
もはやエイプリル・メイヨーではない:令嬢の帰還
章 2
真野 卯月 POV:
翌朝、私は電話をかけた。
その番号を最後に口にしてから七年が経っていたけれど、指は昨日のことのようにその配列を覚えていた。
ワンコールで、凛とした聞き覚えのある声が応えた。
「白銀家でございます」
「私よ」
私の声はわずかにひび割れていた。
驚きに満ちた沈黙。そして、詰まったような嗚咽。
「卯月お嬢様?ああ、神様、本当に卯月お嬢様なのですか?」
父の執事長、私を育ててくれたも同然の女性と話しながら、涙が頬を伝った。
大輝のこと、父の孫のことを話すと、電話の向こうの沈黙は深く、言葉にならない感情で重くなった。
「旦那様が、いつお帰りになるのかと」
彼女は涙声で言った。
「お孫様にお会いになりたいと。ジェット機でもヘリコプターでも、必要なものは何でも手配するとおっしゃっています。ただ、お帰りください、卯月様。どうか」
家。
その言葉は異国の響きを持っていた。何年も訪れていない遠い国。
私はベッドで眠る大輝を見た。
瑛士が彫ってくれた小さな木彫りの狼を握りしめている。
彼は寝言を言っていた。
「パパ、約束した…大きなパーティー…」
彼の五歳の誕生日は二日後だった。
吐き気の波が私を襲う。
彼には、この場所を去る時に、壊れた約束という深い傷ではなく、幸せな思い出を持っていてほしかった。
最後の一日だけでも、完璧な日を過ごさせてあげたかった。
それが私の過ちだった。
希望とは、危険なものだ。
二日後の夜明け、ドアを鋭く叩く音は、誕生日のサプライズではなかった。
それは瑛士の母、芳賀康子(はが やすこ)だった。
威圧的な二人の男を従えている。
彼女は一度も私を好んだことがなかった。
彼女にとって、私は名もなき、親もなき野良犬で、彼女の尊い血筋を汚した存在だった。
彼女は大輝を、まるで一族の汚点であるかのように、薄いベールで覆った嫌悪の目で見つめた。
「着替えなさい」
彼女は冬の朝のように冷たい声で命じた。
「二人とも。瑛士が本邸で重要な発表をする。あなたたちも出席する義務がある」
大輝の目が輝いた。
「パパ、いるの?僕を待ってるの?」
私は答えることができなかった。
不安の塊が胃の中で固く締まっていく。
これが誕生日のためではないことはわかっていた。
これは、処刑だ。
芳賀家の本邸は広大でけばけばしく、成金が必死に旧家のふりをしようとしている記念碑のようだった。
私たちが大広間に通されると、非難がましい顔の海が一斉にこちらを向いた。
空気は百合の香りと裁きで満ちていた。
そして、一段高くなった壇上には、瑛士が立っていた。
彼は私を見ていなかった。
彼の目は、隣に立つ高坂クロエに注がれていた。
彼女は優雅に自分のお腹に手を当てている。
独りよがりで、捕食者のような輝きを放っていた。
康子が前に進み出た。その声は権威に満ちて響き渡る。
「皆様にお集まりいただいたのは、喜ばしい知らせを分かち合うためです。クロエさんがご懐妊されました。芳賀家の財産を継ぐ、世継ぎです」
儀礼的な拍手の波が部屋に広がった。
「この子こそが」
康子は続けた。その視線は群衆をなぞり、そして凍るような正確さで私に突き刺さった。
「HAGAイノベーションズの唯一の正統な後継者となります。瑛士とクロエさんは来月、正式に結婚式を挙げます」
私は瑛士を見つめた。かつて愛した男の面影を必死に探した。
彼は私と目を合わせようとしない。
ただそこに立っているだけだった。ハンサムな彫像のように。
母親が私と私たちの息子を彼の人生から組織的に消し去っていく間、彼はクロエのお腹の上に置かれた彼女の手に、そっと自分の手を重ねた。
「父親になるのが待ちきれないよ」
彼は、皆に聞こえるように大きな声で言った。
小さな手が、震えながら私の手を握った。
私は大輝を見下ろした。
彼の顔は青白く、目は混乱と、私の心を粉々にするほど深い痛みで見開かれていた。
「ママ」
彼はかろうじて聞こえる声で囁いた。
「パパ、父親になるのが待ちきれないって…あの女の人が赤ちゃんを産むなら…じゃあ、僕はなに?」
その問いは、部屋を沈黙させる devastating な告発として、空中に漂った。
瑛士の従兄弟たちが数人、くすくすと笑った。
「見ろよ、あの私生児」
そのうちの一人が嘲笑った。
「本当にここに自分の居場所があると思ってるのかね」
「不義の子なんて、うちの一族の評判に傷がつくわ」
別の者が付け加えた。
「跡継ぎになんてなれるわけがない」
康子の笑みは勝利に満ち、残酷だった。
「ご心配なく。解決策はあります。スキャンダルを避けるため、この子は家の養子として、情け深く引き取ってやりましょう。そして、この子の乳母については」
彼女はそう言って、私を射抜くような目で見つめた。
「メイドとして、引き続き我が家に仕えさせても構いません」
その時、数週間前に盗み聞きした会話を思い出した。
康子の鋭く、陰謀めいた声がクロエに告げていた。
「あなたは純粋な血筋の方ですもの、お嬢様。瑛士にちゃんとした跡継ぎを産んであげなければ」
すべてが嘘だったのだ。
私たちを捨てるための、周到に練られた計画。
大輝が泣き始めた。小さな顔を伝う、声にならない涙。
「僕は孤児じゃない」
彼は震えながら囁いた。
「僕は違う」
瑛士がようやく身じろぎした。
彼は半歩前に出て、何かを言おうと口を開いたが、クロエが彼の腕を制するように手を置いた。
彼は彼女を見て、そして私たちを見た。その顎はためらいで固く引き締められていた。
彼は何も言わなかった。
彼は彼女を選んだ。野心を選んだのだ。
それで終わりだった。
希望の最後のきらめきが消え、冷たく硬い怒りだけが残った。
私は一歩前に出て、大輝を背後にかばった。
「この子はあなた方とは何の関係もありません」
私の声ははっきりと、揺るぎなく響いた。
「この子は、芳賀家の人間ではありません」
私は膝をつき、大輝の顔を両手で包み込んだ。彼の涙が私の指を濡らす。
「大輝」
私自身の声も震えていた。
「よく聞いて。これからは、あの人はあなたの父親じゃない。わかる?二度とあの人をそう呼んではだめ」
瑛士の頭がはね上がった。その目は衝撃に見開かれている。
彼はようやく私を、本当に私を見た。その顔には必死の、問いかけるような表情が浮かんでいた。
だが、かつてそこに見た愛は消え、虚無に取って代わられていた。
私はもう彼に対して何も感じなかった。侮蔑以外は。
大輝はしゃくりあげた。五歳児の世界が崩壊する、胸が張り裂けるような音だった。
私が立ち去ろうとすると、クロエが私の前に立ちはだかった。その笑みは毒だった。
「そんなに急がないで。指輪の件があるわ」
彼女は私の指にはめられたシンプルなサファイアの指輪を指差した。
瑛士の祖母の形見だった。
大輝が生まれた日に彼がくれたものだ。
本当の結婚指輪までのつなぎだと、私が彼の真の伴侶であり、唯一の存在である証だと約束して。
「瑛士」
私は危険なほど静かな声で尋ねた。
「あなたもこれに同意したの?」
彼は身をすくめ、目をそらした。
「それは…ただの家の家宝なんだ、卯月。家族の元にあるべきものだ」
もちろん。すべては家族のため。彼らの家族。
ゆっくりと、意図的に、私は指から指輪を抜いた。
肌に冷たく感じた。
私はそれをクロエに差し出し、完璧に手入れされた彼女の掌に落とした。
「おめでとうございます」
私は言った。唇は笑みの形に歪んでいたが、目は笑っていなかった。
「あなたが望むすべての幸せが、その指輪と共にあらんことを」
瑛士は信じられないという表情で私を見つめていた。
私は振り返り、泣きじゃくる大輝を腕に抱き上げた。
振り返らなかった。
彼は私が行くのを見ていた。口をわずかに開け、まるで今になって足元の地面が崩れたことに気づいたかのように。
彼は手遅れだった。
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