
永久不妊、残酷な宣告
章 2
高鳴る心臓の音を抑えながら, 私は「ホテル・ロイヤル黒木」のロビーに足を踏み入れた. 華やかで洗練された空間は, 日頃メディアから距離を置いている私には少し場違いに感じられた. 遼佑の邪魔にならないよう, いつも通りの質素な服装を選んだ.
私はそのままエレベーターに乗り込み, 遼佑のオフィスがあるフロアへと向かった. 早く彼の驚く顔が見たい. その一心で, 私はほとんどスキップするように廊下を進んだ.
社長室のドアの前まで来ると, 私は深呼吸をした. サプライズを成功させるために, 少しだけ時間をかけた. ちょうどドアノブに手をかけようとしたその時, 背後から冷たい声が聞こえた.
「どちら様ですか? ここは関係者以外立ち入り禁止です. 」
振り返ると, 見慣れない女性が立っていた. 彼女は完璧なメイクと着こなしで, 見るからに有能そうな雰囲気を纏っていた. だが, その瞳には, 私を見下すような冷たい光が宿っていた.
「あの, 私, 黒木遼佑の妻の…」言いかけたところで, 私は言葉を飲み込んだ. 遼佑は, 私の安全のため, ホテルのスタッフには私が彼の妻であることを伏せるよう徹底していた. 公私混同を嫌う彼の立場も理解している. だから, 私はいつも「黒木社長の知り合い」とだけ伝えていた.
私は手に持った弁当箱を少し見せた. 「あの, 夫に, お昼を届けに来たんです. 」
しかし, 女性の表情は変わらない. むしろ, さらに蔑むような視線を私に向けた.
「社長にお弁当? ずいぶんご熱心なこと. 社長は今, 大変お忙しいの. そんな暇な真似をしている場合ではありません. 」
彼女の言葉は, まるで鋭い氷の刃のように私の心を突き刺した. 私はただ, 遼佑に会いに来ただけなのに.
「私が預かってお社長にお届けしますから, あなたはもうお帰りなさい. 社長のお邪魔になるだけですわ. 」彼女は腕を組み, 私を追い払おうとする.
私は首を振った. 「いいえ, 直接渡したいんです. 少しだけで構いませんから, 通してください. 」
「あら, ご自分が誰だとお思いで? 私はこのホテルのVIP担当総支配人, 高田由佳李よ. 私に逆らうつもり? 」高田は高慢な態度で私を睨みつけた.
「ですが, 私はこの弁当を彼に... 」
「しつこい女ね! 社長に近づく汚い女は, 私が排除するのよ! 」高田の顔が怒りで歪んだ. 彼女は突然, 私の手から弁当箱をひったくった.
「あなたのような底辺の人間が, 社長にふさわしいとでも思っているの? その安っぽい服装, みすぼらしい身なりで, 社長の妻だとでも言いたいのかしら! 笑わせないで! 」
高田は弁当箱を乱暴に振り回した. 「この狂った女をどうにかしなきゃ, 社長に迷惑がかかるわ! 」
高田は私の腕を掴み, 乱暴に引っ張った. 私は抵抗したが, 彼女の力は想像以上に強かった. バランスを崩し, 私は近くの会議室へと引きずり込まれた.
ゴンッ!
会議室のドアが乱暴に閉められた. 重い音が, 私の心臓に直接響くようだった. 目の前で高田の顔が憎悪に満ちた表情に変わるのが見えた.
次の瞬間, 私の頬に激しい痛みが走った. バチン! という音と共に, 高田の手の跡が熱く残った. 私は何が起こったのか理解できず, 呆然と立ち尽くした.
「この痴女が! 社長に色目を使うなって言ってるでしょう! 」高田はさらに数発, 私の頬を叩いた. 私の顔はみるみるうちに腫れ上がり, 視界が歪んだ.
私はよろめき, その場に倒れ込んだ. 目の前で高田の足が振り上げられる. 鈍い衝撃が私の頭を襲った. 私は頭を抱え, 必死に身を守ろうとした.
「きゃっ! 」
再び, 足が私の腹部を狙って振り下ろされる. 私はハッとした. お腹の子!
「やめて! お願い, お腹だけは! 」
私は必死に叫び, 両手で腹部を抱きしめた. この小さな命だけは, 絶対に守らなければならない.
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