フォローする
共有
ハニー、俺の隣に戻っておいで  の小説カバー

ハニー、俺の隣に戻っておいで

二年前、ニーナは面識のない男性と、ある特別な条件を交わした契約結婚に踏み切った。その契約には、他者との不貞を固く禁じる項目が含まれていた。しかしある夜、運命の悪戯か、彼女は訪ねるべき部屋を間違えてしまう。そこで出会った見知らぬ男性に、守り続けてきた純潔を奪われるという予期せぬ事態が起きてしまった。契約違反によって生じる高額な慰謝料の支払いに追い詰められたニーナは、自ら離婚を決意し、関係を清算するための協議書を作成する。意を決して、それまで一度も顔を合わせたことのなかった夫のもとを訪れた彼女を待っていたのは、あまりにも衝撃的な真実だった。目の前に現れた「夫」の正体は、あの一夜を共にしたあの時の男性だったのである。逃れられない契約と、一夜の過ちから始まった複雑な愛の行方はどこへ向かうのか。億万長者の夫と、何も知らずに飛び込んだ妻が織りなす、波乱に満ちた現代ロマンスが幕を開ける。二人の再会が、隠されていた真実を次々と明らかにしていき、静かだった結婚生活は激動の渦へと巻き込まれていくことになる。
共有

1

金曜日、夜八時。

フォーシーズンズ・ガーデンホテルではパーティーが開かれていた。 会場は豪華なだけでなく楽しそうな雰囲気に包まれ、いろいろな人が乾杯しつつおしゃべりに興じていた。

ニーナ・ルーは目を上げて看板を一瞥した。 「これね、きっと」

しかし、彼女は思わず眉をひそめてためらった。 招待なしでこんな場所に入るのは容易ではないからだ。 どうすればいい。 ニーナが迷っていると、目の前に華奢な人影がゆらりと現れた。 ニーナ・ルーのクラスメイト、親友のイザベラ・チャンだ。

「イザベラ」ニーナは手を振って挨拶した。 まるで驚かせたかのようにイザベラ・チャンは振り返り、それがニーナだとわかると目をぱちくりさせた。 「何でこんな所にいるの?」

彼女はニーナに歩み寄ったが、以前プレゼントしたフェロモン香水の匂いがしなかったので眉をひそめた。 「どうして香水をつけて来なかったの?」

「大至急やらなきゃいけないことがあって、 香水なんかつけている場合じゃないの」 実を言うと、ニーナ・ルーは普段から香水をつける習慣がなかった。 彼女は人混みをじっと見つめた。 「ねえ、中に連れて行ってくれない?」

「もちろん」 イザベラは無邪気に微笑んだが、彼女の目はいたずらっぽく輝いていた。

そしてポケットから香水を取り出すと、ニーナに吹きかけ始めた。

ニーナはわざと鼻をつまんで咳払いをすると、 「私、香水アレルギーなの」と手で扇ぎながら言い訳した。

イザベラはニーナを、有無を言わせずホテルに引っ張ってエレベーターに押し込んだ。

ニーナの姿が見えなくなるや、イザベラの唇は意地悪く微笑む。

今日は運よく、彼女もフェロモン香水を持って来ていたのだ。 その香水はまさにお誂え向きの発明だった。 どんなにうぶで無垢な女性だってその香水をつけると挑発的になるし、 どんなに禁欲的な男だってその香りを嗅ぐと豹変してしまう。

その日のパーティーには何百人もの男がいた。 イザベラ・チャンはふんっと笑い、 「頑張って、ニーナ。 あんまり不細工な男に引っかからないといいわね」

最高級のVIPルームが2つあるだけの二十階に到着すると、 ニーナは左の部屋をノックした。すると魅力的な男性が、あだっぽい女性を腕に抱えてドアを開けた。

ニーナはつんのめって、眉をひそめた。

どうやらドアを間違えたのだ。

決まり悪そうに目を逸らすと、 「ごめんなさい、 どうぞ、お続けになって」

彼女はくるりと背を向けたが、男が呼び止めた。 「ちょっと待てよ、 ジョンを探しに来たんだろ?」

男はニーナをじろじろ見つめた。 彼女は見たところ純粋無垢そうだ。 ジョン・シーはかつて何度も女たちを捨ててきたが、今回ばかりは違うかもしれない。

ジェームズ・シーはついさっき電話でジョンにサプライズがあると伝えたばかりだったが、 まさか、そんなすぐに女性が届けられるとは思っていなかった。

「ジョンは中だよ」 ニーナがどういうことか理解する前に、男は彼女を部屋に押し込んでドアを閉めた。

彼女はスイートルームにつんのめると、ほとんど床に倒れ込んだ。 背後でドアがぴしゃりと閉じられるとニーナは不機嫌な眼差しで部屋を見回した。

足音が近づいてくるのが聞こえるとぱっと振り返った。 背の高いハンサムな男がニーナの前に立ち塞がっている。 ニーナはこれまでかっこいい男をたくさん見てきたが、いま目の前にいる男とは比べものにならなかった。

彼の上半身はしっかり引き締まり、 色白な肌とがっちりした筋肉は、水滴が腹筋を伝って流れ落ちると一層魅力的に見えた。 ニーナは固唾を呑んだ。

「堪能したかい?」 男が冷たくそう言ったので、ニーナは現実に引き戻された。 彼女は自分の仕事を思い出し、頭を切り替えて堂々と謝った。「ごめんなさい。 部屋を間違えたみたいです」

この世界に、 部屋を間違える人間は愚か者か人たらしの二種類しかいない。 男は彼女が後者だと思った。

ジョン・シーはニーナをじっと見つめた。 美しい顔、白い肌、そして高い鼻。

磁器のような肌はピンク色に淡く染まり、無垢に見開かれた目がきらきら輝いていた。 ニーナにはジョンを惹きつける何かがあり、

彼は思わず口元を緩めた。

「間違ってないぞ」 ジェームズが彼に言っていたサプライズとは、つまりこの女のことに違いない。

ジョン・シーはこの種の出来事に慣れていた。 けれども、ジェームズが以前に送ってきた女性たちはジョンにことごとく振られていた。 実際のところ、ジョンはこういう女たちに飽き飽きしていたので見向きもしなかったのだ。

しかし、目の前の女性が二十歳くらいでジェームズと同世代なのがわかると、とりあえず気を遣ってやることにした。

「いつからやっているんだい?」 ジョンの口調は、むしろ、甥のジェームズを叱っているようだった。

ニーナは困った表情を浮かべて眉をひそめ、 「初めてです」と正直に答えた。

これまで彼女は、教官室で交わされる議論を通してしか事件を担当したことがなかったので、 捜査のために現場に出たのはこれが初めてだったのだ。

聞くところによると、管区内で自殺が二件あったが捜査打ち切り間近らしい。 しかし、ニーナはそれが単なる自殺ではないと感じていた。 実を言うと、彼女は二つの事件の繋がりを探りにきたのだ。 ニーナは頭のどこかで、二人の犠牲者に何か関係がある気がしていたので、彼らを結びつけるための手がかりを見つけようとしていた。

彼女は今週から、自分の推理を立証する手がかりを求め、近辺のホテルをすでに何軒かまわっていた。

「初めてか。 それで、理論もある?」 そういってジョンは腰を下ろすと、

ワイングラスを手に取って一口飲もうとした。

そのときニーナはたまたまジョンの方に視線を向けただけだったが、そのまま目を離すことができなくなった。 「私は二年も理論を勉強したのよ」

「ああそう、 それで?」 ジョンは冗談でも聞いたかのように鼻であしらった。

「そんな仕事でも理論とやらを教えてくれるのかい? なんのために? 男で実践するためかな?」

「馬鹿にしないで!」と彼女は言い返した。 ジョンの声を聞いたとき、ニーナはくるりと向きを変えて出て行くところだった。

「おまえ、自分が尊敬に値するとでも思ってるのか? いくらもらったんだ?」 ジョンはタバコに火をつけ煙の雲を吹き出した。 女性がそのような業界に飛び込む理由がお金以外にあるとは、彼には到底思えなかった。

ジョンは胸の前で腕組みした。

「もらってないわ」とニーナはきっぱり答えた。

もらっていないって?

彼女はジョンが今まで目にした最も美しい女性だった。

しかも、このサークルでは女性は数万ドルの値がつくこともある。

ニーナが立ち去ろうとしているのを見て、ジョンは眉をひそめた。 「行っていいなんて言ったか?

彼が葉巻をはじくと、火の粉がぱっと明るく燃え上がった。 ジョンの前では誰も勝手に行き来などできないのだ。

ニーナは怒りに震えて立ち止まった。 「あのね、私たちの仕事はお金が全てじゃないの。 特に今回は、大きな危険が伴っているわけ。 こんな密室、うまくやらないと人が死ぬのよ。 もう行かなくちゃ」

人が死ぬって?

ジョンは無意識に股ぐりを一瞥した。 俺はそんなにひどい男か?

そのとき、彼の反応を理解してニーナは目を見開いた。

この男は彼女の仕事を誤解しているのだ……

ニーナの頬は紅潮した。

「恥知らず!」 彼女は男を指差しながら、 怒りにまかせてそう言ったが、

ジョンは顔色一つ変えなかった。 彼がその夜の雇い主だというのに、そんな言い方があるだろうか?

おすすめの作品

暴君CEOに捧ぐ、復讐の蜜月 の小説カバー
9.2
名家の私生児として不遇な環境で育った彼女は、本家の令嬢と瓜二つの容姿を持っていた。その容姿ゆえに、家族から理不尽な脅迫を受け、令嬢の身代わりとしてある財閥総裁と一夜を共にし、彼の子を身ごもるという過酷な役割を強要される。愛する者の安全を守るため、彼女は断腸の思いでその屈辱的な要求を受け入れる。しかし、彼女の心には自分を道具として扱う冷酷な一家への激しい復讐心が燃えていた。総裁との夜を重ねる中で、彼女は持ち前の魅力で彼を深く翻弄し、その寵愛を確固たる武器へと変えていく。周到に練り上げた計画のもと、一歩ずつ着実に一家を破滅へと追い詰めていく彼女。一方、総裁もまた、献身的な妻が昼と夜で見せる全く異なる顔に、違和感と底知れぬ興味を抱き始めていた。偽りの関係から始まった二人の駆け引きは、復讐の炎を孕みながら加速していく。愛と憎しみが交錯する中、最後に彼女が手にするのは破滅か、それとも真実の愛か。現代を舞台に描かれる、孤独なヒロインによる華麗なる復讐劇が幕を開ける。
氷室様、あなたが狂おしく愛したお宝は生まれ変わった。 の小説カバー
9.2
前世、白川知依は鷹澤蓮矢という男を10年にわたり一途に愛し続け、自らの全てを犠牲にして尽くしてきた。しかし、5年間の結婚生活の末に彼女を待っていたのは、夫と愛人による残酷な裏切りと非業の死だった。悲劇を乗り越え現世に転生した知依は、もはやかつての愚かな女ではない。彼女は冷徹に復讐を開始し、偽りの愛人を追い詰めると同時に、執着していたクズ男に離婚届を叩きつけて決別を宣言する。周囲は彼女がいずれ泣きついてくると高をくくっていたが、再臨した知依の正体は、数千億の遺産を継承する真のトップ令嬢だった。華麗なる変貌を遂げた彼女を、街中の御曹司たちが色めき立って追いかけ始める。さらに、冷酷非道な帝王として畏怖される氷室グループの総帥・氷室景吾までもが、彼女を独占せんと強引に距離を詰めてきた。かつての夫である蓮矢は、失った宝の大きさに気づき地面を這って許しを請うが、知依の隣にはすでに彼を凌駕する至高の男がいた。過去を捨てた令嬢が、真の愛と勝利を掴み取る逆転劇が幕を開ける。
禁欲御曹司の執愛、もう遅い の小説カバー
9.1
「私を満足させれば、救いの手を差し伸べよう」――卑劣な罠によって破産し、富豪の令嬢から一夜にして男の慰みものへと転落したヒロイン。絶望の淵にいた彼女を救い出したのは、圧倒的な権力と美貌を兼ね備えた冷徹な御曹司だった。彼は彼女に惜しみない寵愛を注ぎ、あらゆる困難から守り抜く。しかし、その献身的な愛の裏側に隠された残酷な真実を、彼女はまだ知らなかった。すべては彼が仕組んだ緻密な計画であり、自分は単なる「利益を生むための駒」に過ぎなかったのだ。裏切りを知り、心を引き裂かれた彼女は彼のもとを去る。月日が流れ、不屈の精神で華麗なる復活を遂げた彼女の前には、多くの求婚者が列をなしていた。かつて自分だけに従順だった女が、他人に微笑みかける姿を目の当たりにし、男は猛烈な嫉妬に駆られる。「どうすれば再び俺の腕に戻る?」と執着を露わに迫る彼に対し、彼女は冷ややかな拒絶を突きつけた。「残念だけど、私はもう別の人の妻なの」
愛は復讐のあとで の小説カバー
8.4
信頼していた相手に裏切られ、身ごもったまま貧民街へと追いやられた主人公。絶望の淵に立たされ、すべてを失いかけた彼女の前に現れたのは、凍りついた心を溶かすほど情熱的な愛を持つ一人の男性でした。彼の献身的な支えによって、彼女はかつての夫に屈することなく、再び自分の人生を輝かせるための歩みを始めます。世間の厳しい視線や過去の傷跡をものともせず、ただひたすらに彼女を甘やかし、守り抜こうとする彼。その深い慈しみに触れる中で、彼女は本当の愛の意味を知ることになります。かつての悲劇を乗り越え、華麗なる変貌を遂げた彼女が手にするのは、復讐の先にある新たな幸せか、それとも揺るぎない絆か。これは、一度はどん底に突き落とされた女性が、一途な愛を捧げる男性と共に、傷ついた魂を癒やし再生していく姿を描いた現代ロマンスです。二人の間に芽生えるのは、どんな困難にも屈しない強固な愛の物語。過去を振り切り、最高の愛に包まれながら、彼女は今、二度目の人生の幕を開けます。
私のセカンドチャンス、彼の後悔 の小説カバー
9.0
父の遺言により、二十二歳の誕生日に桐嶋家の男と結婚し、次期CEOを指名する運命を背負った神楽坂詩織。彼女は長年、桐嶋玲への一途な恋心を抱き続けていたが、誕生日の夜にその純愛は無残に打ち砕かれる。玲は衆人環視の中で、詩織に贈るはずのブレスレットを彼女の義妹である結菜に手渡し、愛を弄んだのだ。彼は詩織を罵倒し、不貞を容認するよう傲慢に迫る。前世の詩織は、その残酷な仕打ちに耐えながらも彼との結婚を選んだが、待っていたのは地獄のような日々だった。玲からの暴力や裏切りに遭い、最後は彼と結菜が睦まじく過ごす傍らで、毒を盛られ孤独な死を遂げる。しかし、絶望の中で息絶えたはずの詩織が再び目を開けると、そこは運命の分岐点となったあのパーティーの会場だった。玲が結菜に贈り物を渡そうとする数秒前の光景が目の前に広がる。忌まわしい記憶を鮮明に刻んだ彼女は、二度と同じ過ちを繰り返さないと決意する。自分を破滅させた男をCEOに指名することなど、もうあり得ない。今度こそ、自らの手で新たな人生を切り拓くための復讐が幕を開ける。
籠の中の身重な鳥、冷酷な御曹司の甘い束縛 の小説カバー
9.5
秘書として、そして妻として二年間、三谷美月は冷徹な夫・鷹司彰のために尽くし続けてきた。しかし、彼が心に抱くのは初恋の女性・佐野佳世への想いだけであり、美月の献身が報われることはなかった。佳世の帰国を機に二人は離婚。その半年後、美月は予期せぬ妊娠に気づく。彼女は長年の片思いに終止符を打ち、お腹の子を守るために誰にも告げず遠くへ姿を消した。彰と佳世の幸福な知らせを耳にするたび、美月は静かに彼らの幸せを願っていた。ところが、平穏な日々は出産という人生の転機に一変する。佳世と再婚するはずだった彰が、突如として美月の産室の前に現れたのだ。彼は再び共に歩みたいと切実に訴えかける。美月は「この子はあなたとは無関係」と拒絶するが、彰は「たとえ誰の子であろうと、二度と離さない」と強引なまでの執着を見せる。一度は壊れたはずの絆が、赤ん坊の誕生をきっかけに歪んだ愛へと形を変え、美月を再び甘く冷酷な束縛の中へと引き戻していく。