
彼は、私たちの生まれるはずだった仔犬を差し置いて、秘密の息子を選んだ
章 3
セレーネ視点:
妊娠。癒し手の言葉が、喜びと絶望の残酷な交響曲のように頭の中で響き渡る。
この子狼は私の一部であり、運命の番との絆の産物。
しかし、それは欺瞞の網の中で授かった命だった。
嘘つきの父親と、愚かな母親よりも、もっと良い環境に値する。
医療センターの静かな廊下を歩きながら、私の心は混沌とした嵐のようだった。
ここを去らなければ。今こそ、この子を麗の二重生活の毒から守らなければならない。
角を曲がったところで、私は凍りついた。
20フィートも離れていない場所に、麗がいた。
彼は華蓮を抱きしめていた。彼女は彼の胸で、大げさに泣きじゃくっている。
彼は彼女の髪を撫で、いつも私に使うのと同じ、優しく安心させるような口調で囁いていた。
「大丈夫だ」と彼は言っていた。「心配するな」
私は素早く大きな石柱の陰に隠れた。心臓が、病的な重いリズムを刻んでいる。
「でも、もし彼女が気づいたらどうするの?」と華蓮が泣き叫んだ。その声は、がらんとしたホールにはっきりと響いた。「もし私が、あなたのアルファとしての地位を台無しにしたら?」
麗は低く、見下したような笑い声を漏らした。
「彼女は僕を完全に信頼している。シオリは優秀な建築家だが、群れの政治の複雑さは理解していない。彼女が知ることは絶対にない」
私の血が凍りついた。彼は私のことを、単純で、世間知らずだと思っていたのだ。
「いつ私をあなたのルナにしてくれるの?」と華蓮が迫った。その声は鋭さを増す。「いつ彼女を追い払ってくれるの?」
「彼女を拒絶することはできない」と麗は、きっぱりとした口調で言った。「彼女は月の女神の意志だ。運命の番、特にあれほど…純粋な相手を拒絶することは、他のアルファたちから弱さと見なされる。僕の権威を失墜させかねない。僕には彼女に対する責任がある」
責任。愛でも、献身でもない。天から与えられた雑用。
「だが、君と陸のことは、僕が常に面倒を見る」と彼は約束し、声が再び柔らかくなった。「君は僕に強い世継ぎを与えてくれた、華蓮。そのことは決して忘れない」
彼は彼女の額にキスをし、そして立ち去った。彼の足音が、廊下に響き渡る。
華蓮は一瞬その場に留まり、ゆっくりと、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
そして、彼女の視線が、私が隠れている柱にまっすぐ向けられた。
彼女は私がそこにいることを知っていた。ずっと前から知っていたのだ。
彼女は一瞬、私の視線を捉えた。その表情は、勝利と純粋な悪意が混じり合っていた。そして、くるりと背を向けて優雅に去っていった。
これで終わり。私がしがみついていた、最後の脆い希望の糸が、ぷつりと切れた。
彼の目には、私は義務でしかなかった。彼女と彼女の息子が、彼の選択だったのだ。
冷たく、硬い決意が私の魂に宿った。
この子を、こんな世界に産み落とすわけにはいかない。
私の子狼を、望まれない二番手、壊れた絆を常に思い出させる存在になど、させてはいけない。
私は二本の電話をかけた。
一本目は、人間の世界のプライベートクリニックへ。決してかけることになるとは思わなかった予約を入れた。
二本目は、私の弁護士へ。公式な番の拒絶と絆の解消に関する書類を作成するよう指示した。
センターの外にある月桂樹の木立に座り、呼吸を整えようとしていると、麗の声が私の心に侵入してきた。
*愛しい人、今聞いたよ!君が設計した群れの家の新しい西棟が、正式に完成したそうだね。素晴らしいよ。君は天才だ。*
私は返事をしなかった。
*昨夜は忙しくてすまなかった*、と彼は続けた。その精神の声は、魅力で溢れていた。*北の境界で深刻なはぐれ狼の問題があってね。もうすべて片付いたよ。*
嘘。すべてが。
*僕が留守にした埋め合わせに、今夜、新しい棟で君を称える盛大な祝賀パーティーを開く。僕の素晴らしい番を祝うために。君はそれに値する。*
私の内側は、氷で彫られたように感じられた。感覚が麻痺していた。
*素敵ね*、と私は返した。その声は、かつての自分のかすかなこだまのようだった。
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