フォローする
共有
婚約破棄された直後、世界一の大富豪に結婚届を出させられた の小説カバー

婚約破棄された直後、世界一の大富豪に結婚届を出させられた

松浦苑実は、長年にわたり秋葉健人に献身的な愛を捧げてきた。彼の好みに合わせてタトゥーを入れ、身を寄せる場所がない苦境も耐え忍んできたが、その思いは報われなかった。濡れ衣を着せられ周囲から孤立した際も、健人は助けるどころか冷酷に突き放し、幼なじみの女性に謝罪するよう彼女に強要したのである。あまりに無慈悲な仕打ちに、苑実の心はついに限界を迎えた。彼女は迷うことなく婚約を解消し、健人のもとを去る決断を下す。次に彼女が選んだ道は、千億もの資産を継承する大富豪、藤原晴樹との電撃結婚だった。二人の結婚届受理証明書がSNSで拡散され世間を騒がせる中、余裕を失った健人は「復讐のために藤原家の権力を利用しているだけだ」と晴樹を挑発する。しかし、晴樹は愛おしそうに苑実を抱き寄せると、「それがどうした。俺には彼女を支えるための金も権力も十分にある」と冷ややかに言い放つのだった。どん底に突き落とされた令嬢が、世界屈指の富豪の寵愛を受けて新たな人生を歩み出す、逆転のロマンスが幕を開ける。
共有

2

第2章 取引 電話の向こう、黒衣の男は気品に満ち、その顔は彫刻のように端正だった。

その深い瞳に、今はわずかな驚きの色が浮かんでいる。

松浦苑実はしばらく待っても返事がなく、思わず口を開いた。 「失礼しました。 今の話はなかったことに……」

「有効だ」

彼女の言葉が終わる前に、男の低く落ち着いた声が響いた。

今度は、苑実が驚く番だった。

正直なところ、口に出してから少し後悔していた。

秋葉健人との婚約を解消するのはいい。

だが、藤原晴樹と結婚するというのは、火遊びに等しい。

暗闇の中、苑実の思考は一年前へと遡った。

あの日も深夜だった。 彼女はいつものように病院を後にしたが、城西の路地で瀕死の晴樹に出くわした。

助けた時、苑実は彼の身分を知らなかった。 だから、彼が礼をしたいと申し出た時、彼女は冗談で「何でもいいの?」と尋ねた。

男が頷くと、彼女は「私を嫁にもらってくれる?」と口にした。

当時の苑実は、ただの気まぐれだった。 だが、晴樹はまさかの頷きを見せた。

その時、苑実はすでに健人と婚約していた。 それは母が亡くなる前に決めたことだった。 彼女は慌てて、冗談だったと弁解した。

晴樹は彼女に婚約者がいることを知ると、それ以上は何も言わず、ただ一言だけ告げた。 「もし君がいつか結婚したくなくなったら、俺と結婚すればいい。 この条件の有効期限は、二年だ」

そう、有効期限はまだ切れていない!

電話がどうやって切れたのか、苑実には分からなかった。

ただ、男の「一ヶ月後に結婚の準備をしろ」という言葉だけが、耳に残っていた。

誰と結婚するのか?

当然、健人ではない。

苑実は暗闇の中、ベッドに横になった。 全身の疲労にもかかわらず、なかなか眠りにつけない。 ようやく眠りに落ちそうになった時、携帯電話がメッセージの通知音を立て続けに鳴らした。

祖母が入院しているため、苑実は携帯電話の電源を切ったり、マナーモードにしたりすることは決してなかった。

画面が明るくなると、苑実の目に飛び込んできたのは、床に散らばった破片の写真だった。

よく見ると、それは今日、健人が着ていたスーツだと分かった。 彼女が心を込めて仕立てた、あのスーツだ。

写真に添えられていたのは、松浦綾乃からのメッセージだった。「ごめんなさい、お姉ちゃん。 このスーツが、お姉ちゃんが健人さんのために手作りしたものだなんて知らなかったの。 ただの服だと思って、汚れていたから切っちゃった。 怒ってないよね?」

綾乃の探るような口調には、得意げな色がにじんでいた。

苑実が返事をしないのを見て、綾乃はさらにメッセージを送ってきた。 「健人さんは、僕を責めてないって。 ただの服だから、大したことないって」

苑実は、もし返事をしなければ、今夜は眠らせてもらえないだろうと分かっていた。そこで、一言だけ返信した。

「健人さんの言う通りよ。 ただの服だもの。 怒ってないわ。 あなたが楽しければ、それでいい」

画面を消すついでに、苑実は綾乃の番号をブラックリストに登録した。

苑実は嘘をついていなかった。 本当に怒ってはいなかった。

何しろ、この二年間で、こんなことは数えきれないほどあったのだ。

いちいち怒っていたら、とっくに気が狂っていただろう!

再び横になった苑実だったが、どうしても眠りにつくことができなかった。

今の自分を見たら、母はあの世で後悔しているだろうか。

綾乃は松浦家の私生児で、苑実より数ヶ月年下だった。

苑実の母、安藤泉は綾乃の存在を知ると、彼女を海外へ送った。 しかし、長年の苦労と奮闘が、泉の体を蝕んでいた。

そのため、泉が重病に陥った年、松浦隆は杉田圭子と綾乃の母娘を松浦家へ迎え入れた。

泉も、継母のいる生活が楽ではないことを知っていた。 ましてや、隆はもともとろくでもない男だ。

このような状況で、泉は苑実と健人の結婚を決めた。

泉と健人の母、村上美緒が長年の親友だったからだ。

苑実と健人は共に育ったようなもので、さらに美緒との関係もあって、泉は苑実が秋葉家に嫁げば、きっと幸せになれると信じていた。

だが、泉は、人は変わるということを、思いもよらなかった。

泉は亡くなる前、 健人に苑実を大切にしてくれるかと尋ねた。 彼女と美緒の前で、健人は固く誓った。

その誓いは、 苑実でさえ信じてしまうほど、 力強いものだった。

早朝、苑実は強い力で引き起こされて目を覚ました。

目を開けると、怒りに満ちた健人の顔が目の前にあった。

手首の痛みに、苑実は健人を力強く振り払った。 「朝っぱらから、何なのよ?」

「苑実、君は告げ口して、俺の母さんを引っ張り出すことしかできないのか?」

その言葉に、苑実は眉をひそめた。

動画がネットで大騒ぎになっているのだ。 美緒が見ていないはずがない。

健人は美緒から電話を受けると、真っ先に苑実が告げ口したのだと思った。

こんなことについて、苑実は説明する気力さえ無駄にしたくなかった。

ただ、婚約を解消するという決意が、さらに固くなっただけだ。

苑実の沈黙を、健人は肯定と受け取った。 道中、彼は数えきれないほどの冷たい言葉を浴びせた。

だが、秋葉家の屋敷の門をくぐった瞬間、健人はその態度をぴたりとやめた。

彼が瞬時に態度を変えるのを見て、傍らに立つ苑実は思わず白目を剥いた。 自分も見る目がなかったものだ。 こんな表裏のある偽善者だとは、見抜けなかったなんて。

おすすめの作品

見下されていた俺、本当は世界最強の御曹司でした の小説カバー
8.1
神谷家へ婿入りしてからの3年間、逢坂天馬は人としての尊厳を奪われ、奴隷同然の過酷な日々を耐え忍んできた。唯一の心の支えであった妻・千尋の存在が彼を繋ぎ止めていたが、その彼女さえもが裏切り、別の男と関係を持つに至る。絶望の淵に立たされた天馬だったが、それは同時に、彼を縛り付けていた偽りの生活の終わりを意味していた。ついに天馬は、自らの真の素顔を世にさらす。彼の正体は、世界経済を裏から支配する超巨大財閥の正当なる後継者だったのだ。圧倒的な権力と資産を手にした天馬の前に、かつて彼を見下していた者たちの立場は一変する。正体を知り、涙を流しながら土下座で許しを乞う元妻。しかし、冷徹なまでに変貌を遂げた天馬の瞳には、もはや彼女への未練など一片も残っていなかった。どん底から頂点へと駆け上がる、最強の御曹司による鮮やかな逆転劇が今、幕を開ける。裏切りへの対価を突きつける、爽快感あふれる復讐の物語。
冷徹CEO V.S 甘えん坊な嫁 の小説カバー
9.6
母を亡くし、孤独な環境で育ったジェイン。父ヘンリーが後妻を迎え入れたことで、彼女の日常は一変します。義理の兄弟からの執拗な嫌がらせによって父との溝は深まり、ジェインは家族の愛を取り戻したい一心で、父が切望する土地を手に入れるための政略結婚を承諾しました。相手は冷徹な富豪CEO。しかし、自身の過ちや複雑な家庭事情が重なり、最終的に彼女は家族全員から見捨てられてしまいます。絶望の淵に立たされたジェインは、母の死に隠された衝撃の真実を暴くため、命を懸けた調査を開始します。あれは単なる事故だったのか、それとも仕組まれた殺人だったのか。やがて継母の裏切りが発覚し、父の会社が倒産の危機に瀕したとき、彼女は自らの手で会社を救う決意を固めます。そんな過酷な運命の中で再会したのは、かつての恋人でした。彼の差し伸べる優しさに触れ、ジェインの心にはかつての愛情が蘇り始めます。冷徹な夫との結婚生活を維持するのか、それとも新たな愛に生きるのか。愛と復讐が交錯する波乱の物語が幕を開けます。
恋に夢中になる の小説カバー
8.8
幼い頃に実母を自死で亡くしたエミリアは、その後、継母から凄惨な虐待を受けるという過酷な境遇に置かれていた。追い打ちをかけるように、最愛の恋人までもが実の姉に奪われ、彼女の心は絶望に染まってしまう。そんな人生のどん底にいた彼女の前に現れたのが、圧倒的な富を持つ実業家のリューシオンだった。エミリアは、自分を裏切った無慈悲な元恋人への未練を断ち切り、過去を忘れるためだけに、彼との結婚という道を選択する。愛のない形だけの結婚になるだろうと覚悟していた彼女だったが、予想に反してリューシオンは深い慈しみを持って彼女に接し、一途な情熱で彼女を包み込んだ。彼の真摯な献身に触れるうちに、凍てついていたエミリアの心は次第に溶け出し、いつしか二人は本物の愛で結ばれていく。さらに、孤独だった彼女はリューシオンの父親からも温かい父性愛を注がれ、失われていた家族の絆を取り戻していく。これは、深い傷を負った女性が、真実の愛によって救われ、新たな幸せを掴み取るまでの軌跡を描いた現代シンデレラストーリーである。
隠れ才女は、植物状態の夫と結婚した の小説カバー
8.5
妊娠が発覚した矢先、高橋美咲は恋人の裏切りに遭う。彼の心には帰国した初恋の相手が居座り、美咲は社交界の嘲笑の的となった。周囲は偽の令嬢・優月を称賛し、実の令嬢である美咲を泥にまみれた屑のように蔑む。しかし、一族を裏で操り、家族を著名なデザイナーやスターへと押し上げた真の功労者が彼女であることは誰も知らない。恩を仇で返す高橋家は、利権のために妊娠中の彼女を植物状態の男との政略結婚に追い込む。やがて美咲の正体が露見し、一族が後悔に震える中、元恋人は涙を流して復縁を迫る。だが、そこへ冷徹な声が響き渡った。「俺の子供にお前が何の関係がある?」現れたのは、数多の女性を魅了する鈴木家の当主・鈴木翔太だった。彼は優しく美咲を抱き寄せ、静かに連れ帰る。隠された才能を持つ令嬢と、目覚めた覇道な夫。裏切りから始まる逆転のロマンスが幕を開ける。
禁欲御曹司の執愛、もう遅い の小説カバー
9.1
「私を満足させれば、救いの手を差し伸べよう」――卑劣な罠によって破産し、富豪の令嬢から一夜にして男の慰みものへと転落したヒロイン。絶望の淵にいた彼女を救い出したのは、圧倒的な権力と美貌を兼ね備えた冷徹な御曹司だった。彼は彼女に惜しみない寵愛を注ぎ、あらゆる困難から守り抜く。しかし、その献身的な愛の裏側に隠された残酷な真実を、彼女はまだ知らなかった。すべては彼が仕組んだ緻密な計画であり、自分は単なる「利益を生むための駒」に過ぎなかったのだ。裏切りを知り、心を引き裂かれた彼女は彼のもとを去る。月日が流れ、不屈の精神で華麗なる復活を遂げた彼女の前には、多くの求婚者が列をなしていた。かつて自分だけに従順だった女が、他人に微笑みかける姿を目の当たりにし、男は猛烈な嫉妬に駆られる。「どうすれば再び俺の腕に戻る?」と執着を露わに迫る彼に対し、彼女は冷ややかな拒絶を突きつけた。「残念だけど、私はもう別の人の妻なの」
口がきけない花嫁と傲慢社長のすれ違い の小説カバー
8.3
名ばかりの「夫人」として過ごした三年間。周囲から見放され、裏切られ続けた彼女にとって、夫だけが唯一の希望だった。しかし、信じていた彼との生活で待っていたのは、心身を削るような苦痛の日々。最愛の我が子を死産という悲劇で失い、夫の愛人からは露骨な挑発を受ける。あまりに深い絶望を味わった彼女は、もはや誰も愛さないと心に決め、感情を閉ざしてしまった。一方、彼女を意のままに操れる所有物だと思い込んでいた夫は、別れを告げ背を向ける彼女の姿に激しく動揺する。必死に繋ぎ止めようとする彼に対し、彼女は「私たちの関係はとうに終わった」と冷徹に言い放つのだった。涙を浮かべながら、過去の過ちを悔い、関係の修復を懇願する夫。その真摯な姿を前にして、彼女の心は激しく揺れ動く。自分自身の本当の気持ちに従うため、彼女は人生で最後となる大きな決断を下す。これが最後だと自分に言い聞かせ、もう一度だけ、愛という名の残酷で美しい物語に向き合うことを決意したのだった。