
身代わりの私、偽りの愛に捧げた三年
章 3
大森心穂 POV:
翌日, 私が退院する日, 礼司さんは盛大なサプライズを用意していた.
「心穂, 退院おめでとう! 君が元気になってくれて, 本当に嬉しいよ. 」
彼は, 満面の笑みで私を迎えた.
大きな花束, 豪華なプレゼント, そして, 私を祝うためのパーティー.
いつものことだった.
私が何か苦しい思いをする度に, 礼司さんはこうして, 高価なプレゼントや甘い言葉で, 私を繋ぎ止めてきたのだ.
だが, 私の心は, もう何も感じなかった.
空虚.
それだけが, 私の心を占めていた.
「礼司さん, ごめんなさい. 今日は, 少し個人的な用事があって…」
私は, 努めて平静を装って言った.
「パーティーには, 参加できません. 」
礼司さんの笑顔が, 一瞬にして凍りつく.
「どうしたんだい, 心穂? 何かあったのか? 最近, 君は少し変だよ. 」
彼の言葉には, 心配の色が滲んでいた.
だが, その心配の裏に, 私への支配欲が隠されていることを, 私は知っていた.
私は, 彼の手を避けるように, 一歩後ずさりした.
「いいえ, 何も. ただ, 少し, 一人になりたいだけです. 」
その時, ドアが開いた.
「礼司様! 」
甘く, 可愛らしい声が響いた.
朝倉琴栄.
彼女の姿が, そこに立っていた.
私と, 瓜二つの容姿.
彼女は, 私を見ると, にこやかに微笑んだ.
「大森さん, 退院おめでとうございます. 礼司様から, あなたのお話は聞いていましたわ. 」
琴栄の瞳は, 私を値踏みするように見つめている.
私は, 体が硬直するのを感じた.
彼女は, あの「ショー」のすべての真相を知っているのだろうか.
私が, 彼女の身代わりを務めていたことを.
もし, 知っていたとしたら, 彼女は私に何を求めているのだろう.
礼司さんは, 琴栄を見ると, 私のことなど忘れたかのように, 彼女に駆け寄った.
「琴栄! どうしてここに? まだ外は冷えるから, 風邪を引いてしまうよ. 」
礼司さんは, 琴栄を抱き寄せ, 私の腕を掴んだ.
「心穂も, 早く車に乗って. パーティー会場へ行こう. 」
彼の腕が, 私を強引に車へと押し込んだ.
車の中, 私はまるで余計な荷物のように感じた.
礼司さんは, 琴栄と楽しそうに話している.
「今回のパーティーは, 琴栄の好きなテイストで飾り付けたんだ. 気に入ってくれるといいな. 」
琴栄は, 嬉しそうに礼司さんの腕に体を寄せた.
「まあ, 礼司様, 本当に嬉しいわ. 私, ずっとこの日が来ることを夢見ていましたの. 」
二人の会話から, 今日のパーティーが琴栄の誕生日を祝うものだと知った.
パーティー会場は, 豪華絢爛だった.
琴栄の好きな花が飾られ, 彼女の好きな音楽が流れている.
礼司さんの秘書たちが, 私に会釈をする.
彼らは, 口々に琴栄の誕生日を祝い, 礼司さんをからかっていた.
「礼司様, 琴栄様のために, ずいぶん奮発されましたね! 」
「これで, 琴栄様も大満足でしょう! 」
その時, 彼らは私に気づいた.
彼らの顔から, 笑顔が消える.
気まずい沈黙が, 会場に漂った.
琴栄は, そんな空気を感じ取ると, にこやかに私の手を引いた.
「大森さんも, さあ, こちらへ. 皆さん, 私と礼司様をからかうのがお好きなのよ. 」
彼女は, そう言って, 私を座席へと促した.
私は, にこやかに微笑んだまま, 席に座った.
「お気遣い, ありがとうございます. 」
私の心の中では, 嘲笑が渦巻いていた.
彼らにとって, 私はただの「身代わり」.
私が, この場にいることすら, 彼らにとっては迷惑なのだろう.
「大森さん, 礼司様のために, ずいぶんご苦労されたそうですね. 」
琴栄の声が, 突然, 私の耳元で囁かれた.
「礼司様から, 色々伺いましたわ. 大森さんが, あんなに大変な思いをして, 礼司様を守ってくださったなんて. 」
彼女の言葉には, 感嘆と, そして, どこか冷たい響きが含まれていた.
「私も, 礼司様のために, あんな風に尽くせたら, どんなに幸せかしら. 」
琴栄は, そう言って, わざとらしくため息をついた.
礼司さんは, 満足そうに頷いた.
「心穂には, 本当に感謝しているんだ. あの時, 君が身を挺してくれなかったら, 僕のキャリアは危なかった. 」
彼は, そう言って, 当時のスキャンダルの一部始終を話し始めた.
私の苦しみは, 彼にとっては, ただの「実績」に過ぎない.
琴栄は, 目を輝かせた.
「まあ, 大森さん, 本当に素晴らしいわ! 私も, あんな素敵な時計が欲しいですわ. 礼司様からいただいた, あの時計よ. 」
彼女の言葉に, 私は顔色を変えた.
それは, 私が彼のために, 危険な任務を遂行した時, 彼が「記念だ」と言って私に贈った, 唯一の贈り物だった.
礼司さんは, あっさりと頷いた.
「ああ, あの時計かい? 琴栄が気に入るなら, 僕が持っているものをあげよう. いや, それ以上のものを. 」
礼司さんは, すぐに秘書に指示を出した.
秘書は, 慌てて部屋を出て行った.
そして, 数分後, 秘書が持ってきたのは, あの時計よりもずっと高価な, 最新モデルの時計だった.
礼司さんは, その時計を琴栄の腕に嵌めてやった.
「どうだい? 琴栄に似合っているよ. 」
琴栄は, 嬉しそうに礼司さんに抱きついた.
私の心臓が, 冷たく凍りつく.
その時, 礼司さんの秘書が, 彼の耳元で何かを囁いた.
礼司さんの顔色が, 一瞬にして変わる.
彼は, 眉をひそめ, 何かを考えるように腕を組んだ.
そして, 小さく頷いた.
「心穂, 少し付き合ってくれないか. 」
礼司さんは, 私の手を掴んだ.
その手は, 冷たかった.
私は, 彼の言葉に, 何も答えることができなかった.
おすすめの作品





