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婚約破棄された直後、世界一の大富豪に結婚届を出させられた の小説カバー

婚約破棄された直後、世界一の大富豪に結婚届を出させられた

松浦苑実は、長年にわたり秋葉健人に献身的な愛を捧げてきた。彼の好みに合わせてタトゥーを入れ、身を寄せる場所がない苦境も耐え忍んできたが、その思いは報われなかった。濡れ衣を着せられ周囲から孤立した際も、健人は助けるどころか冷酷に突き放し、幼なじみの女性に謝罪するよう彼女に強要したのである。あまりに無慈悲な仕打ちに、苑実の心はついに限界を迎えた。彼女は迷うことなく婚約を解消し、健人のもとを去る決断を下す。次に彼女が選んだ道は、千億もの資産を継承する大富豪、藤原晴樹との電撃結婚だった。二人の結婚届受理証明書がSNSで拡散され世間を騒がせる中、余裕を失った健人は「復讐のために藤原家の権力を利用しているだけだ」と晴樹を挑発する。しかし、晴樹は愛おしそうに苑実を抱き寄せると、「それがどうした。俺には彼女を支えるための金も権力も十分にある」と冷ややかに言い放つのだった。どん底に突き落とされた令嬢が、世界屈指の富豪の寵愛を受けて新たな人生を歩み出す、逆転のロマンスが幕を開ける。
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「苑実、辛い思いをさせてごめんなさいね」

松浦苑実が秋葉家のリビングに足を踏み入れた途端、手を村上美緒に握られた。

美緒は五十代半ばだが、手入れが行き届いているため、四十代前半にしか見えない。

その手入れの行き届いた顔には、今、心からの痛みが浮かんでいた。

美緒は苑実に対して、これまでずっと悪くはなかった。 この二年間、秋葉健人が何か問題を起こすたびに、美緒は彼女の味方をしてくれた。

だが、その味方というのも、所詮は健人を軽く責める程度のことだった。 何しろ、健人は実の息子なのだから。

今もまた、そうだった。

美緒は言葉を終えるや否や、怒りに満ちた目で健人を睨みつけた。 「このろくでなしが、早く苑実に謝りなさい」

いつもの苑実なら、これまでと同じように「大丈夫です」と口にしていたはずだ。

だが今日、彼女はふと嫌気がさした。 そして、健人が口を開くのを待たず、苑実が先に言った。 「叔母さん、少し頭が痛いので、先に休ませていただきます」

苑実の顔色が青白いのを見て、美緒は慌てて頷いた。 「ええ、休んでいなさい。 食事の時に人を呼ぶから」

頷き、苑実はそのまま二階へと上がっていった。

苑実の姿が階段の向こうに消えると、美緒は不満げに健人を見た。 「一体どういう了見なの。 よりによって松浦綾乃のような私生児と一緒になるなんて」

「母さん、綾乃のことをそんな風に言わないでくれ。 彼女だって江口おじさんの実の娘だ。 それに、そもそも杉田おばさんと松浦のおじさんが出会ったのは、綾乃が生まれる前なんだ」

「あなた……!」

健人の言葉に、美緒は怒りで目の前が真っ暗になった。

深く息を吸い込み、胸の奥で燃え盛る怒りの炎をどうにか抑え込んだ。

再び健人を見た時、美緒の表情はすでに冷静さを取り戻していた。 「あなたと松浦綾乃の間のくだらない痴話沙汰はどうでもいい。 ただ一つ覚えておきなさい。 あなたの婚約者は苑実であり、松浦家の若奥様になれるのも、苑実だけだ」

この言葉を、美緒が口にするのは初めてではなかった。

健人は、もう何度となく聞かされてきた。

だが、今回ばかりは、健人は思わず母親に問いかけた。 「母さん、どうしても苑実を俺に嫁がせたいのは、安藤のおばさんとの約束だからか?それとも……苑実が持っている、あの六割の株のせいか?」

商人は利を重んじる。

美緒も例外ではなかった。

あの時、この婚約を二つ返事で承諾したのは、確かに親友との情もあった。それ以上に、苑実が持つ株が目当てだったのは明らかだった。

松浦グループは泉が一代で築き上げたもの。彼女は早逝したとはいえ、一人娘の苑実に60パーセントもの株を遺していたのだ。

「苑実が松浦グループの株を60パーセント持っていると分かっているなら、もっと彼女に優しくしなさい。 健人、母さんがあなたを不幸にするわけがない。 私がしていることは、すべてあなたのためなのよ」

「苑実を娶って、損はないわ。 容姿にしても、能力にしても、松浦綾乃のどこが苑実に勝っているというの。 これ以上好き勝手な真似を続ければ、苑実があなたに愛想を尽かしてしまう。 母さんが保証するわ、あなたはきっと後悔する。 あなた……」

「もういい、母さん。 やめてくれ。 俺は苑実を娶らないなんて一言も言ってない」

健人は心底うんざりした様子で美緒の言葉を遮り、そのまま二階へと上がっていった。

二階の部屋では、苑実が窓際のソファに身を預け、静かに窓の外の噴水を眺めていた。

傍らに置いていたスマートフォンが、不意に震えた。

送られてきたメッセージを見て、苑実の目に驚きの色が浮かんだ。

それは、シンプルなデザインながらも上品な銀色の結婚指輪の画像だった。 まさに、苑実が好むスタイルだった。

「好きか?」

藤原晴樹からのメッセージを見て、苑実は慌てて返信した。 「これは?」

「好きか?」

相手は、ただ先ほどの質問を繰り返すだけだった。

苑実は数秒黙り込み、二文字を打ち込んだ。 「好き」

メッセージを送った後、スマートフォンはそれきり沈黙した。

電話の向こうの苑実は知る由もなかったが、電話の向こうの男は、その二文字を見て、口元にわずかな弧を描いていた。

その様子に、男の傍らにいた川崎聡は目を丸くした。 「お前が笑うなんて、まさか悪霊にでも取り憑かれたか?」

友人のからかいを聞き、晴樹の口元から笑みが瞬時に消えた。

その素早さに、聡は今のが幻だったのではないかとさえ思った。

「安藤大奥様の容態はどうだ?」

晴樹が言う「安藤大奥様」とは、苑実の祖母のことだった。

自分の患者の話になると、聡の表情は真剣なものに変わった。 「相変わらずだ。 大奥様は心臓の機能が衰えていて、私でも長生きさせるのは難しいだろう」

「名声に胡坐をかいているな」

自分の医術を疑われて、我慢できる医者はいない。 ましてや聡は、国際的に有名な天才医師だ。

普段の冷静沈着な天才医師も、さすがに顔をしかめた。「なんだと!こっちは医者であって、神様じゃないんだぞ!

「安藤大奥様と言えば、一つ分からないことがある。 治療を頼んだのはお前なのに、どうして秋葉家の招待を受けるよう言ったんだ?」

まるで、この天才医師が数億円に目がくらんだ守銭奴であるかのように。

晴樹は聡の質問には答えず、テーブルの上の図面を見つめていた。

それは、一対の結婚指輪の図面だった。 まさに、彼が先ほど苑実に送ったものと同じデザインだった。

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