
隠し結婚の相手は親友のパパ。
章 3
高橋美月は異存なかった。
だが役所へ入籍に行く前に、藤原悠真は彼女を美容室へ連れて行き、トップスタイリストに一からメイクと着付けをやり直すよう求めた。
美月はそこに座りながら、様々な思いを巡らせていた。
彼女は藤原莉乃に結婚することを伝えるべきか迷っていた。もし伝えたら、莉乃は絶対に怒るだろう。
けれど、こんな大事なことを教えなくても、やはり彼女は怒るに違いない。
美月がそう考えていると、莉乃から電話がかかってきた。
彼女は興奮した声で言った。『みっちゃん、今どこ? パパのカードをこっそり抜き出してきたから、これでお兄ちゃんの治療費を払ってよ。お願いだから、私の新しいママになって!』
美月は慌ててスマホの通話口を押さえ、申し訳なさそうに頭を下げた。「すみません、少し電話に出ます」
彼女は立ち上がって大きな窓のそばへ行き、声を潜めた。『どうしてパパのクレジットカードなんて盗んだの? 早く返しなさい。また一ヶ月も外出禁止にされたらどうするの?』
莉乃は18歳で成人したばかりの、会社で最年少のモデルだ。彼女のマネージャーである美月とは関係も良好で、悩みがあれば互いに打ち明け、慰め合う仲だった。
ここ最近、莉乃はずっと「私の新しいママになって」と彼女にせがんでいたが、美月としてはどうすることもできなかった。
莉乃は泣きそうな声で甘えた。『やだ!お願いだよ、みっちゃん。私が毒親になる継母にいじめられて、義理の妹や弟に財産を奪われて、路頭に迷うのを見捨てる気……?』
美月はほだされそうになった。
今の自分がまさにそのような境遇なのだから、莉乃の気持ちが痛いほどよくわかる。
だが、今は悠真がくれたチャンスを掴まなければならない。まずは彼からお金を借りて、地道に働いて返すしかないのだ。
彼女は複雑な感情を押し殺して慰めた。『莉乃、心配しないで。今やってる用事が終わったら、一緒にいい方法を考えてあげるから』
VIPラウンジ。
悠真はソファに座り、冷ややかな表情でお茶を飲んでいた。
上の階でスタイリングを終えて帰ろうとしていた莉乃は、悠真の姿を見つけて驚きながら近寄った。「パパ!どうしてここにいるの? お見合いの時だって、自分を着飾ったりしないのに」
悠真は淡々とした口調で答えた。「入籍に行くんだ」
「はあっ!?」莉乃は一瞬で毛を逆立てた。「誰と!?どこから湧いてきた女!? 歳はいくつ!? どうせパパのお金目当てでしょ!?」
悠真は目線を上げるのも億劫そうに言った。「向こうは金に困っていて、俺には金がある。ちょうどいいだろう」
莉乃は歯をギリギリと鳴らして怒った。「絶対に認めないからね!パパは私の親友と付き合えばいいじゃん。彼女は賢くて仕事もできるし、それに私にもすごく優しいんだから」
悠真は冷たい顔で言った。「断る」
莉乃はすかさず凄んだ。「もしそんな女を家に迎え入れる気なら言っておくけど、一週間以内に、家の門すらまたげないようにしてやるからね」
「俺から盗んだカードを返せ」 悠真は視線を上げて彼女を見た。
莉乃は顔色を変え、涙ぐみながら悠真を説得しにかかった。「パパ、継母が実の娘をどんな目に遭わせるか分かってるの? どうして私に相談もなく結婚なんてしちゃうのよ?」
そう言い合っていると、美月が階段から降りてきた。
彼女は純白のフレンチチュールドレスを身にまとい、長い髪を下ろし、優しく清楚な雰囲気を漂わせていた。
悠真は見上げた途端、思わず見とれてしまった。
彼が丹念に選んだドレスは、みつによく似合っていた。
莉乃も振り向いて美月を見るなり、目を丸くした。「みっちゃん!」
「莉乃!」美月もその場で立ち尽くした。
なぜ莉乃が悠真の隣にいるのか、彼女にはさっぱりわからなかった。 ーーもしかして、悠真は莉乃のお兄さんなのだろうか?
悠真は少し眉をひそめた。「知り合いか?」
「この人が私の親友だよ」 莉乃は得意げに悠真へ紹介した。
悠真は一瞬言葉を失った。
彼自身、莉乃から美月のことを何度も聞いていたが、一緒に食事に行こうと誘われるたびに断っていた。
もしもっと早く誘いに乗っていれば、彼のみつがこんなにも身近にいたことに、もっと早く気づけたかもしれないのに。
美月は二人の関係に気づかないまま、ドレスの裾をつまんで降りてきた。
莉乃の隣に立つと、声を潜めて言った。「莉乃、ごめんね。この人がびっくりするくらい大金を出してくれるから、私、彼と結婚することになったの」
莉乃は真剣な口調で尋ねた。「いくらもらったの?」
美月は正直に答えた。「兄の治療費として1億円立て替えてくれて、毎月の生活費が最低2000万円」
莉乃は突然キレて、悠真を振り向き睨みつけた。「パパ!どうして私のお小遣いは2000万円がせいぜいなのよ!」
「……パパ?」 美月はその場に凍りついた。聞き間違いではないかと自分の耳を疑った。
莉乃は美月を引っ張って悠真の前に出た。「みっちゃん、紹介するね。これが私のパパ。37歳の独身貴族だよ」
美月は恐ろしくて悠真の顔を見られず、気まずそうに挨拶した。「藤原社長」
まさか、あの日寝た相手が、親友のパパだったなんて!なんて因果なことなの!
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