
覇王の略奪、裏切られた高貴な令嬢を支配する
章 3
理央は激しく咳き込んだ。
口から溢れた赤ワインが、彼女の白い首筋を伝い、鎖骨の窪みに溜まる。その一滴の雫が、まるで血のようだった。
「ん……っ」
翔馬はその隙を見逃さなかった。ワインの香りが漂うキスを、さらに深く沈めていく。
理央は必死に抵抗した。両手で翔馬の硬い胸板を押す。しかし、男の体は岩のように微動だにしない。
翔馬は理央の両手首を片手で掴むと、頭上へ押し上げ、そのまま冷たい窓ガラスに縫い付けた。
背中に伝わるガラスの冷たさ。正面から焼き付くような翔馬の体熱。その温度差が理央の感覚を狂わせていく。
翔馬の唇が、理央の唇から離れ、長くしなやかな首筋へと移っていく。
理央は、呼吸が乱れた。目尻から一筋の熱い雫が滑り落ちる。屈辱の涙だった。
翔馬はそれに気づいた。動きを止め、舌先でそっとその涙を掬い取る。塩辛い味がした。
「悔しいか」
低い声で問われる。その言葉が引き金になった。
理央の中に堪えていた感情が、堰を切ったように溢れ出す。彼女は子供のように声を上げて泣き始めた。裏切られた悲しみ。自分の愚かさへの怒り。全てが混濁し、嗚咽となってほとばしる。
翔馬はしばらく黙って、理央を抱きしめていた。その腕は驚くほど力強く、そして優しかった。
やがて彼女の嗚咽が少し収まった頃、翔馬はその顔を両手で包み込むように持ち上げた。
「もう一度聞く」
彼の瞳が、泣き濡れた理央の瞳をまっすぐに射抜く。
「俺を利用して、あいつらに復讐するか?」
理央は翔馬の目を見つめ返した。その奥には底なしの闇が広がっている。
この男の手を取れば、もう二度と元には戻れない。
わかっていた。
それでも、彼女はゆっくりと頷いた。春臣と楓香の顔が脳裏に浮かぶ。あの二人を許すことなどできなかった。
理央の返事を見て、翔馬の瞳に一瞬、満足げな光が宿った。
彼は理央を軽々と横抱きにし、部屋の中央に置かれたキングサイズのベッドへ向かう。理央の体は柔らかなシルクのシーツの上に投げ出された。
翔馬は自分のネクタイを乱暴に引き抜き、シャツのボタンを一つずつ外していく。
理央はぼんやりとその姿を見上げていた。緊張でシーツを握りしめる指先が白くなる。
やがて、翔馬の体が覆いかぶさってきた。全ての光が遮断される。
ビリッと布が裂ける音がした。理央が身にまとっていた高価なドレスが無残に引き裂かれる。
その音は、静かな部屋の中でやけに大きく響いた。
理央は静かに目を閉じた。もう何も考えたくなかった。痛みと快楽の狭間で、ただこの身を委ねるしかない。
翔馬の動きは覇道的だった。しかしその中に、どこか壊れ物を扱うような慎重さが含まれていることに、理央は気づかなかった。
鋭い痛みが体を貫き、彼女は思わず翔馬の肩に歯を立てる。「うっ」と低く呻く翔馬。それでも彼は怯むことなく、さらに深く理央を求めた。
窓の外の夜景がいつしか闇に溶けていく。部屋の中の温度だけが、ひたすらに上昇を続けた。
裏切りと復讐――二つの感情が渦巻く中で、二人の体は完全に一つになる。
理央は、自ら深い淵へと身を投じたのだった。
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