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裏切りの果て、私の離婚届 の小説カバー

裏切りの果て、私の離婚届

「早見さん、離婚届の準備を」。親友の桃紗に告げた決意は揺るぎないものでした。夫・慎則と私は理想の夫婦と目されていましたが、その裏で彼は長年私を欺いていたのです。浮気相手は私が目をかけていた後輩バレリーナで、驚くべきことに三年前から向かいのマンションに住んでいました。しかし、何より私の心を打ち砕いたのは愛娘・莉結の変貌です。誕生日に「新しいママがいい」と無邪気に笑い、血判まで押された「関係断絶書」を投げつけられた瞬間、家族への愛情は完全に消え失せました。バレエのキャリアを捨ててまで尽くしてきた歳月は、夫と娘の裏切りによって無価値なものへと成り果てたのです。もはやこの家に私の居場所はありません。私は離婚届に署名し、彼らの前から永遠に姿を消すことを選びました。奨学財団の理事長という新たな道へ進み、失った尊厳と本当の自分を取り戻すための、孤独で気高い再出発が今始まります。
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服部優花 POV:

慎則はそれから, ほとんど家に帰らなかった.

たまに来るメッセージは, いつも同じ内容だった.

「仕事が忙しい. しばらく帰れない. 」

私はもう, 彼の行方を尋ねることはしなかった. 彼の言葉に, 何の感情も抱かなかった.

私の心は, 深い海の底に沈んだかのように, 静まり返っていた.

私の日々は, 変わらず淡々と過ぎていった. 自分のことだけに集中し, 心を閉ざした.

莉結の誕生日が近づいてきた. かつては, 家族三人で盛大に祝っていたものだ.

慎則はいつも, 莉結のために最高のプレゼントを用意し, 私も手作りのケーキを焼いた.

しかし, 今年は違った. 慎則は誕生日にも帰ってこなかった.

莉結は不機嫌だった.

「パパがいないのは, ママのせいよ! 」

莉結はそう言って, 私を責めた. 私は何も言えなかった.

私は何度も慎則に電話をかけたが, 彼は一度出たきり, すぐに切ってしまった.

「忙しいんだ. 莉結の誕生日は, また今度ゆっくり祝ってやる. 」

彼の声は冷たかった. 私はため息をついた.

莉結はますます機嫌が悪くなった. 私は彼女のために, 慎則が気に入っていたブランドのバレエシューズを用意し, 心を込めてケーキを焼いた.

「莉結, お誕生日おめでとう. 」

私は莉結にプレゼントとケーキを差し出した. しかし, 莉結はそれを受け取ろうとしない.

「こんなもの, いらないわ! 」

莉結はプレゼントを床に叩きつけた. 新しいバレエシューズが, 音を立てて壊れた.

私の心臓が, 再び締め付けられる.

「どうしてママはいつもそうなの? ママのせいで, パパは家に帰ってこないんだ! 」

莉結の声は, 私を罵倒するものだった.

「パパは花純さんのことが好きだもん! ママはもう, パパの邪魔よ! 」

莉結の言葉が, 私の心を深く抉った.

「ママなんて, パパの足枷でしかないわ! パパが世界的な振付師になれたのも, 花純さんの支えがあったからよ! 」

莉結は私の目を真っ直ぐに見つめた. その瞳には, 憎悪が宿っていた.

「ママは, いつもパパのキャリアに嫉妬してたじゃない! 自分はもう踊れないからって! 」

彼女の言葉は, 私が最も隠したかった心の闇を暴いた.

「ママは, 自分に両親がいないからって, パパにばかり依存してる! 花純さんみたいに, 自立した女じゃないんだから! 」

莉結の言葉は, 私の心を砕き, 私を地面に叩きつけた.

「ママは, 何の取り柄もないくせに! 花純さんは, バレエも上手だし, パパの仕事も手伝えるし, 何よりパパを笑顔にできるんだから! 」

莉結の顔は, 憎悪と軽蔑に歪んでいた. その表情は, 7歳の子供とは思えないほど残酷だった.

その時, 莉結はテーブルの上の紙切れを掴み, 私に投げつけた.

「これ! パパと花純さんが用意したの! ママはこれにサインして, さっさと出て行って! 」

紙切れは私の足元に落ちた. 私は震える手でそれを拾い上げた.

それは, 莉結と私の「関係断絶書」だった.

莉結の稚拙な文字で書かれたその書類には, 「服部優花は, 星野莉結の母親ではない」と記されていた.

そして, その下には, 莉結の指紋が, まるで血判のように赤く押されていた.

私の心臓が, 激しい痛みに襲われる. 視界が真っ白になる.

「ママなんか, もういらないわ! 私の人生から消えてちょうだい! 」

莉結はそう叫ぶと, 自分の部屋へと走り去った. ドアが激しく閉まる音が, 私の耳を劈いた.

私はその場に立ち尽くしたまま, 動けなかった. 頭の痛みが, 再び私を襲う.

その時, 莉結の部屋から, 花純の声が聞こえてきた.

「莉結ちゃん, 大丈夫? ママがまた何か言ったの? 」

花純の甘ったるい声は, 私の心をさらに深く抉った.

「うん…ママが, 花純さんのこと悪く言うの…」

莉結の泣き声が聞こえてくる.

「大丈夫よ, 莉結ちゃん. 花純さんが莉結ちゃんの新しいママになってあげるから. 」

花純の声には, 確かな優越感がにじんでいた.

私は花純の言葉に, 全身の血の気が引いていくのを感じた. 私の体は, まるで氷のように冷たくなった.

私は莉結にとって, 本当に邪魔な存在だったのだろうか.

私が孤児として育ったから, 莉結は私を恥じているのだろうか.

私がバレエをやめて, 輝かしいキャリアを失ったから, 莉結は私を軽蔑しているのだろうか.

私が慎則の心を引き留められなかったから, 莉結は私を憎んでいるのだろうか.

私の存在は, 莉結を不幸にしているだけなのだろうか.

莉結は, 花純を, 私よりも深く愛している. それが, 全てだった.

私は乾いた笑みを浮かべた. 私の目からは, もう涙は流れなかった.

私はゆっくりと立ち上がり, 莉結の部屋のドアへと向かった. ドアの隙間から, 莉結が花純に抱きついているのが見えた.

私は静かにドアを閉めた.

そして, 莉結の部屋に置いてあった, 彼女への誕生日プレゼントの山に, あの「関係断絶書」をそっと忍ばせた.

「これで, 莉結は喜ぶわ. 」

私の声は, 私自身が驚くほど冷静だった.

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