲慢に踏み込んでくる。抗う術のない強引な支配に翻弄されるなか、彼女は衝撃の事実に直面する。目の前の男こそが、国家の最高権力者として万人の頂点に君臨する、現職の大統領だったのだ。逃げ場のない状況で、一国の主との歪な関係が加速していく。予測不能な事態に巻き込まれた彼女の行く末は、果たしてどこへ向かうのか。最高権力者の執着と、秘められた命を巡る物語が今、静かに動き出す。
社長、奥様がまた離婚届を取りに行かれました の小説カバー
8.3
南城を支配する冷徹な権力者との結婚。それは、誰もが「政略結婚の犠牲」と蔑む愛なき契約だった。ついに家を追われることになった彼女の前に現れたのは、身重の姿をした彼の「初恋の女性」だ。名門界隈の人々は、無惨に捨てられた正妻の末路を嘲笑おうと、固唾を飲んで事態を注視していた。しかし、悲劇のヒロインを演じるどころか、彼女は不敵な笑みを浮かべて言い放つ。離婚届を求めて役所に日参しているのは自分であり、誰よりもこの縁が切れることを切望しているのは私なのだと。世間はそれを強がりだと決めつけ、夫である彼こそが離婚を待ち望んでいるはずだと信じて疑わなかった。だが、その予想は彼自身の手によって無慈悲に打ち砕かれる。彼がSNSに投稿した「離婚の事実は一切ない。デマには法的措置を講じる」という断固たる声明は、瞬く間に世界を震撼させた。離縁を望む妻と、それを頑なに拒む夫。冷酷な支配者が執着の果てに求めている真意とは一体何なのか。予測不能な愛の攻防が今、幕を開ける。