
七年間の嘘と私の復讐
章 3
篠田瑞紀 POV:
「私のプロジェクトが, あの女のものだと? 」
秘書からの報告に, 私の電話を持つ手が震えた. 姉が命を懸けて作り上げたAI医療診断システム. それは, 私たちの父親が生涯をかけて追求した慈善事業の結晶だった. 父は, どんな人間でも, 貧富の差なく最高の医療を受けられるべきだと信じていた. その理念を継承し, 姉は私と共にこのプロジェクトに心血を注いだのだ.
妊娠中も, 私はこのプロジェクトに深く関わっていた. 和真は, 私が苦しんでいる時も, いつもそばで支えてくれた. その彼が, まさか私の姉の遺産を横取りするとは. 怒りよりも, 深い絶望が私を襲った.
私はすぐに会社に駆けつけた. 秘書が慌てた顔で私を迎えた.
「篠田様, 亜佳里様が…. 」
「分かっているわ. 彼のパソコンのパスワードは知っているから, 入れて. 」
和真のパスワードは, 私の誕生日だった. そんな, ささやかな愛情表現も, 今となっては醜い欺瞞にしか思えなかった.
私が社長室に向かうと, 亜佳里が慌てて廊下から飛び出してきた. 彼女の顔には, 和真と過ごした夜の痕跡がはっきりと残っていた.
「篠田さん, ここはあなたの来る場所ではありません! あなたがプロジェクトに関わるのは, もう和真様がお許しになりません! 」
彼女は私を阻むように, 腕を広げた. その腕には, 和真との関係を誇示するような, 赤い痕が残っていた.
「どいて! 」
私は亜佳里を突き飛ばし, 社長室へと入った. 亜佳里はヒステリックに叫んだ.
「何をするのよ! この泥棒猫! 和真様から離れてちょうだい! 」
その時, 和真が社長室に駆け込んできた. 彼は私を見て, 驚いたような顔をした.
「瑞紀, どうしてここに? 先に帰ったはずじゃ…. 」
私は彼の言葉を遮り, パソコンの画面に表示されたデータを指差した.
「見て, 和真. このプロジェクトのデータ, 異常よ. 資材の仕入れ履歴, 単価, 使用量…すべてが数倍に膨れ上がっている. これは, 誰かが中抜きしている証拠よ. 」
私の言葉に, 和真の顔色が変わった. 亜佳里の顔は, 真っ青になっていた.
「これは…どういうことだ, 亜佳里. 」
和真が亜佳里に問い詰めると, 亜佳里は途端に涙ぐんだ.
「和真様, ごめんなさい. 私, お金が欲しくて…. 私, 貧しい家に生まれたから…. 許してください…. 」
彼女は膝を突き, 和真にすがりついた. 和真は, そんな亜佳里を見て, 同情的な目を向けた.
「和真, 騙されないで. この女はそんな人間じゃないわ. すぐに警察に通報するから. 」
私の言葉に, 亜佳里は怯えたように身を震わせた. その時, 一人の男の子が社長室に飛び込んできた. 彼は私に体当たりし, 私を転倒させた.
「ママをいじめるな! このブス! パパ, この女を懲らしめて! 」
男の子の声に, 私の意識は遠のいた. 頭を強く打ち付けた衝撃で, 目の前が真っ白になった.
「瑞紀, 大丈夫か! 」
和真が駆け寄ってきた. 亜佳里は男の子を抱きしめながら, 私に勝ち誇ったような視線を送っていた.
「和真様, この子を叱らないで. まだ小さいんですもの. 」
亜佳里は, どこか私を挑発するように言った.
「瑞紀, 子供相手に何をそんなに怒っているんだ. 亜佳里, お前は莉世を連れて, 先に帰りなさい. 」
和真は私を責めるように言った. 私は怒りに震えながら, 和真に問い詰めた.
「和真, あなたは何を言っているの? この子, あなたの子供じゃないの? あなたには, 私との間に生まれた莉世しかいないって言ったじゃない! 」
私の言葉に, 和真の顔色が変わった. 彼は一瞬, 怯んだように見えたが, すぐに怒りの表情を浮かべた.
「何を馬鹿なことを言っているんだ! 俺の子供は, お前との間に生まれた莉世しかいない! お前も, 莉世も, 俺にとって大切な家族なんだ! 」
「大切な家族, ですって? あなたは自分の娘にさえ, まだ名前を付けていないじゃないの! 」
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